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Posted by 中 相作 - 2015.08.19,Wed
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 平成27・2015年8月17日 読売新聞社

テーマ「夏が来れば思い出す」〈2〉
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読書委員が選ぶ「夏休みの1冊」

テーマ「夏が来れば思い出す」<2>

2015年08月17日 05時20分

 読書委員の方々に「夏休みの1冊」を薦めてもらう毎年恒例の特集です。今年のテーマは「夏が来れば思い出す」。小学校のとき入った寄宿舎、ゲリラ豪雨、家族と見た映画……季節の記憶をよみがえらせる1冊、読んだあと、夏がそれまでと違って感じられるようになった本など、それぞれの夏が並びました。



江戸川乱歩著『江戸川乱歩傑作選』(新潮文庫、550円)

松山巖(評論家・作家)

 七月二十八日は江戸川乱歩の五十回目の命日だった。乱歩といえば名探偵明智小五郎を思い出すだろうが、彼の初登場は本書にもある『D坂の殺人事件』。

「それは九月初旬のある蒸し暑い晩」に始まる通り、若き明智も棒縞ぼうじまの浴衣で現れ、喫茶店で冷しコーヒーをみ、語り手の「私」と向かいの古書店を眺め、連続する万引きに気づくが、店は静かだ。不審に思い、店内を捜すと殺人事件。「私」は棒縞の柄から明智を疑うのだが…。

子どもの頃、少年探偵団シリーズに夢中だった私が初めて書いた本は乱歩論。だから暑い最中に本書を熟読した記憶もある。

津村記久子著『とにかくうちに帰ります』(新潮社、1300円)

宮部みゆき(作家)

 三作収録の短編集。表題作は、私のなかで、夏場に多い「ゲリラ豪雨」とがっちり結びついている小説です。集中豪雨で交通機関がストップ、帰宅困難になった登場人物たちが、何とかして家に帰ろうと悪戦苦闘するドラマを描いて、読み進むうちに雨の冷たさも人の優しさも身に染みてくるという逸品。すべての人物がいとおしいですが、私はとりわけ、スクーター用の雨合羽がっぱを着込み、コンビニでポテトと唐揚げを買い込んで豪雨のなかを歩くオニキリ君と、彼を冷静に観察し続ける一年先輩のハラさんのコンビが可笑おかしくて楽しくて、大好き。

大野裕之著『チャップリンとヒトラー』(岩波書店、2200円)

村田晃嗣(国際政治学者・同志社大学長)

 夏には数多くの映画が上映されるが、子供の頃に家族とた『独裁者』を思い出す。ファシズムと映画はともに大衆の支持を基盤とし、イメージ操作を生業なりわいにする。ほぼ同時期に生まれた政治と映画の天才は、これまたほぼ同時期にちょびひげを蓄え、直接対面することのないまま、対立を深めていく。その頂点が映画『独裁者』であった。

 著者は詳細な資料の吟味を経て、この映画の製作過程を丹念に描く。ややヒトラー側の記述が弱いが、20世紀最大の政治と映画の対決、2人の天才の闘争が鮮明に浮かび上がる。改めて『独裁者』を観たくなった。

村田喜代子著『屋根屋』(講談社、1600円)

本谷有希子(作家・劇作家)

 本書を読んで、これまで気にもかけなかった、灼熱しゃくねつの屋根の上を想像するようになった。

 主人公の主婦のように、溶けてしまいそうな夏の午後には、「こんな日も、どこかの現場の屋根の上で、屋根屋は素手では持てないような熱い瓦をカタリ、カタリといているのだろうか…」と思いをせてみるのである。

 永瀬屋根屋のような男がいたら、私も一緒に抹茶あずきを食べてみたい。作業後の火照ほてった体に、かき氷はさぞ美味おいしいことだろう。今年のような猛暑は特に、永瀬に涼を取らせてやりたいと思う。

森瑤子著『情事』(集英社文庫、457円)

唯川恵(作家)

