身辺整理がまだ終わりません。
とにかくもういろんなものを処分していて、何年か前に話題になった断捨離とはこのことかと得心している次第です。身辺整理は終わらなくても、こっちのほうは終わらせておきたいと思います。
▼2017年3月28日:検閲と名張 前篇
▼2017年4月09日:検閲と名張 中篇
水沢不二夫さんの「検閲官生悦住求馬小伝」から、「一 生悦住の出自」のつづきを最後まで引用。
父親は桑名警察署(内勤)や久居市の農林学校、鈴鹿市の神戸中学(現、高等学校)の事務長などを務めており、その関係からか生悦住の出生は久居市であったらしい。生悦住と夏見の生悦住本家との関係の詳細は不明だが、父親は伊賀に葬られている。母方の祖父は桑名市新地に住み、多度神社の神職であった。
生悦住は三重県第一中学校(現、津高等学校)を月謝免除の特待生で卒業し、校長推薦で第八高等学校文科甲類に進み、二年時から特待生となった。同級には穂積秀次郎がいた。
一九二一年(大正一〇)、東京帝国大学法学部英法科に入学し、穗積秀次郎と再会する。秀次郎は憲法学者穂積八束 の次男で、八束は兄の民法学者陳重 とともに法曹界の重鎮である。両者ともに東京帝国大学法科大学長を務め、司法試験や高等文官試験も采配し、内務省の人事も蔭で掌握していた。生悦住はその八束の家に下宿人として転がり込む。この瞬間に生脱住の官僚としての将来が約束されたと言ってもよいだろう。
もちろん生悦住は私的コネクションだけで官僚になっていくのではない。三年時在学中に高等文官試験に合格するという快挙もなしている。入省後に受ける者も珍しくなかったから、官僚のなかでもまさにエリートである。やがて生悦住は三重県内務部長岸本康通のツテを辿り、内務省人事課長佐上信一に幾度も面会し、採用試験に至る。佐上は岡山、長崎県知事を経て地方局長となり、そのあいだ生悦住の人事ばかりか結婚まで面倒を見ることになる。
生悦住の学業は一九二三年(大正一二)の関東大震災後の混乱で卒業式もなく終わった。政府は一一月には「国民精神作興に関する詔書」を発し、時代は大正デモクラシーから政府主導の〈思想善導〉に移行していく。「教育勅語」や「戊申詔書」に続き、詔勅という憲法、法律を超越した審級による国民国家の道徳、精神、教養の質の枠組みが補強、新造されたのである。この証書は第一次大戦後の風俗の弛緩、動揺の矯正を目的とするものであった。生悦住はこうした政府による言論統制、思想統制、そして思想誘導の流れに身を投じていく。
生悦住の警保局図書課での仕事は四期に分けられる。①初任時の見習いの「属 」、②調査担当事務官、③検閲・企画担当事務官、そして④課長の時期である。
たしかに名張市夏見は生悦住一族の本貫で、住所でポン! してみたら生悦住さんは五軒ありました。
ただしこの生悦住求馬、水沢さんが「出生は久居市であったらしい」とお書きのとおり、名張生まれではありません。
ウィキペディアは「久居市に生まれる」と断定しています。
▼ウィキペディア:生悦住求馬
ちなみに久居市は平成18・2006年、市町村合併で姿を消し、現在は津市になっております。
どうもこの生悦住求馬みたいなエリート、名張なんてとこには生まれそうもありませんが、とにかく現在の名張市に生まれた探偵作家の作品を、現在の名張市に本家があった内務官僚が取り締まり、文庫本一冊を発禁処分に追い込んだのですから、なんとも奇しき因縁だという気がいたします。
もっとも、生悦住はたぶん乱歩が名張生まれだということは露ほども知らず、そもそも探偵小説なんて低俗なものだと頭から軽蔑していたのではないかと想像されます。
全篇はこちらでどうぞ。
▼森話社:日本文学[近代]|検閲と発禁 近代日本の言論統制
