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Nabari Ningaikyo Blog
Posted by - 2025.10.16,Thu
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Posted by 中 相作 - 2016.03.08,Tue

 さすが年度末。

 雑務が立て込んでなにやらあわただしい毎日ですが、この3月でめでたく定年退職をお迎えになる小西昌幸さんのファイナルイベント、つまりこれですけど──

 2016年1月17日:地引雄一講演会

 小西さんから最新の現地レポートを頂戴いたしましたので、以下にそのままお伝え申しあげたいと思います。

■徳島の小西昌幸です。

■3月20日、北島町創世ホール開催の
【地引雄一さん講演会「東京ロッカーズからプロジェクトFUKUSHIMA!へ」】の準備を進めています。
地引さんとはひんぱんに連絡を取り合い、
内容について協議しています。

■地引さんのお申し出によりこの講演会は、
小西が聞き役に回ってインタヴュー形式で行うことになっています。
大画面に地引さんが撮影された写真を
投影しながら話を進めることになっています。

■講演会終了後に会場内に流す音楽は、アウシュヴィッツの
「ジャーニー・スルー・ザ・ナイト」初期バージョン(シングル音源)でいこうと考えています。

■北島町立図書館のカウンター前の特別展示(催しの前宣伝)として、
今回は催し関係のレコードを並べることにしました。
もちろん、小西のコレクションです。
東京ロッカーズ、フュー、
スターリンのファースト、
終末処理場、蔵六の奇病、INU(アルケミー版)、
アウシュヴィッツ、ほぶらきん(ガリ版ジャケット)、
じゃがたら、ドッキリ・レコード、都市通信、
アルケミー・オムニバス、などなど合計30点です。
今日、ガラスケースに入れてきましたが、
正式スタートは、3月8日(火)からです。
やがて新聞取材にも来ていただく段取りです。

■20日当日には、滋賀の西村明氏(関西パンク史家、元スーパーミルク)、
愛媛の工藤冬里氏(マヘル・シャラル・ハシュ・バズ)、
元ほぶらきんマネージャーの坂本葉子さん、などの来館情報が届いています。

■どうかご支援をお願いいたします。

■これらのネタをご自由にお使いになって
ツイッター、ブログ等で、大いに宣伝してやってください。

■デザインやタイポグラフィ書専門の出版社・朗文堂では、
古い知人の方塩二朗さんが、
下記のような一ひねりした宣伝をしてくださっています。
http://www.robundo.com/adana-press-club/wordpress/02/2016/03/01/5604/

 それでは、私は足を運べないんですけど、地引雄一さんの講演会が大盛況になることを祈りつつ──
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Posted by 中 相作 - 2016.02.29,Mon

 2月が29日まであると得した気分になる、とかそんなことは全然なく、ちょっと暖かくなったな、と喜んでいたらまた寒くなってしまって困ったものですが、世間ではもういろんなことが──





 いっぽうこちらは、このつづきです。

 2016年2月09日:ライター乱歩、僕エディター
 2016年2月11日:ライター乱歩、僕エディターふたたび
 2016年2月24日:またまたライター乱歩、僕エディター

 中学卒業まで、一気にやっつけてしまいました。

 乱歩の幼少年期が鮮やかに浮かびあがってくる、ような気がいたします。


 中学卒業以降の乱歩と東海地方との関わりは、まず早稲田大学在学中に伊賀の代議士、川崎克の知遇を得、卒業後は克の斡旋で大阪の貿易会社に就職したものの一年足らずで出奔して伊豆方面を放浪、しばらくして鳥羽造船所に勤務し、鳥羽で知り合った女性と結婚、探偵作家としてデビューしたあとは名古屋の小酒井不木らや井上良夫と親交し、還暦近くなっても名張にふるさとを発見し伊豆伊東に祖先を発見し、とまだまだつづくわけですけど、PDF版は中学卒業まで、ということにしておくかな。

 さりとて、紙の本を出すあては全然ないんですけど。
Posted by 中 相作 - 2016.02.24,Wed

 この件です。

 2016年2月09日:ライター乱歩、僕エディター
 2016年2月11日:ライター乱歩、僕エディターふたたび

 ePub版電子書籍をつくろう、という件はずーっとほったらかしになってるんですけど、とりあえずPDF版のほうを進めてみました。

 
 以前にもお知らせいたしましたとおり、この「まけないぴろたんへこへこまがじん」と同じく縦横ともに百四十八センチ、つまりA5判短辺サイズの正方形として設計したんですけど、どんなものなんだか、実際にごらんいただくのが手っ取り早いと思います。