 「夏が、終わろうとしていた。」この刹那的な一文から始まる本作品は、発表されてから三十七年たった今も、少しも色せることなく私をとりこにする。恋の結末に、主人公同様、容赦なく傷つけられて、夏という季節を今までとは違う感覚で迎えるようになった。夏は終わるために始まる。いわんや恋愛をや。何より、田舎者の私にとって、都会の大人たちの交流がまぶしかった。東京に行けばそんな暮らしが待っている。もちろん、幼稚な幻想はすぐに崩れ去ったが、森瑤子さんがのこしていったあの痛いほどの切なさは、夏が来るたび、今もリアルに胸を貫く。

原民喜著『夏の花』(岩波文庫、600円)

若松英輔(批評家)

 夏におもい出すというわけではない。むしろ、この作品が念頭を去ることはない。「夏の花」は原爆投下直後の広島を描き切った小説だ。作者自身も被爆者で、作品に刻まれた光景は、彼が避難場所を探して歩きながら書いた手記に基づいている。この作品は筆舌に尽くしがたい惨劇の実状を記録しただけではない。それでもなお、失われることのない希望の火があることを教えてくれている。民喜は、人間としては弱い一介の男に過ぎなかった。しかし、そうした人物によって数十年の歳月を経ても朽ちることのない強靱きょうじんな言葉が生みだされたのである。

吉村昭著『赤い人』(講談社文庫、600円)

渡辺一史(ノンフィクションライター)

 私が大学進学とともに北海道に移り住んで28年になるが、かつて北海道の夏といえば、道内外からたくさんのバイク旅行者が旅していた。彼らはエンジン音を響かせ町から町へと走り回ることから「ミツバチ族」と呼ばれたが、私もその一人だった。

 当時読んだ中で忘れがたいのがこの本。明治期の監獄(集治監しゅうじかん)で朱色の獄衣を着て強制労働に従事し、北海道開拓の礎を築いた囚人たち。血しぶき舞う壮絶な世界を、一切の感情を排した冷徹な表現で描き出す。眼前に広がる涼やかな風景の底に眠る、身も凍るような歴史の一幕を色濃く伝えてくれた作品。

小泉信三著『海軍主計大尉小泉信吉』(文春文庫、476円)

橋本五郎(本社特別編集委員)

 海軍に憧れた息子は南太平洋上の凄烈せいれつな戦闘で亡くなった。慶応義塾を卒業、海軍軍人になって1年2か月。父母と祖母と妹2人を残し、25歳で逝った。

 父は悲しみをこらえて最愛の子の生涯をつづった。息子の出征にあたって父が書いた手紙を読むたびに涙してしまう。

 「僕はし生れ替って妻をえらべといわれたら、幾度でも君のお母様を択ぶ。同様に、若しもわが子を択ぶということが出来るものなら、吾々二人は必ず君を択ぶ。今、国の存亡を賭して戦う日は来た。お祖父様の孫らしく、又吾々夫婦の息子らしく、戦うことを期待する」

谷川俊太郎著『コカコーラ・レッスン』(思潮社、品切れ)

柴田文隆(本社編集委員)

 雪国育ちで夏は苦手です。ねっとりと底なし沼みたいになる夏の海は正直、怖い。

 〈その朝、少年は言葉を知った〉で始まるこの詩、舞台は夏の海岸に違いない。〈その朝彼は突堤の先端に腰かけて、誰もがやるように足をぷらんぷらんさせていたのである。そのとき、なまあたたかい波しぶきが、はだしのくるぶしにかかったのだ〉

 少年は、思わず立ち上がりながらつぶやく。〈「そうさ、これは海なんだよ、海という名前のものじゃなくて海なんだ」〉

 この場面で私はいつも、波にきつく足首をつかまれて、恐怖で酸素が欲しくなる。

田澤拓也著『「延長十八回」終わらず』(文春文庫、品切れ)

番外編 よみうり堂店主

 高校野球100年の夏が来た。思い出すのは昭和44年、三沢高と松山商の決勝戦。地元も大騒ぎで、あのころは青森市内の写真屋で太田幸司投手の写真が売られていた。大会後は、買ってもらった準優勝記念のソノシートを繰り返し聴いたものだ。

 本書は延長18回引き分けになった決勝と翌日の再試合をナインの個人史を交えてたどり、彼らのその後を追ったノンフィクション。対照的な両校の一人ひとりに「戦後」が刻まれている。

 8年前、太田さんに取材した。27回を投げ抜いて甲子園の空を見たと彼は言った。「あの時の空の青さは今も覚えている」

2015年08月17日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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