「貼雑乱歩」の冒頭にどうして乱歩のおじいさんを登場させたかというと、乱歩のおじいさんはエドガー・アラン・ポーが生まれた年の次の年に生まれたんだぜ、という事実をこの書き出しのシークェンスの落ちにしようと考えていたからでもありましたが、いざ書いてみると落ちになりません。
困ったもんだな。しかしまあ、落ちにならない落ちのあとは、やっぱ中絶した自伝「彼」をやっつけるしかないな、ということになりました。
そうすると、ジードの『一粒の麦もし死なずば』をはじめっからさーっと走り読みする必要が出てきて、古い新潮文庫をひっぱり出してきたんですけど、まーあ活字の細かいこと細かいこと、くらくらしてしまいました。
なんか先の長い話だなあ。
エントレ
平成29・2017年6月9日 ヴィレッヂ
江戸川乱歩もビックリ!美味しいところ全部乗せの異色サスペンス・花形新派公演「黒蜥蜴」観劇レビュー
イトウシンタロウ
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2017.6.9
江戸川乱歩もビックリ!美味しいところ全部乗せの異色サスペンス・花形新派公演「黒蜥蜴」観劇レビュー
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花形新派公演「黒蜥蜴」明智小五郎・喜多村緑郎、黒蜥蜴・河合雪之丞
乱歩の美味しいところ全部乗せ! 異色のサスペンスエンターテインメント!
「黒蜥蜴(くろとかげ)」と言えば、これまで幾度となく映像&舞台化されてきた、江戸川乱歩の不朽の名作です。没後50年を契機に、演劇界でも昨年から乱歩作品の舞台化が大流行、実に様々な乱歩演劇が上演されてきました。
そんな中でも、今回の花形新派公演「黒蜥蜴」は、まさに異色の作品と言えるでしょう。
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舞台『黒蜥蜴』ダイジェスト映像
まず「名探偵 VS 美貌の女盗賊」を演じるのが、歌舞伎から新派へ移籍した喜多村緑郎さんと河合雪之丞さんという意外なお二人。(もちろん、お顔は白塗りです。)物語の中心を流れるのは、なんと彼ら2人のラブロマンスです。
抱き合って妖艶に踊るタンゴ、絡み合う指先、当然のようなキスシーン(男同士)。恋の敵役として登場する、劇団EXILE秋山真太郎さんは銀髪のやさ男で、黒蜥蜴に迫るシーンがあり、探偵(緑郎さん)への嫉妬に狂いながら、ボクシングを駆使して戦います!
そこに「怪人二十面相」や「一寸法師」といった別作品の人気キャラクターも次々登場して…まさに「美味しそうなものは全部入れてみました!」と言わんばかり、江戸川乱歩もビックリのお芝居です!
顔が白い…だがそれがいい!乱歩の耽美な世界感と溶け合う、新派独自の女方(おんながた)
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花形新派公演「黒蜥蜴」黒蜥蜴・河合雪之丞
注目すべきは、やはり主演のお二人、名探偵・明智小五郎役の喜多村緑郎さんと黒蜥蜴役の河合雪之丞さんです。というか、このお二人には、注目せざるをえません。だって、異様に目立つんです!
長身で端正なお顔立ち、ド派手な衣装、流麗な立ち居振る舞い、美しい声…。お二人が舞台上で視線を集める理由は無数にあります。が。やはり、最大の要因は――卑近な感想で恐縮ですが、言わないわけにいきません。お顔の色です!白い!
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花形新派公演「黒蜥蜴」明智小五郎・喜多村緑郎、黒蜥蜴・河合雪之丞
歌舞伎のように、登場する役者さんみんなが白く塗っているわけじゃありません。他の主要な役者さん、脇役のみなさん、ごく普通のお顔色です。(厳密には、ヒロインの令嬢と敵役の何人かは塗ってますが。物語上で特に化粧をする理由もなく洋装で白いのは、主演のお二人だけです。)
「そういうの、物語に合わないんじゃない?」と、思う方もいらっしゃるかもしれません。ですが! なかなかどうして、これが、乱歩の耽美で退廃的な世界観と絶妙にマッチするんです。
美しさを探求するあまり、敵方である探偵に愛情を抱いてしまう黒蜥蜴。同じく、敵である女盗賊の才知に魅了される明智小五郎。本来、惹かれ合ってはならない2人が抱く不思議な恋心…それが、「女方(おんながた)」というある種倒錯した演技様式を使うことによって、実に巧みに表現されていくんです。
歌舞伎の様式美を活かした演出「だんまり」シーンは超クール!
