Edogawa Ranpo ou les labyrinthes de la modernité japonaise〔江戸川乱歩、あるいは近代日本の迷宮〕
平成28・2016年10月14日
Université Paris Diderot (Amphithéâtre Buffon)〔パリディドロ大学ビュフォン棟〕
平成28・2016年10月15日
Maison de la culture du Japon à Paris(petit auditorium)〔パリ日本文化会館小ホール〕
一日目
1. RANPO, LE CHAMP LITTÉRAIRE (1923-1965)〔乱歩と文学の「場」(1923年―1965年)〕
Cécile SAKAI、落合教幸、浜田雄介、SAITÔ Satoru、KAWANA Sari
2. RANPO, SES MAÎTRES ET SES PAIRS〔乱歩の師たちと仲間〕
Luisa BIENATI、J. Keith VINCENT、William GARDNER
3. AU-DELA DE RANPO – Images et subversion –〔乱歩をこえて──映像と背徳──〕
巽孝之、中村三春、中川成美
二日目LES TRENTE-SIX VISAGES DE RANPO〔乱歩二十面相〕
Géraid PELOUX、Miyako SLOCOMBE、Mathieu CAPEL、Thomas LOOSER、Livia MONNET
RÊVES ET FOLIE D’UN ÉCRIVAIN〔小説家の夢と狂気〕
桐野夏生
講演会
EDOGAWA RANPO ET DOSTOÏEVSKI la voie étroite entre le roman policier et la grande littérature〔江戸川乱歩とドストエフスキー 文学と探偵小説の狭間〕
高野史緒
10月13日
パリディドロ大学
展覧会
EDOGAWA RANPO, L’ÉCRIVAIN ET SES MASQUES〔江戸川乱歩 仮面の魔術師〕
10月14日─29日
パリ日本文化会館
映画
EDOGAWA RANPO AU CINÉMA〔江戸川乱歩映画館〕
10月18日─28日
パリ日本文化会館
La bête aveugle〔盲獣〕/La maison des perversités〔屋根裏の散歩者〕/Le nain〔一寸法師〕
▼Maison de la culture du Japon à Paris:講演会|EDOGAWA RANPO OU LES LABYRINTHES DE LA MODERNITÉ JAPONAISE
▼Maison de la culture du Japon à Paris:展覧会|EDOGAWA RANPO, L’ÉCRIVAIN ET SES MASQUES
▼Maison de la culture du Japon à Paris:映画|EDOGAWA RANPO AU CINÉMA
▼Maison de la culture du Japon à Paris:講演会|NATSUO KIRINO - RÊVES ET FOLIE D’UN ÉCRIVAIN
いやー、あくせくしてるあいだに今年も乱歩のお誕生日がやってまいりました。
乱歩といえば、『奇譚』。お誕生日を迎えて藍峯舎版『奇譚』の進行状況は、と申しますと、ちょうど印刷屋さんから再校があがってきたところです。
ちなみに、序文四ページ、本文百三十二ページ、といった感じで、巻末には引用英文の訳文、人名索引なんかが入ります。
以前、このエントリで──
▼2016年9月12日:索引について少々
人名索引には書名、作品名を添えるとお知らせいたしましたが、煩瑣なわりに無意味なのでとりやめました。
10月18日の火曜日にようよう書きあげて送信した私の解題は、手直しをしてきょう最終的に完成いたしました。
わざわざきょう脱稿ということに持ち込んだような気もいたしますが、ともあれ末尾に、
(二〇一六・一〇・二一)
と日付を入れております。
さ、校正しよっと、と思いますけど、今度は鳥取で地震ですか。
なんか、不吉なお誕生日になってしまいましたけど。
10月も4日となりました。
来月刊行予定の藍峯舎版『奇譚』のほうは、初校ゲラの直しを提出して版元との打ち合わせを終えたところです。いったいどんなことを打ち合わせているのかというと、たとえば先日のこのエントリ。