 目次には乱歩が名張で誕生し、旧制中学を卒業して名古屋を離れるまでの随筆を並べましたけど、本文は小学校三年生の途中までとなっております。

 ダウンロードして、じっくりお読みください。


 面白い読みものになってると思うんですけど、こうなると、やっぱ紙の本で出したいな、という気もしてまいります。

 とはいえ、エディターが自画自賛して面白い読みものだなんて思っていても、はたして面白がってくれる読者が存在するのかどうか、そのあたりがどうもよくわかりません。

 ご感想をお寄せいただければ幸甚です。

Posted by 中 相作 - 2016.02.23,Tue

 青空文庫、快調です。


 それ以上に快調なのが、かのゴマブックス。

 Amazon.co.jp:人間椅子 屋根裏の散歩者ほか (江戸川乱歩 名作ベストセレクションII) 単行本(ソフトカバー)
 Amazon.co.jp:人間椅子・屋根裏の散歩者ほか 江戸川乱歩 名作ベストセレクションⅡ(1) [Kindle版]
 Amazon.co.jp:透明怪人 (江戸川乱歩 名作ベストセレクションII) 単行本(ソフトカバー)
 Amazon.co.jp:透明怪人 江戸川乱歩 名作ベストセレクションⅡ(2) [Kindle版]

 先日、これを買ったばかりだというのに──


 つづけて『人間椅子・屋根裏の散歩者ほか』とか『透明怪人』とか、出すというではありませんか。

 たいがいにしときや。

 そもそもこのシリーズ、さすがにカバーにはイラストが配されてますけど、挿絵もなければ解説もなく、セレクトにも一貫した方針が見当たらず、つまり手当たり次第、目についたものから本にしている感じであるうえ、本文も行間が広いわりにはフォントが小さくて、なおかつ底本が明示されていない。

 テキストに関しては、巻末にこんな断り書きがあるだけどっせ。

編集方針について

身体障害や職業に関する不適切な表現につきまして、一部表現を変えたり、削除したところもございますが、原作を重んじて、できるだけ発表当時のままにしております。

ゴマブックス編集部

 「発表当時のまま」というと、一般的には初出のままということになりますが、この場合はそうではなく、いずれかの刊本を指して「発表」と称しているものと判断されますが、それがどれだかはわかんない。

 そんなことはどうでもいい、というのが実際の編集方針なんでしょうけど、こんなのが続々と出てきた日には、ほんとに困ってしまうなあ。

 こういうのは本来、名張市立図書館が押さえとくべきなんだけどなあ。

 押さえてないかもしれんなあ。

 小学館の電子全集も、藍峯舎の『幻想と怪奇』も、きれいに押さえておらんじゃろうなあ。

 ほんとに困ったものだなあ。

 【同日追記】

 ゴマブックスの『透明人間』、アマゾンに掲載された書影の帯文を読んでみたら、こんなことが書かれてました。

今度の敵はやりたい放題

 やりたい放題はそっちじゃねーか、とついむかついてしまいましたので、いったん投じたこのエントリに、あえて追記を書き込むことといたしました。

 読者諒せよ。
Posted by 中 相作 - 2016.02.19,Fri

 しかし、ほんと、こんな本まで買わにゃならんのか、という気がいたします。


 まあ、買いましたけど。

 このゴマブックスのシリーズは、単行本、POD版、電子書籍、と三種類も出ていて、私が買ったのは単行本ですけど、『怪人二十面相』のお値段を比較してみると、いずれも本体価格で、単行本千二百八十円、POD版千八百九十円、電子書籍六百五十円、ということになります。

 こんなの出して、買うやつがいるのか。

 まあ、買いましたけど。

 そうかと思うと、とうとうこんなものまで。

 DLE:DLE、シリーズ累計 1660 万部、江戸川乱歩の大ベストセラー 「少年探偵団」を完全オリジナルストーリー 「超・少年探偵団 NEO Project」として現代に復活(2016年2月18日)