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花形新派公演「黒蜥蜴」明智小五郎・喜多村緑郎、黒蜥蜴・河合雪之丞
物語中盤では、「暗闘(だんまり)」と呼ばれる、歌舞伎特有の演出が入ります。登場人物がせりふ無しで、暗中にさぐりあう動作を誇張して表現する動き…平たく言えば、現代劇で挿入されるダンスシーン、みたいなものでしょうか。
これが、実に自然に、クライマックスの乱闘シーンに挿入されるのです。さっきまで、チャンバラやガンアクションで激しく戦っていた人物全員が、ある瞬間、凍りついたように一斉にこの「だんまり」を始めて、思わず「おお!」と客席からも声が漏れました。控えめに言って、とてもクールです。
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花形新派公演「黒蜥蜴」黒蜥蜴・河合雪之丞、雨宮潤一・秋山真太郎(劇団EXILE)
明治時代、「旧派(歌舞伎)」に対するカウンターカルチャーとして、西洋からの文化流入や時代の流れに沿って作られたのが、この「新派」演劇なんだそうですが。スーパー歌舞伎などにも出演されている緑郎さん、雪之丞さんのお二人が、歌舞伎の様式を活かして上演されるこの「黒蜥蜴」は、21世紀の「新派」と呼ぶにふさわしいお芝居と言えるんじゃないでしょうか。
そもそも「江戸川乱歩」自体が「エドガー・アラン・ポー」に憧れて小説を書いた和洋折衷の作家です。西洋文化を、日本独自の様式美に置き換える「和洋化」の手法は、江戸時代の娯楽文化をその起源にしていると言わるくらいですから、乱歩の世界観が「新派」の演劇に合うのは必然なのかもしれません。
乱歩の時代に造られた三越劇場は、創立90周年!舞台美術にも活かされた豪奢な装飾と、心憎い演出。
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花形新派公演「黒蜥蜴」明智小五郎・喜多村緑郎、黒蜥蜴・河合雪之丞
この「黒蜥蜴」が上演されている三越劇場ですが。今年で創立90周年を迎えるそうです。世界初”百貨店の中にある劇場”としてオープンしたのが、昭和9年。奇しくも、乱歩が名探偵シリーズを精力的に書いていた頃ですね。
場内に一歩入れば、大理石仕上げの壁に石膏彫刻の美しい文様、ステンドグラスをはめ込んだ天井が目に入り、乱歩の描く[大正~昭和初期]の時代に迷い込んだようです。否が応にも高まるお芝居への期待感。
緞帳が上がると、「あっ!」と思います。客席と全く同じ文様が描かれた壁や扉の舞台セット、三越劇場の周壁を完コピした洋館の室内が、そこに建っているからです。観客は劇場まるごと、黒蜥蜴や明智小五郎のいる時空間にタイムスリップしたような錯覚に陥ります。地味ですが、心憎い演出でした。
このレビューを書いたのは
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イトウシンタロウ
劇作家・演出家
「個性的な女子」をフィーチャーした作品制作を行う創作団体「NICE STALKER:ナイスストーカー」主宰。
公式サイト:http://nice-stalker.com
公演情報
六月花形新派公演
「黒蜥蜴」
【原作】江戸川乱歩
【脚色・演出】齋藤雅文
【出演】
明智小五郎・・・喜多村緑郎
黒蜥蜴・・・河合雪之丞
雨宮潤一・・・秋山真太郎(劇団EXILE)
岩瀬早苗・・・春本由香
片桐刑事・・・永島敏行
2017年6月1日(木)~24日(土)/東京・三越劇場
公式サイト
新派「黒蜥蜴」
孤島の鬼 3
naked ape
原作:江戸川乱歩
平成29・2017年4月── 講談社
B6判 カバー ── 本体581円
MURDER 六
初出:ARIA 平成28年12月号(7巻12号/2016年12月1日)
MURDER 七
初出:ARIA 平成29年1月号(8巻1号/2017年1月1日)
MURDER 八
初出:ARIA 平成29年2月号(8巻2号/2017年2月1日)
MURDER 九
初出:ARIA 平成29年3月号(8巻3号/2017年3月1日)
▼講談社コミックプラス:孤島の鬼(3)<完>
