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Nabari Ningaikyo Blog
Posted by - 2024.04.24,Wed
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Posted by 中 相作 - 2010.11.03,Wed
 
〔*12〕
 
「本陣殺人事件」
 
江戸川乱歩  
 
 横溝君の「本陣殺人事件」が完結したので、最初から通読して色々感想があった。これは戦後最初の推理長篇小説というだけではなく、横溝君としても処女作以来はじめての純推理ものであり、又日本探偵小説界でも二三の例外的作品を除いて、殆んど最初の英米風論理的小説であり、傑作か否かはしばらく別とするも、そういう意味で大いに問題とすべき劃期的作品である。そこで、私はこれを我々の間にはじめて提示せられた一つの標本として、従来のこういう場合に比べては稍や詳細に、「本陣」そのものの批判だけではなく多少探偵小説一般論にも触れながら、これを検討して見たいと思うのである。
 横溝君には過去に「真珠郎」「呪いの塔」などの長篇探偵小説があるけれども、いずれも論理小説とは称し得ないものであった。英米のそれとはどこか違った味のものであった。横溝君は読書家としては一種の推理小説マニアであって、広く英米推理小説に通暁し、嘗つて「探偵小説」編輯長として同誌に「トレント最後の事件」「矢の家」「赤屋敷」等の最傑作を次々と掲載した事実のみを以てしても、彼の推理小説鑑賞眼を察し得るのであるが、それにもかかわらず、自作としてはそういう英米風の理屈っぽい長篇を一つも書いていない。私はこれを不思議に思っていた。或は鑑賞家としてはこれを愛するけれども、作家としては、性格として論理一点張りの小説は好まない、若しくは書きこなし得ないのではないかとすら考えていた。例示すれば、「真珠郎」は別の意味では非常に面白いのであるが、論理の部分に甚だ物足りないものがあり、この人はこういう風にしか書けない作家かも知れぬと考えていたわけである。ところが、戦争が横溝君の嗜好を一変せしめたのか、終戦以来彼は本格ものばかりを書くと宣言し、その最初の見本として「本陣」を完成した。そして、これこそは「トレント」「矢の家」「赤屋敷」などと同じ性格を持つ純粋の推理長篇小説であって、私は彼が論理の文学に於ても亦一個練達の士であることを認めざるを得なかったのである。
 
「宝石」昭和22年2・3月合併号
江戸川乱歩全集第25巻『鬼の言葉』光文社(2005年2月)
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