▼2016年9日6日:Bengison、Bendison、Bendisn
黒岩涙香訳「幽霊塔」の原作者は Bengison でも Bendison でもなくて Bendisn であると結論した次第でしたが、明治34年に扶桑堂から出た『幽霊塔』全三冊を仔細にチェックすると、前編はたしかに Bendisn だが後編と続編は Bendison であり、これは前編のスペルミスが訂正されたものと判断すべきではないか、と版元から指摘がありましたので、なるほど、ということで Bendison と表記することにいたしました。
国立国会図書館デジタルコレクションからダウンロードした前編の本文冒頭と奥付のJPG画像がこちらです。
つづいて後編。
これが続編。
図書館関係のデータを調べてみると、前編に準拠して Bendisn になってます。
▼NDL-OPAC:幽霊塔 : 奇中奇談
しかし藍峯舎版『奇譚』は、前編、後編、続編の三冊にもとづく総合的判断の結果、あくまでも Bendison で行くことになっておりますので、Bendison という表記を目にして、あ、まちがってやんの、とかいわないでくださいね。
以上、『奇譚』に関するお知らせはここまでとして、次は半年あまり前のこのエントリ。
▼2016年3月21日:名張はなにだが鳥羽もあれだぞ
▼2016年3月24日:乱歩の出会いがあった島、恋愛成就でアピールへ
▼2016年3月25日:恋文で坂手島PR 「恋する鳥羽の会」設立総会
▼2016年3月26日:市民グループ|「恋する鳥羽の会」設立 坂手島活性化へ総会 /三重
▼2016年3月28日:鳥羽恋文大作戦顚末
▼2016年6月10日:鳥羽の女王をゲットしよう
▼2016年6月12日:恋文|「短い、みじかい恋文」募集 乱歩のラブレターにちなみ 坂手島の活性化へ40字以内で 鳥羽の市民グループ /三重
恋する鳥羽の会による恋文募集、締切が10月8日の土曜日に迫りました。
四十字以内の短い恋文を応募して、賞金十万円と鳥羽の女王をゲットしてください。
公式サイトの送信フォームから、いとも簡単に応募できます。
▼恋する鳥羽の会:応募規定
ちなみに私、なーにいいかげんなことほざいてんだこのすっとこどっこい、と読売新聞のウェブニュースに記されていた事実誤認を名張市企画財政部総合政策室の迅速かつ的確なご協力のもと、三重県が誇るネットワーク、乱歩都市交流会議の連絡網を利用して恋する鳥羽の会に指摘したのが機縁となり、上のページの応募規定に明記されておりますとおり、恋文募集の審査員を仰せつかってしまいました。
恋文は誰に宛てたものでもいいそうですから、私への恋文を書いて応募してくださったかたには、魚心あれば水心、最高のお点をさしあげたいと思っております。
ただし女性に限る。
つづきまして、名張市が誇るご町内イベント、
このポスターによれば、9日の日曜には「乱歩の世界」と「謎解きクイズラリー『怪人二十面相からの挑戦状』」があるそうですから、乱歩ファンのみなさんは全国各地からふるってご参集ください。
私は参集しませんけど。
ウェブニュースでは「台風16号は温帯低気圧に変わりましたが、気象庁はこれまでに大雨となった地域では引き続き土砂災害などに警戒するよう呼びかけています」とか「台風16号の接近に伴う雨の影響で、東京電力福島第一原子力発電所では、護岸付近の地下水の水位が上昇し、汚染された水が港湾内にあふれ出るおそれが高まったということで、ポンプでくみ上げるなどして流出を防ぐ対策を進めています」とか報じられていますが、台風の夜、いかがでしたか。
うちのほうはどうということもなくて、かといって台風一過と呼べるほど爽快ではない朝を迎えました。考えてみれば私など、年が明けてからこのかた、乱歩という名の奔流に翻弄されつづけている身ですから、台風ごときでおたおたするものではありません。
台風の被害に遭われたかたにお見舞いを申しあげ、一日も早い復興をお祈りする次第です。
ウェブニュースには「台風16号 和歌山に再上陸 近畿や東海で非常に激しい雨」「三重 亀山市 4848人に避難勧告」といった見出しが躍っておりますが、名張市内には避難勧告は出ておりません。
というか、当地では風雨のピークも過ぎたようで、夕方になって空が明るさを増してきたみたいな印象さえ感じられます。
以上、台風にも見放された土地からお伝えいたしました。