かなりお高い本ですから、図書館をご利用いただくという手もあります。
乱歩の変身 江戸川乱歩セレクション
江戸川乱歩
平成29・2017年4月20日初版一刷 光文社 光文社文庫
A6判 カバー 348ページ 本体640円
カバーイラスト:問七
カバーデザイン:bookwall
覆面の舞踏者
初出:婦人の国 大正15年1月号(2巻1号/1926年1月1日)→2月号(2巻2号/2月1日)*2回連載
変身願望初出:探偵倶楽部 昭和28年新春特大号(4巻1号/1953年2月1日)
怪奇四十面相初出:少年 昭和27年1月号(7巻1号/1952年1月1日)→12月号(7巻12号/12月1日)*12回連載
透明の恐怖初出:別冊文藝春秋 54号(昭和31・1956年10月28日)
二癈人初出:新青年 大正13年6月号(5巻7号/1924年6月1日)
「猫町」初出:小説の泉 4集(昭和23・1948年9月10日)
堀越捜査一課長殿初出:オール讀物 昭和31年4月号(11巻4号/1956年4月1日)
解説新保博久
▼光文社:乱歩の変身
トークライブ 乱歩と怪談
平成29・2017年4月22日(土)
古書からすうり(三重県名張市中町363)
ホラー小説のパイオニアとしての乱歩
上田豊太(乱歩研究家)
午後6時─6時45分
座談会 乱歩と私
午後6時45分─9時
イベント情報
— 古書からすうり (@kosho_karasuuri) 2017年4月7日
「トークライブ 乱歩と怪談」
「読書会はちょっと堅苦しいなぁ…」と思う本好きの諸氏が集い、ざっくばらんに本についてアレコレ語り合うイベントです。
「乱歩研究家」上田豊太さんのトーク「怪談・ホラー作家としての乱歩」も楽しみ。
ご興味のある方はご連絡下さい。 pic.twitter.com/sZLwc62aFd
▼facebook:古書からすうり
江戸川乱歩電子全集 第12巻 ジュヴナイル 第3集
江戸川乱歩
平成29・2017年3月31日 小学館 小学館eBooks
本体1400円
ジュヴナイル 第3集
青銅の魔人
初出・底本:少年 昭和24年1月号(4巻1号/1949年1月1日)→12月号(4巻12号/12月1日)*12回連載
虎の牙初出・底本:少年 昭和25年1月号(5巻1号/1950年1月1日)→12月号(5巻12号/12月1日)*12回連載
透明怪人初出・底本:少年 昭和26年1月号(6巻1号、1951年1月1日)→12月号(6巻13号/12月1日)*13回連載
怪奇四十面相初出・底本:少年 昭和27年1月号(7巻1号/1952年1月1日)→12月号(7巻12号/12月1日)*12回連載
宇宙怪人初出・底本:少年 昭和28年1月号(8巻1号/1953年1月1日)→12月号(8巻12号/12月1日)*12回連載
鉄塔の怪人初出・底本:少年 昭和29年1月号(9巻1号/1954年1月1日)→12月号(9巻13号/12月1日)*12回連載
解説 恐るべき子供たち──少年探偵団の階級組織構造小松史生子
漢字で読んで比べる懐かしの少年探偵団 1
青銅の魔人
底本:ポプラ社 平成20年11月20日(2008年)
地底の魔術王(虎の牙)
底本:ポプラ社 平成21年3月5日(2009年)
透明怪人
底本:ポプラ社 平成21年3月5日(2009年)
怪奇四十面相
底本:ポプラ社 平成21年3月5日(2009年)
宇宙怪人
底本:ポプラ社 平成21年3月5日(2009年)
鉄塔王国の恐怖(鉄塔の怪人)
底本:ポプラ社 平成21年5月5日(2009年)
完全覆刻『小学六年生』連載/ダイジェスト版
怪人四十面相
初出・底本:小学六年生 昭和41年5月号(1966年)
前号より引き続き/甲賀三郎の謎掛けに挑む!
