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Nabari Ningaikyo Blog
Posted by - 2024.04.26,Fri
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Posted by 中 相作 - 2013.11.03,Sun

 『奇譚』52ページの追記について、makさんからコメントによるご指摘をいただきました。

 2013年10月30日:10月の伊勢に散った > 無題(2013年11月1日)

 makさんには重ねてお礼を申しあげます。

 さてそれで、ご指摘を受けて11月2日付コメント「付け焼き刃は困ったものです」を投稿し、『奇譚』46ページには追記を記しました。

 2013年10月26日:いよいよ涙香の登場です

 でもって考えてみたわけですけど、ボアゴベ作品を原書や英訳で読んだことはなかった、と乱歩は『奇譚』に記しています。

 そのうえで、『奇譚』49ページから52ページにかけて、涙香訳で読んだボアゴベ作品として、「海底ノ重罪」「劇場ノ犯罪」「塔上ノ犯罪」「The Cat's-Eye Ring」「執念」「巨魁来」があげられ、乱歩はそれぞれに紹介や批評を加えています。

 52ベージにはそのほか、評文なしで題名だけをあげた涙香訳ボアゴベ作品も、「其他 片手美人、悪党紳士、決闘ノ果、活地獄、美少年〔where is Zeno Bia〕、女夜叉、死美人、武士道 等ガアル」と記され、その「死美人」の下に「(Gaboriau 也)」という注記が添えられているわけですが、これらタイトルだけの作品、乱歩は読んでいなかったようです。

 ただし、『奇譚』をつくったあとに読んだものもあって、そうした作品の批評がマージンに追記されています。

 すなわち、52ページには「片手美人」が、53ページには「決闘ノ果」が記されているのですが、「死美人」の追記はありません。

 ですから、「片手美人」と「決闘の果」の追記が書かれた時点で、それは大正5年4月19日だとみられますが、その時点でも乱歩は「死美人」を読んでいなかったのではないか、という推測が成り立ちます。

 ここで問題になるのが、「(Gaboriau 也)」という注記がいつ記されたのか、ということです。

 つまり、コメント「付け焼き刃は困ったものです」にも記しましたとおり、この注記を書いた時点で、乱歩は「死美人」を読んでいたのかどうか、というより、「死美人」はガボリオのルコック探偵が出てくるけれども書いたのはボアゴベである、という事実を知っていたのかどうか、ということが問題になるわけですけど、これはよくわかりません。

 いっぽう、ガボリオの項では、46ページに「涙香ノ Gaboriau ヲ訳シタモノニ大盗賊 大盗賊 人耶鬼耶 他人ノ銭 等ガアルガ皆今ハ忘レテ了ツタ」と記され、英訳されたガボリオ作品として、「File 113」「Last Adventure of Lecoq, the detective」「Mystery of Orcival」「死美人。Old age of Lecoq, the de.」「Paris of Lecoq, the de.」「Blackmailers」があげられています。

 これをみるかぎり、乱歩は英訳されたガボリオ作品に「Old age of Lecoq, the de.」というのがあることと、それが「死美人」というタイトルで日本でも訳されていることは知っていたものの、英訳も和訳も読んではいなかったと判断されます。

 ですから、いつのことだかはわからないある日、『奇譚』を再読した乱歩が、46ページから読み進んだ先の52ページ、ボアゴベの項にある「死美人」というタイトルをみて、これはガボリオの項にあった「死美人。Old age of Lecoq, the de.」だからガボリオの作品だよな、と思って「(Gaboriau 也)」と書き込んだのか、それとも、「死美人」のいわば補足情報として、それがガボリオ作品のいわゆるパスティーシュであることを示すために「(Gaboriau 也)」と書き加えたのか、あるいは、ほかになんらかの理由があったのか、いやはや、どうにもさっぱり見当がつきません。

 まあ、見当がついたところで、どうということはないわけですが。

 さっぱり見当がつかないといえば、先日記した「金色の死」の件ですが、『探偵小説四十年』では大正6年とされている「金色の死」の初読が、『奇譚』では大正3年のことだったと明かされていて、これはもちろん『奇譚』に書かれているところが事実だとみるべきでしょう。