 「主人公を小林少年のひ孫という設定に変え完全オリジナルストーリーで仕掛ける」とのことですけど、べつにそんなの仕掛けていただかなくても。

 公式サイトもごらんください。

 超・少年探偵団NEO Project:Home

 ほんと、もう勘弁してくれないかしら。

 それから、盛林堂ミステリアス文庫の『孤島の鬼』は、あっというまにこうなったそうです。


 これは、届くのが楽しみ。

 さて、このあとはいったい、どんなのが出てくるのかな。
Posted by 中 相作 - 2016.02.15,Mon

 なんかもう、乱歩だらけ。


 こちらは予約受付が始まりました。


 私もさっき、予約しました。

 八千五百円もするんですけど。
Posted by 中 相作 - 2016.02.13,Sat

 きのうにつづいて、徳島県の話題です。

 それ地方創生だ、ってんで、消費者庁を徳島へ移転しよう、とぶちあげてみたら、お役人衆が大騒ぎ。

 ニュース速報+@2ch掲示板:【社会】「徳島に行きたくない」 片道切符の省庁地方移転に役人が駄々コネ★6 [無断転載禁止]©2ch.net

 そんな徳島でも、北島町は好評のようです。

 ニュース速報+@2ch掲示板:【社会】「徳島に行きたくない」 片道切符の省庁地方移転に役人が駄々コネ★6 [無断転載禁止]©2ch.net > 63

 さて、一昨年5月の講演会でもお世話になった北島町の小西昌幸さん、この3月でめでたく定年退職とのことですが、昨年9月23日付毎日新聞徳島版の「支局長からの手紙」で小西さんのユニークな足跡が紹介されましたので、天下御免の無断転載。


 小西さんの定年退職メモリアル事業は、3月20日開催のこちらとなっております。

 2016年1月17日:地引雄一講演会

 3月12日には、遠賀土手行きゃ雁が鳴く、でおなじみの遠賀町立図書館でこんな催しも。

 遠賀町立図書館:2016年3月12日(土)文学講演会『地方のまちから文化に風穴をあける』 (PDF)

 名張市立図書館の場合、地方のまちから乱歩シーンに風穴をあける、みたいなことがいくらでもできるはずなんですけど、このあたりのお役人にはとても無理みたいです。

 あしからずご了承ください。
Posted by 中 相作 - 2016.02.12,Fri

 続々刊行されてます。



 そういえば、乱歩は自著の新聞広告もスクラップしてましたけど、そんなことまではとてもできませんから、このツイート二件、スクラップの代用ということにしておきたいと思います。

 さて、徳島県の北島町立図書館・創世ホールの「創世ホール通信・文化ジャーナル」で講演録「永遠の十三〜海野十三と江戸川乱歩」の連載が始まりました。

 北島町:図書館・創世ホール > 文化ジャーナル > 平成28年02月号(PDF)

 余計なことばっか喋って結論を述べ忘れたしくじりがいままたこの胸にあらためて疼くような気がいたしますけど、ほんと、黒岩涙香が伊藤博文をフォーカスとかフライデーとかいたしましたあ〜、みたいな話は十三にも乱歩にもまったく関係がないのに、どうしてそんなことへらへら口走ったりしたんでしょう。

 恥をかいてきなさい、と誰かから命令されたわけでもないんですけど、人間、あちらこちらで恥をかきまくって生きてゆくもののようです。

 Twitter:恥をかいてきなさい

 そうかと思うと、5月にはまた「黒蜥蜴」があるそうです。


 もう好きなようにしてください、と思います。
Posted by 中 相作 - 2016.02.11,Thu

 それでまあ、著作権が切れたんだから、ひとつ乱歩の本でも出してみたら? とひとからいわれたことは一度もないんですけど、出してみたいな、という気はしないでもありません。

 しかし、出版産業はいうまでもなく大凶です。

 とくに地方は厳しい。

 信州の雄、郷土出版社もついにこうなりました。

 信濃毎日新聞:松本市の郷土出版社、閉業へ(2016年2月3日)

 社長の神津良子さん、「出版不況は手の施しようがなく」とコメントしてらっしゃいますけど、これはもうあらゆる手を尽くし、万策を講じた果ての痛切な実感であろうと思われます。

 出版不況は別にしても、そもそもどんな本を出すか、という問題もあります。

 乱歩の小説は現在ただいまあちらこちら、紙でもネットでも出版が相次いでいる状態ですから、少なくとも現時点では、このうえ屋上屋を架す必要はないように思われます。

 小説を除外すると、残るのは随筆評論のたぐいですが、評論にはまったく興味がもてません。

 となると、随筆しかなくなってしまいます。

 随筆、というだけではなんだか茫漠としていますから、括りや縛りを加えることにします。

 ならば、くくったりしばったりするテーマはなにがいいか。

 もちろんさまざまに考えられますが、土地はどうか、と思いつきました。

 私は名張の人間ですから、とりあえず名張という限定を加えて、名張が出てくる乱歩の随筆を一冊にまとめてみてはどうか。

 簡単にできることですが、残念ながら作品数が圧倒的に少ない。

 ですから、範囲をひろげてみました。

 名張→伊賀→伊賀・伊勢→三重→東海。

 東海がいいのではないか。

 五畿七道の東海道だと伊賀から常陸まで行っちゃいますけど、いま東海地方というと、愛知、岐阜、三重で東海三県、静岡が加われば東海四県。

 乱歩が書いた東海四県ゆかりの随筆、という括りないし縛りを採用してみると、ご先祖さまの土地だった伊豆国も入ってきますし、祖父の代まで侍として勤務した津、父親が勤め乱歩が生まれた名張、旧制中学を卒業するまで過ごした名古屋、サラリーマン生活を送り結婚相手と出会った鳥羽、といったあたりがカバーできますから、なかなか面白いのではないかしら。

