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Posted by 中 相作 - 2018.03.15,Thu
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毎日新聞
 平成30・2018年3月6日 毎日新聞社

SUNDAY LIBRARY|岡崎武志・評『蒼き山嶺』『イップス』ほか
 岡崎武志
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SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『蒼き山嶺』『イップス』ほか

2018年3月6日

今週の新刊

◆『蒼き山嶺』馳星周・著(光文社/税別1500円)

 馳星周の新作長編『蒼(あお)き山嶺(さんれい)』は、読者も寒さに耐えながら読む酷寒の山岳小説。元山岳遭難救助隊員の得丸は、下山途中の白馬岳で、公安刑事の池谷と再会する。二人は大学の山岳部で同期だった。

 池谷は得丸にガイドを依頼、残雪期の白馬を登攀(とうはん)していく。途中、出会った若い女性・ゆかりは、山岳部時代の仲間でアルプスで死んだ友人の妹だった。得丸には、二十数年前の雪山の合宿で、池谷に救われた借りがあった。

 やがて、池谷が何者かに追われる身であると知った得丸に、池谷は拳銃を突きつける。目指すは日本海のそのまた向こう、北朝鮮だった。刺客、行く手を阻む低気圧の嵐、斜面。それでも得丸は、体力を失った池谷をおぶって日本海を目指す。「山じゃ誰も死なせない」が山男である得丸の矜持(きょうじ)なのだ。

 池谷の隠された過去、兄の遺体を探しにK1行きを胸に秘めるゆかり。命を懸けた男と女の壮絶な闘いの果てに感動が待つ。

◆『イップス 魔病を乗り越えたアスリートたち』澤宮優・著(角川書店/税別1500円)

 阪神ファンにとっての憂鬱は、若きエース藤浪の不調。平成29年の四球45、死球8は呪われているようだ。選手生活の危機とまで言われた。その不調の背後に囁(ささや)かれたのが『イップス』。肝心な場面で失敗する運動障害を指す。

 これは藤浪だけではない。澤宮優は、この悪夢のような症状を、プロ野球選手、プロゴルファーの取材から解き明かす。彼らは、どうやって“悪魔”と手を切ったのか?

 元日ハムの岩本勉は陽気な人気選手だったが、じつは入団から数年、捕手にボールが届かず苦しんだ。元ヤクルトの内野の名手・土橋勝征(かつゆき)は、何度やっても送球がスライドする。彼らは苦しみ苦しむ日々を送る。知らなかった!

 原因は不明、克服法もなく解雇寸前。しかしコーチの熱心なサポートがあり、最後はみな自分との闘いで立ち直る。岩本は「どんなときも明るさを失わないこと、人を信じること」で明日を掴(つか)む。澤宮はいつも弱き者を描く。熱き「人間論」は常に読む者の胸に迫る。

◆『小村雪岱随筆集』真田幸治・著(幻戯書房/税別3500円)

 電子化が進み、紙の本が劣勢になったら、泉鏡花『日本橋』を手に取ればいい。美術工芸品でもあるこの本の装幀、挿絵を手がけたのが小村雪岱(せったい)。繊細な線描による美人画はいかにして生まれたか。

 『小村雪岱随筆集』は、名著『日本橋檜物町』に、新たに発掘された44編を加えた決定版。モデルを使わず、「私の内部にあるもの」で美人を描く。それらの言説は、豊富な図版を見れば、確かにと思わされる。装幀・組版と解説を担当した編者真田幸治の思いが全編に漲(みなぎ)り、美しい本に仕上がった。

◆『文豪文士が愛した映画たち』根本隆一郎・著(ちくま文庫/税別950円)

 根本隆一郎編『文豪文士が愛した映画たち』は、井上靖、大岡昇平、遠藤周作など、昭和の作家による映画に関する文章を集めたオリジナル・アンソロジー。江戸川乱歩の一文はヒッチコック会見記。来日したホラーの巨匠は、特別のワインしか飲まず、日本料理も口にしない「傍若無人」な態度だったが、夫人がそれをフォローした。「こんな愉快な映画を、ついぞ見たことがない」と檀一雄が絶賛したのは、デ・シーカの「昨日・今日・明日」。川端康成と安部公房のモンロー論など興味津々だ。

◆『外国人が熱狂するクールな田舎の作り方』山田拓・著(新潮新書/税別740円)

 田畑と山に囲まれた飛騨の里山に、今や毎年数千人の外国人旅行者が訪れる。これを手がけたのが山田拓。『外国人が熱狂するクールな田舎の作り方』で、そのユニークな戦略を開陳する。そこにあるのは、蕎麦畑に建つ古民家、田んぼで鳴くカエル、道端の湧き水でいれたおもてなしのお茶……。この「何気ない日常」こそが、訪問者の99%が絶賛のコメントを寄せるコンテンツとなる。しかし、そこに至る道のりは遠かった。格闘と模索の末に、著者が得た「逆転の戦略」とは?

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岡崎武志(おかざき・たけし)
 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2018年3月18日増大号より>
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