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Posted by 中 相作 - 2013.09.19,Thu
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毎日jp
 平成25・2013年9月17日 毎日新聞社

SUNDAY LIBRARY:岡崎武志・評『極私的ミステリー年代記』『アンリ・バルダ』ほか
 岡崎武志
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SUNDAY LIBRARY:岡崎 武志・評『極私的ミステリー年代記』『アンリ・バルダ』ほか

2013年09月17日

 ◇いいもんはいい、ダメなもんはダメ

◆『極私的ミステリー年代記』北上次郎・著(論創社/上下・各税込み2730円)

 北上次郎による、雑誌『小説推理』に長年連載され、今も続くミステリー時評。その20年分を上下で単行本化したのが、この『極私的ミステリー年代記』で、総ページは1000に近い。

 毎回、数冊の海外ミステリーをまな板に乗せ、最後に今月の推薦作を挙げ△○◎の評価をくだす。「極私的」とある通り、あくまで自分の判断基準を優先させている。

 たとえば、一般読者が判断基準とする、アメリカ探偵作家クラブ賞という帯の文字。フランシー・リン『台北の夜』は、最優秀新人賞受賞作だが、著者は主人公の「感情の芯のようなものが見えない」点を突き、これを退ける。

 要求水準が高いのだ。だからブッカー賞作家のミステリーと聞くと「どうせ文学してるんだろこのやろエンタメはそんなに甘くないぜ」と啖呵を切る。このエンタメ愛が全編にほとばしるのが北上批評の読みどころ。

 だから、大評判の『ミレニアム』への惜しみない絶讃も、安心して?を弛められる。

◆『アンリ・バルダ 神秘のピアニスト』青柳いづみこ・著(白水社/税込み2310円)

 ピアニストで文筆家・青柳いづみこの新著が『アンリ・バルダ 神秘のピアニスト』。この「知られざる幻の巨匠」と呼ばれたユダヤ系フランス人ピアニストの演奏に心酔した著者は、演奏会を追っかけ、やがて親しくなる。訪問したパリのアパートからエッフェル塔が見えるが、巨匠は見えないふりを。そんな逸話を交えながら、その生涯と演奏のすごみを解説する。「端正だが少しも冷たくない」「さまざまな音色がとびかう」演奏が聴こえてきそうな文章。

◆『襲名犯』竹吉優輔・著(講談社/税込み1575円

 竹吉優輔『襲名犯』は本年度乱歩賞受賞作。犯罪を「襲名」するというテーマがユニーク。連続猟奇殺人を犯した新田に死刑執行がくだる。ルイス・キャロルの『スナーク狩り』に登場する怪物「ブージャム」と名付けられたこの犯人を信奉する男による、同様の連続殺人が14年後に起きた。図書館司書の南條仁、その親友で作家の霜野、茨城県警刑事の律子は同窓生。ある理由から、3人がこの事件に巻き込まれていく。将来を期待させる新人の登場だ。

◆『東京スカイツリーを撮影している人を撮影した本』太田友嗣・著(産業編集センター/税込み999円

SUNDAY LIBRARY:岡崎 武志・評『極私的ミステリー年代記』『アンリ・バルダ』ほか

 なるほど、これはアイデアだ。太田友嗣『東京スカイツリーを撮影している人を撮影した本』は、タイトル通り、話題のタワーを撮影する人を撮影した写真集。つまり、当のスカイツリーは写っていない。恋人を写し込むため、股覗きのように地面に顔をこすりつける男性。ベンチで一斉にエビぞるおばさんたち。みな、かなり無理な姿勢。しかし周囲を気にしない。真剣だからこそ、どこかおかしみを誘う。見せ方、読ませ方にもひと工夫、ふた工夫あり。

◆『クロスロード・オキナワ』鎌倉英也・宮本康宏/著(NHK出版/税込み2310円)

「武器も戦争もない」琉球王国の存在を知ったとき、ナポレオン前皇帝は「それは、とんでもなく特異な国だな」とつぶやいた。それが近代に「沖縄県」が誕生して以来、「防衛拠点」として日米から蹂躙される。鎌倉英也・宮本康宏『クロスロード・オキナワ』は、実際に暮らす沖縄県民の声を十分に拾いつつ、歴史的・空間的に「クロスロード」させながら「オキナワ」を考える。「辺境」ではなく「中心」に置くことから我々に真実を突きつける。