 とはいえ、随筆をただ並べるだけでは妙味に欠けますから、時間軸に添って作品を、それもときに細切れにして連ねていってはどうか。

 たとえば昭和5年の「一頁自伝」など、ばらばらのフラグメントに分解して、幼年期、少年期、青年期のそれぞれに配してゆけばいいのではないか。

 乱歩は随筆八十篇を集めた『わが夢と真実』をモンタージュによる一冊だと称していますが、当方の手法はさらにさらに細かく、さしずめCTスキャンだということになるでしょうか。

 で、あれは昨年のいつであったか、この「まけないぴろたんへこへこまがじん」第一号を試作したあとのことでした。



 「まけないぴろたんへこへこまがじん」とまったくおなじサイズで、乱歩による東海ゆかりの随筆集の版面を設計してみたんですけど、最初に来るのはこの作品、ということにいたしました。


 紙の本にするのは最初からあきらめていたのか、ノドと小口が同寸の設計になってますけど、PDFなら問題はありません。

 たとえば名張市または名張市立図書館のサイトにこういったPDFが掲載されていてもまったく問題はなく、というか、乱歩を利用して名張市をPRする絶好の素材ではあり、それを読んでくれたひとが、よーし、名張市にふるさと納税しちゃうぞ、みたいな気になってくれないとも限らないわけですけど、名張市のお役人にそんなことを期待するのは無理、というか、酷というものです。
Posted by 中 相作 - 2016.02.09,Tue

 青空文庫に「人間椅子」が加わりました。


 底本は光文社文庫の乱歩全集第一巻。

 冒頭の段落を引いてみます。

 佳子よしこは、毎朝、夫の登庁とうちょうを見送ってしまうと、それはいつも十時を過ぎるのだが、やっと自分のからだになって、洋館の方の、夫と共用の書斎へ、とじこもるのが例になっていた。そこで、彼女は今、K雑誌のこの夏の増大号にのせる為の、長い創作にとりかかっているのだった。

 光文社文庫版全集の「人間椅子」は、平凡社版乱歩全集第一巻を底本として、新字新かなに改めたものです。

 いっぽう、乱歩みずから校訂した桃源社版全集では、「人間椅子」は第一巻に収録されていて、冒頭の段落はこうなっています。

 佳子よしこは、毎朝、夫の登庁とうちょうを見送ってしまうと、それはいつも十時を過ぎるのだが、やっと自分のからだになって、洋館のほうの、夫と共用の書斎へ、とじこもるのが例になっていた。そこで、彼女は今、K雑誌のこの夏の増大号にのせるための、長い創作にとりかかっているのだった。

 乱歩による校訂の要諦は、まずなによりも読みやすさに配慮して、そのさまたげとなりそうな漢字をかなに開くことであったようです。

 ちなみに、光文社文庫版全集第一巻の「解題」によれば、「人間椅子」は「初出、初刊本、平凡社版全集に大きな異同はない。春陽堂版全集は新字新仮名遣い(ただし、平仮名の拗音や促音の区別はない)、新送り仮名とし、漢字をひらいた。桃源社版はさらに漢字をひらき、平易なものとし、送り仮名をさらに送っている。また、読点を減らしているが、内容的に大きな加筆・訂正はない」とのことです。

 乱歩没後には、乱歩以外の人間の手で、つまり編集者の手で、同様の作業が進められることになりました。

 講談社からは没後三次にわたって乱歩全集が出版されましたが、テキストはそのまま踏襲されたわけではないようで、一次の「謂わば」が二次と三次では「いわば」になってる、みたいな例が散見されます。

 ではここで、昭和10年から11年にかけて発表された「彼」の表記の変遷を、ごく簡単に確認してみたいと思います。

 とはいえ、初出も初刊も手もとでは確認できませんので、初刊を底本とした光文社文庫版全集と没後第三次全集に相当する講談社乱歩推理文庫を並べて、「彼」の第一章、すなわち文庫本でわずか五、六ページのくだりを比較するだけの話です。