 では、乱歩が『探偵小説四十年』を、というか、「探偵小説三十年」の「谷崎潤一郎とドストエフスキー」を書いたとき、自分がはじめて「金色の死」を読んだのは学生時代の大正3年であったという事実を忘れてしまっていたのか、それとも、おぼえてはいたけれどなにかしらおもわくがあって大正6年の放浪中にはじめて読んだということにしてしまったのか、これもさっぱり見当がつきません。

 乱歩はじつに周到なタクティシャンでしたが、いっぼうでずいぶんうっかりしたところもあったひとで、乱歩流タクティクスの集大成とも呼ぶべき『探偵小説四十年』にも、たとえば横溝正史と西田政治にはじめて会った日のこととか、名古屋駅で置き引きに遭った日のこととか、うっかりにもとづく事実誤認が存在しています。

 で、「金色の死」の初読にかんする『探偵小説四十年』の記述も、そうしたうっかりにもとづく事実誤認であるとみることはできます。

 「谷崎潤一郎とドストエフスキー」が発表されたのは昭和24年11月、「金色の死」が連載されたのは大正3年12月、両者のあいだには三十五年の開きがありますから、記憶があいまいになっていたとしても不思議ではありません。

 しかし、いくら三十五年が経過していたからといって、乱歩は「金色の死」を読んで衝撃を受け、「殆んど狂喜した」というのですから、新聞の連載で少しずつ読んだのか、本になったのを一気に読んだのか、みたいなことが記憶として明瞭に残っていたとしても、これまた不思議なことではありません。

 というか、ふつうはおぼえてるはずではないか、と思われます。

 もしもそうだったとすれば、乱歩は「金色の死」の初読が大正3年のことだったと記憶していながら、自伝にはあえて大正6年だったと書き記したことになります。

 いったいどっちだったのか。

 乱歩の戦略性を考慮に入れれば、たぶん後者だったんだろうな、つまり、探偵作家として立つまでの人生をできるだけ印象的に再構成するために、大学ではポーとドイルを発見し、就職したもののばっくれて放浪していた最中に谷崎作品に出会った、としたほうがいいと判断したんだろうな、と察しがつきますが、しかしいっぽう、うっかりしたとこもあった人だからなあ、と思い返すと、「金色の死」を新聞連載で読んだことは記憶に残っていなかった、というのもありだろうな、という気がしてきます。

 ほんと、どっちなんでしょうか。

 どうだっていいようなことに思い惑いつつ、三連休でも相も変わらず、『奇譚』のつづきでございます。

(56)

 COLLINS = 涙香ノ訳ニナルモノハ只非小説一ツデアルガ。他ニ二ツ計リ原作ヲ読ンダカラ多少批評ガ出来ル。Wilkie Collins ハ英国ノ小説家デ通俗的ニヨリ知ラルヽ人ダ。curious ノ理想ヨリ云ヘバ彼ハ極メテ低イ所ニアル。plot ニ富ミ物凄サヲ特徴トスルガ要スルニ、ソノ儘ノ populer noverist タルニ過ギナイ。
The Woman in White 全体ヲ三部ニ分ツテ各異ツタ人ノ日記体ニシテアル。奇怪ナル白衣ノ婦人トソノ子供ニ関スル多少冗漫ナル記述デアル。仏国ニモ訳サレタ程名高イ。第一編ハアル豪家ニ家庭教師ニ雇レタ画家ノ手記デ。彼ハソノ家ノ姉娘ニ恋シ、互ニ同感スル。然ルニ嘗テ画家ヲ脅シタ白衣ノ不思議ナ夫人トソノ娘トヨク似テ居ル、戦慄スル程似テ居ル。白衣ノ婦人ト娘トハ如何ナル関係ガアルノデアラウ。コレヲ妹娘ノ助ケヲ借リテ探ツテ居ル内ニ、娘ハ進マヌ婚礼ヲ強ヒラレ、画家ハ絶望ノ中ニ都ニ帰ラネバナラナクナル。茲迄読ンデ冗漫ト Episode ノ多イノニ厭気ガサシ止シテ了ツタ。
The Dead Secret 去ル田舎ノ旧家ニ雇

