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Nabari Ningaikyo Blog
Posted by - 2024.04.27,Sat
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Posted by 中 相作 - 2018.03.11,Sun

 零細出版社と無名の著者へのご支援、どうもありがとうございます。

 おかげさまで、第三位。

 アマゾン:作家研究 の 売れ筋ランキング

 第二位につけたスティーヴン・キングの背中が見えてきた気がいたします。

 あれが、あれがスティーヴン、記念のスクショを貼りましょね。


 本日はあとがきをお読みいただきます。

 段落間の一行あきはブラウザ上の読みやすさに配慮し、転載にあたって新たに設けたものです。

あとがき

 江戸川乱歩の生誕地、三重県名張市に生まれ育って一九九五年十月から二〇〇八年三月まで市立図書館の乱歩資料担当嘱託を務めた。知性にはまるで無縁な土地柄である。図書館といっても館長は日本語の読み書きさえ怪しいお役人だし、乱歩関連資料を収集しておりますと立派な看板を掲げても内情はいっそ痛快なまでにでたらめである。どれほどでたらめであるかは昨年十月に配信された電子書籍『江戸川乱歩電子全集 第16巻』(小学館)収録のインタビュー「カリスマ嘱託の驕慢と頽落」で委曲を尽くしておいたからここでは述べない。とにかく嘱託を拝命したのだからと名張市立図書館の江戸川乱歩リファレンスブック1として『乱歩文献データブック』を編纂し、第一章第六節「大衆意識の可能性──江戸川乱歩」で乱歩を思想史に位置づけた鷲田小彌太さんの『昭和思想史60年』(三一書房、一九八六年)も乱歩関連文献の一点として記載した。刊行は一九九七年三月。ふと思いついて、鷲田さんに一冊お送りしたと記憶している。

 ちょうど二十年後の昨年三月、その鷲田さんから突然連絡が入った。津市立三重短期大学の教え子との会合に出席するため津へ行く、名張まで足を伸ばすから会えないかというのが用件だった。五月の夜、初めてお目にかかった鷲田さんは凄まじいような勢いでお酒を飲みながら、乱歩の本を書け、とおっしゃった。枚数は二百五十枚、締切は十一月末、出版社も決めてあるからとかなり強引なお話だったが、せっかくのご指名をお断りする道理はどこにもない。とはいえ半年で二百五十枚、田舎でのんびりくすぶっている非才の身にそんな芸当が可能かどうか、内心首を傾げながらわかりましたと答えてさっそく書き始めてみたものの、じきに不可能だと判明した。しかし、やっぱり無理でしたと開き直れるような度胸はない。これまでに書いたものを寄せ集めてお茶を濁すことに決め、なんとか二百五十枚、言視舎の杉山尚次さんに電子メールでPDFファイルを送信した。同じようなことばかり書いてあるからものにならないだろうと踏んでいたところ、杉山さんからひとつのできごとにいろいろな角度からスポットが当てられている点が興味深いと意外な評言をいただいて、ああ、江戸川乱歩は富士山だなと思い当たった。

 富士の頂角、広重の富士は八十五度、文晁の富士も八十四度くらい、北斎に至っては三十度くらいという著名なフレーズが事実かどうかはともかく、富士山は見る位置、描く人間によってさまざまに姿を変えると伝えられる。乱歩も群盲に撫でられる一頭の巨象のような存在で、『乱歩文献データブック』に頂戴した中島河太郎先生のエッセイ「江戸川乱歩評判記」も「各人各説でまだまだ乱歩の全貌を摑むのは容易でない」と結ばれていた。だから本書も変わり映えのしない素材を扱った同工異曲の実話読みもの八篇、何の愛想もなく漫然と並べてお茶を濁しているだけの本では決してなく、視点を少しずつずらしながら仰ぎ見た富嶽百景ならぬ乱歩八景の試みなのであると思い込むことにした。同じ時代の同じ舞台に同じような人物がくり返し登場することからフォークナーや中上健次の向こうを張ってタイトルにサーガと謳おうかとも考えたのだが、それでは印象がフィクションめいてくるうえ大仰に過ぎる気もしてクロニクルに落ち着いた。巻末の「作品年譜」にはクロニクルの面目が躍如としているような気配がないでもないだろう。

 収録作品に簡単に触れておくと、「涙香、「新青年」、乱歩」は「はしがき」に記したとおり二〇〇九年の短い講演がもとになっている。残りは乱歩作品を中心に少部数の豪華本出版を手がける藍峯舎の書籍に寄せた解説が大半を占め、刊行時期は二〇一二年からつい先日の今年二月まで。二〇一三年の『横溝正史研究』は「横溝正史の一九三〇年代」を特集したナンバーだったが、あいにく一九二八年から二九年にかけての話題しか思いつかなかったから「一九三〇年代前夜の正史と乱歩」という副題をつけてお茶を濁した。同じく二〇一三年の「小説現代」はグラビア「奇跡の発見! 江戸川乱歩『黄金仮面』、戦前の生原稿450枚」の掲載号で、解説を担当したところ肩書を求められたため江戸川乱歩書誌作成者というのをでっちあげてお茶を濁した。

 振り返ればお茶を濁してばかりの世渡りである。なりゆきに任せてただ馬齢を重ね、この三月には晴れて前期高齢者の仲間入りを果たす仕儀となってしまったが、ほぼ時期を同じくして本書を世に送る機会に恵まれた。講演であれ、解説であれ、出版であれ、田舎でのんびりくすぶっている非才の身を引き立て、ここに至る道を開いてくださったみなさんには感謝の言葉もない。さらにさかのぼればすべての起点は名張市立図書館にほかならず、名張市のお役人がいっそ爽快なまでに無能だったからこそこうした僥倖に逢着できたのである。知性にはまるで無縁な土地柄にも尽きせぬ謝意を表しておくべきかもしれない。

二〇一八年二月二十五日、バンクーバー冬季五輪から早八年、平昌冬季五輪の閉会式が催される日に


 お読みいただいたとおり寄せ集めの一冊ですが、面白そうだなとお思いでしたらぜひどうぞ。

 Amazon.co.jp:乱歩謎解きクロニクル

 発売は今月30日の予定です。
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