▼NDL-OPAC:孤島の鬼 : The Outstanding Demon. 第3巻
すっかり暑くなりました。
頭のなかはすっかり煮詰まってます。「貼雑乱歩」もやっぱもうひとつだなあ。
てゆーか、何を書きゃいいんだか、いまだに見当がつきません。
平井杢 右衛門 陳就 は文化七年(一八一〇)、伊勢 国 津 に生まれた。津藩藤堂 家で重職にあった藩士の嫡男である。アメリカからペリー提督を乗せた黒船が浦賀に来航するのは四十年ほどあとのことになるが、波濤を越えて姿を現したロシアやイギリスなどの艦船は幕府と諸藩にすでに脅威を与えていた。伊勢湾に開かれて波静かな津の港も例外ではなく、津藩は弘化二年(一八四五)に大砲の鋳造を始めて異国船打ち払いに備えたと記録が残る。陳就は天保五年(一八三四)、跡目を相続して平井家七代当主となり、禄千石の上級藩士として津城に出仕する。藤堂家は伊勢伊賀両国を領する三十二万三千石の外様大名で、江戸期を一貫して津藩の藩主を務めた。陳就は十一代藩主高猷 に仕え、十代藩主だった高兌 の弟、つまり現藩主の叔父にあたる高允 の娘を娶った。いかにもややこしい話だが、とにかくお姫様を妻にした。生年も輿入れの年も不明なこの妻はしかし文久三年(一八六三)、陳就五十四歳の年に死去している。法号は静姝院、読みは、せいしいん、じょうしいん、せいしゅいん、じょうしゅいん、いずれとも知れぬが姝には美しいという意味がある。
とにかく近世と西欧を出しとかなきゃ、ってんで書いてみた書き出しなんですけど、なぜか平井陳就一代記になってしまいました。
吸血鬼の島 江戸川乱歩からの挑戦状I SF・ホラー編
江戸川乱歩
編:森英俊、野村宏平
平成29・2017年5月30日初版第一刷 まんだらけ
A5判 カバー 245ページ 本体2500円
はじめに
森英俊
第1部 SF・ホラー作品集
吸血鬼の島
初出:少年 昭和37・1962年お正月大増刊(出題編)/4月号(解答)
きえた宇宙少年初出:少年 昭和35・1960年夏休み大増刊(出題編)/11月号(解答)
海底人ブンゴのなぞ初出:少年 昭和36・1961年お正月大増刊(出題編)/4月号(解答)
のろいのミイラ初出:少年 昭和37・1962年夏休み大増刊(出題編)/11月号(解答)
魚人第一号!初出:少年 昭和38・1963年お正月大増刊(出題編)/4月号(解答)
初出:少年 昭和32・1957年秋の大増刊(出題編)/12月号(解答)
生きていた幽霊初出:少年 昭和33・1958年夏休み大増刊(出題編)/11月号(解答)
魔法探偵術初出:少年 昭和34・1959年お正月大増刊(出題編)/4月号(解答)
悪魔の命令初出:少年 昭和35・1960年お正月大増刊(出題編)/4月号(解答)
指初出:少年 昭和32・1957年11月号(出題編)/昭和33・1958年2月号(解答)
幽霊塔の謎?初出:少年 昭和30・1955年1月号(出題編)/4月号(解答)
ノロちゃんと吸血鬼ドラキュラ初出:少年 昭和32・1957年1月号(出題編)/4月号(解答)
心霊術の謎初出:少年 昭和30・1955年5月号(出題編)/4月号(解答)
第2部 異色作品集荒野の強盗団
初出:少年 昭和30・1955年2月号(出題編)/5月号(解答)
にせインディアン初出:少年 昭和30・1955年8月号(出題編)/11月号(解答)
黄金の大黒さま初出:少年 昭和30・1955年3月号(出題編)/6月号(解答)
天狗の足あと初出:少年 昭和30・1955年7月号(出題編)/10月号(解答)
解説 雑誌《少年》と江戸川乱歩野村宏平
《少年》掲載・江戸川乱歩出題の懸賞クイズ一覧
▼まんだらけ:吸血鬼の島
▼NDL-OPAC:江戸川乱歩からの挑戦状. 1SF・ホラー編
毎日新聞
平成29・2017年6月7日 毎日新聞社
演劇|新派「黒蜥蜴」 乱歩の人気作、構成に工夫=評・小玉祥子
小玉祥子
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演劇
新派「黒蜥蜴」 乱歩の人気作、構成に工夫=評・小玉祥子
毎日新聞2017年6月7日 東京夕刊
喜多村緑郎、河合雪之丞らによる花形新派公演。過去にも舞台化、映画化された江戸川乱歩による名探偵、明智小五郎物の人気作品を斎藤雅文が脚色、演出した。