◆『村上春樹で世界を読む』三輪太郎×重里徹也/著(祥伝社/税込み1575円)

 三輪太郎×重里徹也の対談は「二人の読書体験と人生体験を総投入してのぶつかりあい」だった。国民的作家の作品の「何がここまで私たちの心をとらえるのか」を追究したのが『村上春樹で世界を読む』だ。作家を「阿美寮(注:『ノルウェイの森』に登場する「理想的共同体」)に憑かれた人間」と評する重里に「パワフルなテーゼ」だと応じる三輪。阿美寮よりも幸せな世界はどこにあるのか。私たちはそれを作家とともに探し続けているのかもしれない。

◆『震災画報』宮武外骨・著(ちくま学芸文庫/税込み1155円)

 反骨のジャーナリスト・宮武外骨が、関東大震災からわずか3週間で緊急出版したのが『震災画報』。本書は、90年後のいま、図版も含めて、この貴重な記録を丸ごと復刊させた。発生直後からの混乱と甚大な損害をルポする記述にも目を見張るが、政府の無能を激しく糾弾する筆法や、焦土のなかでうごめく人々の描写など、さすがである。あわてて「小児を逆に負う」夫婦の図や、電灯が使えずランプが流行するなど、視点がじつに細かく有益だ。

◆『ゼロの血統』夏見正隆・著(徳間文庫/税込み740円)

SUNDAY LIBRARY:岡崎 武志・評『極私的ミステリー年代記』『アンリ・バルダ』ほか

 ジブリ「風立ちぬ」の主人公・堀越二郎が設計した、新鋭戦闘機が「九六式」。夏見正隆による書き下ろし長編『ゼロの血統』は、この戦闘機を操り、空で闘う少年・龍之介の物語。北海道で羆撃ちの子として育った彼は、ある事件から父親が名うての戦闘機乗りであったと知る。父の遺志を継いで、龍之介は九六式のパイロットに。そんな彼に、満州国皇帝の娘を上海に運ぶという特命が! スケールの大きな筋立てとともに、空中戦の描写に息を?む。

◆『どうして私が「犯人」なのか』亀井洋志・著(宝島社新書/税込み840円)

 これはとても怖い本。亀井洋志『どうして私が「犯人」なのか』は、過去に発生した「冤罪事件」を徹底取材し、その誤謬を糺す。2006年に高知で起きた白バイとスクールバスの衝突事故で、白バイ隊員が死亡。バスは停止していたにもかかわらず、急ブレーキ痕などが捏造され、運転手は実刑に。再審請求はいまなお続く。ほか、盗撮、傷害、横領、痴漢など、「公正な司法」が幻想であるn事実を読者は知る。明日は我が身の対策としても必読の書。

◆『「終活」バイブル 親子で考える葬儀と墓』奥山晶子・著(中公新書ラクレ/税込み777円)

 生前から人生の終焉を見据え、葬儀やお墓の準備を自らがすることを「終活」と呼ぶ。『「終活」バイブル 親子で考える葬儀と墓』の奥山晶子は大学卒業後、葬儀社に数年勤務した経験を持つ。葬儀社に丸投げの葬儀はもう古い。小規模でオリジナルな「家族葬」のすすめや、「エンディングノート」の作成など、親子で、家族でコミュニケーションをとりながら、納得いく「死」の迎え方を提唱する。さまざまなパターン別プランもあり。

◆『冷泉家 八〇〇年の「守る力」』冷泉貴実子・著(集英社新書/税込み735円)

 『冷泉家 八〇〇年の「守る力」』の「冷泉家」とは、藤原俊成・定家を祖とする「和歌の家」。都が東京へ移った維新後も京都御所の北に、昔の公家屋敷のまま住み、伝統と古式を守り続けている。著者・冷泉貴実子は、自身が冷泉家に生まれ、25代当主・為人夫人である。冷泉家では、ずっと「大事にせんとバチが当たる」「相変わらずで結構」といった教えが伝わり、日々の生活に活かされている。旧式を「守る力」に、「和」の根本が見える。

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おかざき・たけし:1957年生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。近著『上京する文學』をはじめ『読書の腕前』など著書多数

※3カ月以内に発行された新刊本を扱っています

<サンデー毎日 2013年9月29日号より>
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