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Posted by 中 相作 - 2011.05.27,Fri

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毎日jp

 平成23・2011年5月26日 毎日新聞社

 

サンデーらいぶらりぃ:張 競・評「押絵と旅する男」江戸川乱歩・著

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サンデーらいぶらりぃ:張 競・評「押絵と旅する男」江戸川乱歩・著

 

◆意表をつく展開、巧みな語り口

 

「押絵と旅する男」江戸川乱歩・著(岩波文庫『江戸川乱歩短篇集』所収)

 

 その日、「私」は魚津の駅から上野への汽車に乗っていた。同じ車両には二人しか乗っておらず、古風な背広を着ている初老の男は奇妙な押絵を持っている。彼が語った絵の来歴は不思議なものだ。

 

 押絵に描かれた老人は男の兄。あるときから兄はご飯もろくに食べず、家族とも口を利かない。一人で閉じこもって考え事ばかりしている。心配した男がその後をつけて行ったら、浅草の凌雲閣の上で誰かを探していた。以前、双眼鏡で偶然目にした美少女に一目ぼれしてしまい、それ以来、毎日ここに来て探しているという。真相を突き止めてみたら、兄がいう美少女とは、覗きからくりの押絵であった。それでも兄は諦めきれず、弟に遠眼鏡を逆さにして、自分を覗かせた。すると、その体はみるみるうちに小さくなり、ついに押絵になって美少女の横に並ぶようになったという。

 

 やがて、汽車は小さい駅についた。電車を降りて改札口を出る男を見ると、細長い後姿は、押絵の中の老人にそっくりの姿である。

 

 江戸川乱歩は「正統派」の文学史ではまともに取り上げられることはほとんどない。しかし、その作品は近年、中国で翻訳され、高い人気を獲得している。八十年ほど前に書かれた小説であるにもかかわらず、多くの「純文学」よりも広く読まれている。

 

 この小説は乱歩の作品の中でも異色なものだ。第一、推理小説的な展開はない。恋を成就するために、自ら押絵になるという構想が奇抜で、本来、物語として描くには困難が多い。望遠鏡を逆さに見るという奇想天外な設定で、この難題は簡単に解決された。明治以来、夢と現実の境界を行き来する経験を描く作家は数少なくないが、その系譜においても、この小説は幻想小説の絶品といえよう。

 

<サンデー毎日 2011年6月5日号より>

 

2011年5月26日

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