昭和初期。明智(喜多村)は大阪の宝石商岩瀬(田口守)の依頼を受け、女盗賊黒蜥蜴(とかげ)に狙われる宝石「クレオパトラの涙」と娘早苗(春本由香)の警護にあたる。明智は岩瀬の顧客、緑川夫人(河合)と知り合うが、実は彼女こそ黒蜥蜴であった。黒蜥蜴は早苗を誘拐し、クレオパトラの涙も手に入れる。
日比谷のホテルから芦屋の岩瀬邸、宝石の受け渡し場所になる通天閣、船上、黒蜥蜴のアジトである東京湾の島と場所を移しながら、追う明智と追われる黒蜥蜴の戦いが繰り広げられる。相反する立場でありながら、美を希求する思いに共通する2人の間には、恋愛感情が生まれる。
早変わりや喜多村の京劇風の立ち回り、主だった登場人物が勢ぞろいしての「だんまり」など、構成に工夫がある。
喜多村は長身ですっきりとし、絵から抜け出たような爽やかな探偵像を作り上げた。河合は美しく冷酷で、動じない盗賊ぶり。共に生活臭を感じさせないところが浮世離れした探偵物にかなっている。歌舞伎界から新派入りした2人の今後に期待を抱かせる息の合った舞台である。
春本はセリフが明瞭で、わがままな令嬢の雰囲気がよく出ていた。田口、伊藤みどり、児玉真二が好演。【小玉祥子】
24日まで三越劇場
いやー、乱歩の評伝って、ちょっと無理くない?
手に余る。余りすぎる。
なにしろ、乱歩が自伝以外にもあれだけの自伝的随筆を書きまくってますから、とりあえずのところ、それを貼雑するだけでいいような気もしてきました。
ですから、タイトルは「貼雑乱歩」。
しかしなあ、それだけじゃなあ。
あと、なんとなくですけど、近代じゃなく近世から起筆したほうがいいのではないか、と思われ、もうひとつ、最初から西洋を前面に出しておくべきだろうな、みたいな感じもあって、とりあえず出だしを書いてみたんですけど、正直、無理くない? と思わされてしまいました。
恐怖の緑魔帝王
芦原すなお
平成29・2017年6月5日 ポプラ社 ポプラ文庫
A6判 カバー 255ページ 本体640円
初刊・旧版:平成27・2015年3月7日 ポプラ社
恐怖の緑魔帝王
解説 リスペクトと愛にあふれたユーモア少年探偵団!
大矢博子
▼ポプラ社:([あ]5-3)恐怖の緑魔帝王
▼NDL-OPAC:恐怖の緑魔帝王
▼2015年8月4日:恐怖の緑魔帝王
さて、この件です。
▼まんだらけ:江戸川乱歩からの挑戦状1 SF・ホラー編 「吸血鬼の島」内容は、月刊誌「少年」の通常号や増刊号に掲載された「江戸川乱歩先生出題のクイズ」のたぐい。
収録作品はこちらで確認できます。
▼NDL-OPAC:江戸川乱歩からの挑戦状1 SF・ホラー編 「吸血鬼の島」
カバーには江戸川乱歩著と大書され、奥付にも著者は江戸川乱歩であると明記されています。
巻末に収録された野村宏平さんの「解説 雑誌《少年》と江戸川乱歩」には、
「これらの読物に関しては、乱歩が残した文献にはいっさい言及がなく、文体からも本人の執筆ではないことが推察できる」
とか、
「初期と後期では筆致や方向性が異なるので、複数の執筆者が存在したことは間違いないだろう」
とか、作者が乱歩ではない旨の説明があるのですが、それにまた、以前は代作者が乱歩名義で書いたいわゆるリライトものが、いうまでもなく乱歩の承認のもと、ポプラ社からたくさん刊行されていたわけですから、乱歩が他人の手になった自分名義の出版物に鷹揚だったことはたしかでしょうけど、私のように狭量な人間は、ここまで堂々と乱歩の著作として刊行されるとなあ、と思わないでもありません。
ついでですから、高木彬光ファンの小林宏至さんがクイズの代作者に迫った文章を発表していらっしゃいますので、天下御免の無断転載。
「コミック版『刺青殺人事件』のこと、その他」と題された文書の一部です。
しかしまあ、ずいぶん手間ひまがかけられ、思い入れがこめられて、もとより一般の商業出版社はとても出してくれそうにない一冊ではあり、乱歩に関するたいへん貴重な資料でもありますから、この『吸血鬼の島』、乱歩ファンはすべからく押さえておかれるべきかと愚考いたします。
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