Nabari Ningaikyo Blog
Posted by 中 相作 - 2015.05.23,Sat
鬼火コースです。
中井英夫は1971年、講談社の定本人形佐七捕物帳全集月報に寄せた「廃園にて」を、こんなふうに結びました。それにしてもどこかで、喪われた竹中英太郎の挿し絵もそのままに『鬼火』の豪華限定版を出そうという奇特な出版社はないものだろうか。むろんそのときは『槿槿先生夢物語』──あの、いまもって探偵小説の真の魅力をのこらず説いた、色暗い宝石のような輝きを持つ文章も併せて収めてもらいたい。それこそこの廃園に、束の間の幻影の花圃を現前させてくれるに違いないのだから。
たしかに1971年の時点では、竹中英太郎による「鬼火」の挿絵は「喪われた」というしかなかったわけですが、その後、原画が発見されて、現在は世田谷文学館に所蔵されています。
ですから、たとえば東京創元社の日本探偵小説全集9『横溝正史集』の「鬼火」にも英太郎の挿絵全点が収録されていて、もっともこれは「新青年」の誌面から起こしたもののようですが、ともあれ横溝正史ファンや探偵小説ファンにはすでにおなじみの絵だ、といっていいように思います。
しかし、藍峯舎版『鬼火 オリジナル完全版』の挿絵は、そもそもそこらの文庫本とは用紙も印刷技術も比較にならず、むろん「新青年」の初出よりもはるかに精細鮮明に原画が再現されているものと思われます。
詳細はこちらでどうぞ。
▼株式会社藍峯舎:藍峯舎通信
ご参考までに、「新青年」昭和10年2月号の復刻版のコピーをスキャンした挿絵を一点、ここに掲載しておきます。
正史ファン、探偵小説ファンにはよく知られているとおり、この2月号に掲載された「鬼火」前篇は検閲のせいで十ページが削除処分とされましたが、この挿絵は削除されたページに見開きで収められていたものです。
英太郎の原画はほとんどすべて散逸してしまっていて、「鬼火」のそれが良好な状態なままで残されていたのは稀有な例外といってよろしく、そもそもその原画の存在がなかったら、今回の『鬼火 オリジナル完全版』が企画されることもなかったはずです。
いったんは行方不明になっていた英太郎の原画と正史の原稿、それからページの削除を免れた「新青年」昭和10年2月号、それらがいったいどんな数奇な運命をたどって『鬼火 オリジナル完全版』で再会をはたしたのか、私にもよくはわかりませんが、そうした因縁もいささかは視野に入れた解説「『鬼火』因縁話」はおかげさまで再校も終え、あとは念校を待つばかり。
どちらさまも首を長くして、どうぞもうしばらくお待ちください。
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