 ちなみに「彼」は、前者では第二十四巻『悪人志願』、後者では第四十九巻『鬼の言葉』に収められています。

 では以下、「光文社の表記 → 講談社の表記」。

分っている → わかっている
御国附 → 御国付
僅か → わずか
謂わば → いわば
出来なかった → できなかった
勤めたり → 務めたり
或は → あるいは
已に → すでに
殆んど → ほとんど
度々 → たびたび
色々 → いろいろ
絶間 → 絶え間
召使 → 召使い
出入 → 出入り
慣らい → 慣い
起って → 起こって
来る。(無論……出せない)すると → 来る(むろん……出せない)、すると
大盤振舞 → 大盤振舞い
思出話 → 思い出話
在る → ある
遂に → ついに
其後 → その後
屢々 → しばしば
為 → ため
持物 → 持ち物
又 → また
程 → ほど

 表記変更の要点は、漢字をかなに開く、送り仮名を増やす、漢字を別の漢字に置き換える、といったところだと判断されますが、とくに厳密なルールが設けられていたわけではなく、編集者が独断で適当に判断して表記に手を加えていたものと思われます。

 そういった恣意的な改変に批判の眼を向けるひとも当然あるはずですけど、私の場合、編集者としての立場から考えますと、この手のフォローは必要不可欠だということになります。

 漢字が多くて読みにくそうだ、なんていう理由で読者に敬遠されてしまうのは願い下げですし、そもそも乱歩自身、自作が商品として同時代に流通していることを念願しつづけていた作家ですから、現代の読者に違和感や抵抗感なしに受け容れられる表記にして提出するのは、編集者として当然の責務であろうと考えます。

 ところで、去年の秋、さる乱歩ファンのかたとお酒を飲んだときのことですけど、

 「知り合いの若いのに乱歩を読むように薦めたんですけど、しばらくして、乱歩の小説は改行が少ないから読みにくいという返事が返ってきました。意外な反応でした」

 とのことで、たしかに当節のエンタメだのラノベだのを読み慣れた眼から見れば、乱歩作品は改行が少なくて読みづらい、ということになるのかもしれません。

 だからといって、編集者が勝手に改行を増やすのはいうまでもなくNGです。

 もっとも、著作権が消滅してパブリックドメインになった乱歩作品を素材に、句点で自動的に改行してしまう「人間椅子」なんてのが世に問われる時代が到来するのかもしれません。

 青空文庫を素材にして、ちょっとやってみましょう。

 ルビは省略しますね。

 佳子は、毎朝、夫の登庁を見送って了うと、それはいつも十時を過ぎるのだが、やっと自分のからだになって、洋館の方の、夫と共用の書斎へ、とじ籠るのが例になっていた。
 そこで、彼女は今、K雑誌のこの夏の増大号にのせる為の、長い創作にとりかかっているのだった。
 美しい閨秀作家としての彼女は、此の頃では、外務省書記官である夫君の影を薄く思わせる程も、有名になっていた。
 彼女の所へは、毎日の様に未知の崇拝者達からの手紙が、幾通となくやって来た。
 今朝とても、彼女は、書斎の机の前に坐ると、仕事にとりかかる前に、先ず、それらの未知の人々からの手紙に、目を通さねばならなかった。
 それは何れも、極り切った様に、つまらぬ文句のものばかりであったが、彼女は、女の優しい心遣いから、どの様な手紙であろうとも、自分に宛られたものは、兎も角も、一通りは読んで見ることにしていた。
 簡単なものから先にして、二通の封書と、一葉のはがきとを見て了うと、あとにはかさ高い原稿らしい一通が残った。
 別段通知の手紙は貰っていないけれど、そうして、突然原稿を送って来る例は、これまでにしても、よくあることだった。
 それは、多くの場合、長々しく退屈極る代物であったけれど、彼女は兎も角も、表題丈でも見て置こうと、封を切って、中の紙束を取出して見た。
 それは、思った通り、原稿用紙を綴じたものであった。
 が、どうしたことか、表題も署名もなく、突然「奥様」という、呼びかけの言葉で始まっているのだった。
 ハテナ、では、やっぱり手紙なのかしら、そう思って、何気なく二行三行と目を走らせて行く内に、彼女は、そこから、何となく異常な、妙に気味悪いものを予感した。
 そして、持前の好奇心が、彼女をして、ぐんぐん、先を読ませて行くのであった。

 奥様、

 改行が増えて読みやすくなった、という印象を受けないでもありませんが、読みやすさというのはやはり、改行よりは表記に左右されるものであると思われます。

 つづく。
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