書籍：鏡の偽乙女 薄紅雪華紋様

書籍

 

鏡の偽乙女　薄紅雪華紋様

　朱川湊人

　平成22・2010年8月30日第一刷　集英社

　B6判　カバー　257ページ　本体1600円

　初出：小説すばる　2008年1月号、5月号、7月号、11月号、2009年1月号

 

関連箇所

第五段　夜の夢こそまこと

　初出：小説すばる　2009年1月号

　初出タイトル：夜の夢こそ

　p199ー257

 

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第五段　夜の夢こそまこと

 

　1

 

　朋友・穂村江雪華と過ごした日々を思い起こすたびに、人というものは、はなはだ奇妙な磁力を持っているものだと思わざるを得ない。

　思えば彼と出会うまでの私は、面妖な出来事とは一切無縁の人生であった。むしろ、そういった超自然的なものの存在を頭から否定していた口で、まことしやかな幽霊譚などを聞かされても、諺どおりに風に揺らぐ枯れ尾花でも見たのだろう……と一笑に付すのが常であった。だから中学の友人などからは、やれ夢がないの面白みがないのと、さんざんに扱き下ろされたものである。

　おそらく、それは物心ついた頃から、実学一辺倒の父より「この世に神も仏もあったものではないぞ」と、さんざんに教え込まれてきたことが大きく影響しているのではないかと思う。

 

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集英社：鏡の偽乙女