見放されていない土地のみなさんはくれぐれもご注意ください。
また『奇譚』の前宣伝ですが、きょうは索引のおはなし。
「伊賀一筆」創刊兼終刊号には収録しませんでしたけど、『奇譚』の索引はずいぶん面妖なものです。「あ」の項目はこんな感じ。
(ア)
Andreiyeff(Andreev)
朝鳥
愛花(岡村)
愛花(三木)
篤胤
Argyle伯
Aristagoras
ご覧のとおり和洋混在で、姓名の儀は姓なしの名前だけ、しかも「愛花(岡村)」は「愛蔵(岡村)」の誤りだし。
ですから、索引は全面的に改めました。
前宣伝の一環として、むろんまだノンブルは入ってませんけど、というか版元にもまだ試作品の原稿を提出しただけなんですけど、索引の全容をPDFファイルでどうぞ。
国内の人名には書名、作品名の索引を附しました。
外国の人名でそれをやると量が膨大になりますし、そもそも作品名は人名の出てくるページあたりにずらずら列記されてることが多いですから、そんなものにわざわざ索引つけなくたっていいだろう、ということにいたしました。
余白や欄外の追記に記された人名も拾いましたので、森下雨村なんかの名前も出てきます。
乱歩が立項していなかった「父」「母」あたりも、適宜新たにピックアップいたしました。
乱歩が「誰カ」「某氏」などとしている人名は、本文の脚註に姓名を記し、索引にはその姓名を( )でくくって記載して、本文には出てこない名前であることを示しました。
人名を眺めているだけで、早く『奇譚』読みたい、という気持ちになること請け合いですけど、11月までお持ちください。
というか、早く解題書かなきゃ。
5月に勉誠出版から出た『浅草文芸ハンドブック』を遅ればせながらぱらぱらと眺めていて、こんな本が出ていたことを知りました。
▼文藝春秋BOOKS:浅草色つき不良少年団作中に乱歩が登場するそうなんですけど、私は全然知りませんでした。
アマゾンで一円の古書が売られてましたので、さっそくポチした次第ですが、気になるお値段が一桁とはなあ。
さてこちら、定価未定ながら堂々の五桁価格で世に送られるはずの藍峯舎版『奇譚』。
『奇譚』を書いた平井太郎青年のちょうど三倍馬齢を重ねてしまっている私としては、原文はCD-ROMでつぶさに知ることができるのだから、百年前の乱歩の著作を現代の読者に違和感なく親しんでもらえるテキストにリメイクしようと考えました。
ですから、漢字をかなに開き、読点を補い、頻出する英単語は、外来語として定着している plot なんかはプロットとカタカナ表記にし、そうではない deduction あたりは
送り仮名の不統一も目につきます。
「斯ル」と「斯カル」がどちらも使用されていて、これはどちらかに統一する。
というか、この場合は「かかる」とかなに開きますから、送り仮名の不統一は関係なくなります。
といったあんばいで、ほかにもいろいろテキストに手を加え、手間も時間もたっぷりかけて、読者にやさしい『奇譚』の本文ができあがったわけですけど、作業を終えて初めて、ああ、自分はなんて傲慢な真似をしていたのだろう、いくら若書きの手製本とはいえ、いくらこちらが三倍もよわいを重ねているからといって、ここまで手を加えるのはやり過ぎだ、天人ともに許さぬ所業じゃ、ということに気がつきました。
ですから、それまでの方針をすべて放棄し、原文を平仮名表記の現代仮名遣いにして漢字は新字体とする、という単純な作業を一から始める仕儀となりました。
重ねた苦労がすべて無に帰してしまった悲劇。
悲哀と絶望。
あほらしいやらなさけないやら。
なにが悲しゅうて六十三の春から夏を『奇譚』漬けで過ごさなあかんねん。
わてほんまによゆわんわ。
みたいなことを考える余裕すらありませんでしたけど、気がついてみればもう9月も中旬。
二年前のいまごろはふうふういいながら「伊賀一筆」創刊兼終刊号の編集作業に追われていたわけですが、二年後にまた『奇譚』のお仕事をすることになろうとは、お釈迦さまでもご存じなかったと思います。
むろん私も存じませんでした。
とはいえ、まだ索引と解題の原稿が残ってますし、校正にも力を入れなければならんわけですけど、きょうはもう散歩とビールにしよっと。
ちなみに、来年も乱歩人気は継続しそうな勢いです。
廻天百眼劇場本公演『悦楽乱歩遊戯』上演決定!原作・江戸川乱歩 脚本/演出・石井飛鳥
— 石井飛鳥 (@ishiiasuka) 2016年9月8日
究極の闇と猟奇がいま、幕を開ける!