改名の解明・蛇足
浜田知明
編集部註
江戸川乱歩電子全集オリジナル年譜
書誌情報
▼小学館:江戸川乱歩 電子全集12 ジュヴナイル第3集
▼2016年5月28日:江戸川乱歩電子全集
毎日新聞
平成29・2017年4月7日 毎日新聞社
憂楽帳|月下氷人
坂上亘
Home > オピニオン > 記事
憂楽帳
月下氷人
毎日新聞 2017年4月7日 東京夕刊
江戸川乱歩の小説「黒手組」が昨年、NHKでドラマ化された。満島ひかり演じる探偵・明智小五郎が事件を解決し最後に言う。「人生は面白いね。この俺が今日は2組の恋人の月下氷人をつとめたわけだからね」
乱歩の作品はいろいろ読んだが、「黒手組」は知らなかったので放送前に読んだ。しかし「月下氷人」というせりふは記憶にない。本を見ると「月下氷人」ではなく「仲人」になっていた。月下氷人は仲人のことで、中国の故事に由来する。
本の解説によると、乱歩は自分の作品が再刊されるたび、新しい時代の読者が容易に親しめるよう手を入れていた。私が読んだ本は戦後刊行の全集が底本で、戦前の別の全集を調べると「月下氷人」だった。違いは他にも見られる。明智のせりふで戦前の「疑問は釈然として氷解するのだよ」が戦後は「疑問はたちまち解けるのだよ」に。
わかりやすい文章。校閲記者の私にも乱歩の姿勢は手本になる。もっともドラマの明智が言う「月下氷人」も魅力的だったが。【坂上亘】
遠方では時計が遅れるそうですが、納屋ではWi-Fiがつながりにくくなります。
納屋のなかでノートパソコンを開き、ブラウザであちこち閲覧していると、突然、インターネットに接続されていません、みたいなことになってしまうわけです。頻繁ではありませんが、ときどきなります。
いや、よくなります、というべきか。
かくてはならじ、と打開策を調べてみると、無線LAN中継機なるものがあることが判明しました。
無線LANの電波が届きにくい場所に設置し、文字どおり電波を中継する装置です。
ネット上の情報では、ごく簡単に設置できるらしい。
電気屋さんに走るのも面倒なのでアマゾンを利用して、というようなことが家電といわず本といわず、最近ほんとに増えてきて軽い罪悪感さえおぼえてしまう始末ですが、ともあれ最安値とおぼしい中継機を発注いたしました。
さて、届いた中継機をいくら説明書どおりに設定しようとしても、できない。
どうしてもできない。
設定には自動と手動の二種類があって、自動がだめなら手動でやってくれ、と説明書にあります。
やってみました。
それでもできない。
どうしてもできない。
世間のごくふつうの人間にこともなくできるであろうはずの作業が、私にはできない。
相当なばかなのか、と自問自答しながら次の日を迎える。
とはいっても、ときどきあるいはよくつながらなくなるだけで、決定的な支障はありませんから、中継機なしでWebブラウジングをつづける。
つながらなくなると、Wi-Fiのオフオンをくり返したりなんやかんや、小細工を弄してその場しのぎを重ねる。
しかし、ストレスが蓄積されて、ついに爆発する。
ふたたび接続を試みる。
憤怒の形相で涙目になりながら試みる。
できない。
どうしてもできない。
ばかなのであろうな、と自分に問いかける。
書いてるうちにわれとわが身がつくづく情けなくなってきましたので、またあらためて。
中日新聞 CHUNICHI Web
平成29・2017年4月5日 中日新聞社
中日春秋
Home > 社説・コラム > 中日春秋一覧 > 記事
2017年4月5日
中日春秋
かつての大阪漫才の名コンビのミヤコ蝶々・南都雄二。諸説あるそうだが、伝わる南都さんの芸名の由来がおかしい
▼蝶々さん、漢字が苦手で台本を読んでは相方に「何という字や」としばしば尋ね、そのしゃれから芸名がついたという。二葉亭四迷の名の由来「くたばってしまえ」を連想する
▼語呂合わせやしゃれによって、音を漢字に変換する。日本人の得意技なのか。この方式で外国人名を日本らしい芸名、筆名とする人もいる。推理作家の江戸川乱歩は米作家エドガー・アラン・ポーから。俳優の益田喜頓さんは米俳優のバスター・キートン。作曲家の久石譲さんはジャズ界の大御所クインシー・ジョーンズである
▼さて問題はドイツ。漢字表記は「独逸」や「独」となる。一八〇〇年代にはすでにあったと聞くが、「独」の当て字に対し、ドイツ人の漢字研究者クリストフ・シュミッツさんが差別的ではないかと問題提起している
▼気にしたことがなかったが、白川静さんの「字解」によると「独」の字には「一匹の獣」の意味がある。日本人得意の語呂合わせの類いで、ドイツに対し侮蔑の意味を込めケモノヘンを当てたわけではないと信じるが、妙な漢字を勝手に当てられた側には不愉快な話であろう
▼「逸」には逸品など、良い意味もあるとなだめてみても収まるまい。傷つく人がいる。問題提起に耳を傾けたい。
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