 「populer noverist」は「populer novelist」。

(57)

レタ婦人ガアル百姓ト恋中ニナツタガ或時ソノ若者ガ不時ノ出来事デ死ヌ。恰カモソノ時主人ハ遠キ航海ノ留守中。夫人ハ子供ノナイ為ニ主人ノ愛ヲ他ニ移サン事ヲ恐レテ雇人ノ彼ノ婦人ニ子ノ出来タヲ幸ヒ自レノ子ト偽ツテ主人ノ愛ヲ得ヤウトスル。数年ノ後夫人ハコノ秘密ヲ書イタモノヲ残シテ主人ニ渡ス様ト雇婦人ニ云残シテ死ヌ。婦人ハコノ dead secret ヲ抱イテ苦シサノ余リ家内ノアル物置ニソノ手紙ヲ隠シテ遠ク去ツテ了フ。ソレカラノ数年十数年、主人ハ秘密ヲ知ラズシテ死ンダガ偽リノ子ハ立派ナ娘トナル。ソノ娘ト婦人トノ会ツタ時ノ婦人ノ奇シキ振舞。遂ニハ苦ミニ苦ンダ罪モ許シテ目出度ク終ル。The twenty-third of August, 1829 ノ章ヨリ The dawn of a new life ノ章迄大分長イモノデアル。コノ dead secret ヲ最後迄少シモ読者ニ知ラシメヌ所ニ味ガアル。ガ左程ノモノデモナイ。只読ンデ居ル文章ノ口調ノヨイノニ(ソノ tone ニ)一種ノ melody ヲ感ジテ知ラズ々々々読ンデ行ク所ニ英文小説ノ美点ガアル。
非小説 前二者ニ比シテ plot ニ富ンデヰル。

(58)

悪事ニカケテ寸毫ノ油断モナイ偽医者ニ進メラレテ Heroine ノ義弟ガソノ夫ヲ殺ス。Heroine ハ夫ノ財産ヲ狙フ弟ニ放逐セラレテ不幸ノ中ニナキ夫ノ遺児ヲ育テル。数十年ヲ経ルト都ノ兎アル町ニ、ソノ義弟ガ名ヲ替ヘテ住ンデ居ル。ソノ室ニ印度製ノ手文庫ガアルガ、ソノ中ニハ故キ夫ノ遺書ノアルヿヲ知ツテ居ル Heroine ハ、アル夜男装ヲシテ義弟ヲ訪レル。彼ハ怒ツテ彼女ヲ切ラウトシタガソノ瞬間仮死ノ状態ニ陥ツタ。都一流ノ大新聞ノ記者ガ Hero トナツテ現レル。彼ト Heroine トハ協力シテ義弟及悪医者ノ罪悪ヲ曝露セント力メル。ソノ結果ハ意外ニモ目出度イ局ヲ結ブ。ト云フノハ Heroine ノ夫ガ実ハ死ナズニ医者ノ病院ニ狂人ノ身替リトシテ生キテ居ツタヿデアル。夫婦ガ再生ヲ喜ブ所デ幕ガ下ル。義弟ガ蘇生スル辺ハ奇ニ富ンデ居ル。然シコレトテモ余リ感心スル程ノモノデハナイ。
Collins ノ著ヲ挙グレバ、

Antonina
Basil
The Moonstone
Man and Wife


(59)

After Dark
The Queen of the Hearts
No name
My Miscellanies
Armadale
Poor Miss Finch
Miss or Mrs?
The New Magdalen
The Frozen Deep
The Law and the Lady
The Two Destinies
The Haunted Hotel
The Fallen leaves
Jezebel's Daughter
The Black Robe
Heart and Science
"I Say No"
A Rogue's Life
The Evil Genius
Little Novels
The Legacy of Cain
Blind Love
Hide and Seek


 きょうはこれくらいにしときます。

 お気づきのことはお気軽にお知らせください。
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