出演者・スタッフを大募集開始です!https://t.co/i3rYgxW0kA#百眼 #悦楽乱歩 pic.twitter.com/s6ZgO4dKKd
年内にはこんな催しも。
「パノラマ・ジオラマ・グロテスクー江戸川乱歩と萩原朔太郎」
— yasu_kum (@yasu_kum) 2016年9月9日
萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館
◇萩原朔太郎生誕130年記念特別企画展2016年10月1日~12月18日
写りが良くないですが、チラシをいただいたので… pic.twitter.com/Z4hxalGLGs
しかし、いまから飲んだら「真田丸」のころにはべろべろだろうな。
いっこ前のエントリに掲載した朝日新聞の「青鉛筆」は平山雄一さんからご提供いただきました。
長谷川泰久さんからはこれが出るとご教示いだきました。9月5日発売【江戸川乱歩傑作集 孤島の鬼】
— 長田ノオト (@OsadaNot) 2016年9月2日
\(^Q^)/ すでに売ってるamazonさん&書店さんもあるみたいだけどww 一応w「発売日」まであと2日っ pic.twitter.com/dBDRFm1w0r
あいかわらずいろんな人にお助けいただいております。
どちらさまも今後ともよろしくお願い申しあげます。
さて、『奇譚』の件。
CD-ROMではなくて紙の本のほうは、むろん原本どおり横組みですが、本文はカタカナ表記をひらがな表記に改め、現代仮名遣いとして、漢字は新字体ということになります。
原本のサイズは縦二〇五センチ✕横一三〇センチで、A5サイズがややほっそり窶れたような体裁ですが、藍峯舎版はA5判です、と告知されております。
読者諸兄姉すでにご承知のとおり、原本の全ページはCD-ROMでご覧いただけますから、しかも大変鮮明な画像としてご覧いただけるはずで、これはもう講談社の江戸川乱歩推理文庫59『奇譚/獏の言葉』なんかとは比べものになりません。
文庫版では文字が黒く塗りつぶされているとしか見えなかったところが、じつはたぶん煙草の火による焼け焦げであったり、欄外の追記に小さな字で記されていた「断続」が、画像を拡大して目を凝らすと「聯続」であったことがわかったり、とにかく原本が気軽に読めるのですから、新しい『奇譚』は大正5年の発行から百年後の読者にも違和感なく読んでもらえるものにするべきだろうと私は考えました。
乱歩だって晩年の桃源社版全集では、漢字をかなに開いたり、「相違ない」を「ちがいない」と改めたり、読者にやさしいテキストとするため本文に手を加えているわけですから、『奇譚』のテキストを読みやすくするのは乱歩の意にも適うことではないのか。
『奇譚』をつくったとき乱歩は満二十一歳で、私はちょうどその三倍、誰の齢かと思っちゃう六十三歳なんですから、誰がなんといおうといまや乱歩の大先輩、てゆーかもう老人じゃねーかくそったれ、とにかくこれはもう「黙れこわっぱ」みたいな感じで作業を進めてもいいであろうな、と私は考えたんですけど、これが悲劇のはじまりでした。
台風の影響はいかがでしょうか。
当地は雨もあがり、朝から涼しい一日。犬と散歩してると風がやや強いことが実感されましたが、それはもう完全に秋の風でした。
東北地方のみなさんは、どうぞ存分にご注意ください。
さて、どこで売ってるのやろ、と気にはかかりつつほったらかしのこの件ですけど。
巻頭企画は、「夏の夜のミステリー」。ミステリー評論家の日下三蔵氏(@sanzokusaka)、千街晶之氏(@sengaiakiyuki)、文芸評論家の杉江松恋氏(@from41tohomania)が、江戸川乱歩を中心に、今昔話題のミステリーを語り合います。
— 銀座百点編集部 (@ginza100ten) 2016年7月25日
これもまた忘れてしまいそうなので、いっこ前のエントリにわかるところだけ記載しておきました。
それから、同じくどこで売ってるのやろのこちらの件。
もう買うしかないな。22、3才の頃、隣の机にいた鳥海さんに藤田さん何読んでるのと聞かれて乱歩と答え、ふふふとか言われたが推理探偵小説が大好きだった。
— 藤田重信 (@Tsukushi55) 2016年7月25日
今、筑紫アンティークや筑紫B明朝が乱歩の作品に使われているのは感慨深いものがある。 https://t.co/Oo3sbmpjKX
主催団体の公式サイトにメールを送り、通販OK? とお訊きしてみたんですけど、梨のつぶてでしたからこちらもほったらかしのままです。
こうした公刊とは呼べないものまで含めて、乱歩パブリックドメイン元年の今年、乱歩の著書や関連書がなんだか無節操に雨後の筍のごとく竹藪の藪蚊のごとくこれでもかこれでもかと出回った印象がありますが、そのことごとくをあっさり蹴散らしてしまう『奇譚』の話題です。
▼藍峯舎:Home
藍峯舎のサイトでも紹介されているとおり、この『奇譚』には原本のスキャン画像を収録したCD-ROMがおまけについてます。
おまけというか、こちらがメインといってもいいわけですけど。
むろん表紙から裏表紙までまるごと画像化され、本文は見開き単位で収録。
しかもスキャン画像には同サイズの翻刻文が、やはり見開きで添えられていて、パソコンで開くとこんな感じになります。
むろん画像は拡大可。
一刻も早く見てみたいとお思いでしょうけど、世に出るのは11月の予定です。
忙しい忙しい、ああ忙しい、とか思ってるあいだに「TRICKSTER」が連載されてる「マガジンSPECIAL」、9月号は買ったんですけど8月号を買いそびれていたことに気がつきました。
このまま忘れてしまいそうな予感もいたしますので、とりあえずいっこ前のエントリに8月号のデータ、わかるところだけ記録しておきましたけど、あれは増刊として発行されてるわけですから、巻数はわかっても号数はわからない。本屋さんに取り寄せてもらえばいいんですけど、いつかも記しましたとおり、最近その手のことが億劫でしかたがありません。
寄る年波というやつでしょうか。
あるいは猛暑の疲れか。
いずれにせよどうにもすっきりしない台風前夜です。
というか、朝なんですけど。
さて、一昨年は乱歩生誕百二十年、昨年は乱歩没後五十年、そして今年は奇譚百年ということになりました。
乱歩が早稲田大学の卒業を控えた大正5年3月に完成させた手製本『奇譚』が、ちょうど百年の時を隔てて世に送られます。
時をかける乱歩。
愛は輝く舟。
表紙がこれです。
藍峯舎第六弾!
— 古書きとら Old&Rare Books (@kosho_kitora) 2016年8月28日
江戸川亂步『奇譚』限定250部記番入
『大亂步』のすべての源泉がここにある!
伝説の『稀書』の全貌が、100年の時を超えついに公開される!https://t.co/8mp0iw0kOX
2016年11月刊行予定! pic.twitter.com/hofWqKBav2
百年も前の手製本の表紙だとはとても思えない鮮やかさですけど、原本のスキャン画像を画像加工ソフトでリメイクしたものででもありましょうか。
私にはよくわかりません。
というか、私はまだただの一度も『奇譚』の現物を目にしたことがありません。
こんなことでいいのか、とも思いますけど、こんなことでも『奇譚』書籍化の作業がすらすら進むのですから、関係方面における技術の進歩には瞠目すべきものがあります。
で、『奇譚』とはなにか。
乱歩の処女作なり、ということになります。
むろん小説の処女作は「二銭銅貨」なんですけど、あれはなんとも処女作らしくない処女作なのではないかしら。
この世には処女作にまつわる根拠のさだかならぬエピグラムめいたフレーズが存在していて、試みに「処女作には」でグーグル検索したところ、トップでひっかかってきたのがこれでした。
▼愛・蔵太の気になるメモ(homines id quod volunt credunt):「処女作にはその作家のすべてがあると言われているが」って、いつ誰がどこで何時何分何秒に言った!(2006-08-27)
いわく、処女作には、その作家のすべてが出揃っている。
またいわく、処女作にはその作家のすべてが詰まっている。
またまたいわく、処女作には、その作家のすべてが表れる。
またまたまたいわく、処女作にはその作家の今後のすべてが含まれている。
またまたまたまたいわく、処女作には、その作家の初心がこもっている。
またまたまたまたまたいわく、一人の作家は、彼の処女作の呪縛から終生のがれることはできないのだ。
またまたまたまたまたまたいわく、作家は処女作に向かって成熟する。
またまたまたまたまたまたまたいわく、処女作は作家の人生まで支配する。
またまたまたまたまたまたまたまたいわく、処女作には、その作家のすべてが含まれている。
といったようなことが巷間いい伝えられているらしいんですけど、私にはもうずいぶん以前から、「二銭銅貨」という作品はどうもそうした処女作伝承からかなりはずれた場所に位置しているのではないかという気がしておりました。
むろん、いかにも処女作だ、みたいなことをいってる人もいて、新潮文庫『江戸川乱歩傑作選』の解説で、ちなみにこれは昭和35年に執筆された文章ですけど、荒正人はこんなことを記しています。
なお、結末のどんでん返しは、乱歩が得意とするもので、その後繰り返し使っている。処女作には、作家の本質がおのずと現れるものらしい。
ちょっと乱暴な論断ですけど、それはさておき、小説のみならず評論や翻訳、あるいは書誌といった乱歩の文業全体を視野に入れて考えれば、「二銭銅貨」ではなくて『奇譚』こそが処女作、みたいなことになるのではないかと思われます。
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