異色アンソロジー、小説大全「冒険の森へ」 北方謙三さんら5作家

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　平成27・2015年5月6日　産経新聞社、産経デジタル

異色アンソロジー、小説大全「冒険の森へ」　北方謙三さんら5作家
　海老沢類
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2015.5.6 10:30

異色アンソロジー、小説大全「冒険の森へ」　北方謙三さんら５作家

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編集作業を通じて「日本の大衆小説の豊かさをあらためて感じた」と話す北方謙三さん　（小野淳一撮影）

　■心震わす面白さ追求

　ジャンルは不問。「心を揺り動かす面白さ」を基準に物語性に富んだ２０世紀の日本の小説を集める。集英社が創業９０周年記念企画として、そんな異色のアンソロジー『冒険の森へ　傑作小説大全』（全２０巻）を１２日から刊行する。編集委員の一人、北方謙三さん（６７）に作品選択に込めた思いなどを聞いた。（海老沢類）

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　アンソロジーの題名は冒険小説というジャンルを指すわけではない。

　「冒険ってのは本を読む行為そのもの。面白い物語を読んで『心の冒険』をしてほしい、というメッセージです」と北方さん。編集委員はほかに逢坂剛さん（７１）、大沢在昌さん（５９）、夢枕獏さん（６４）、先月７１歳で亡くなった船戸与一さん。エンターテインメント小説界を牽引（けんいん）してきた大御所５人が昨今の読書離れへの危機感を共有しながら編んだ作品集でもある。

　「文学全集って普通しゃちほこ張ってるでしょ？　そんなの一切関係なくね、物語の面白さだけを追求した。登場人物に感情移入できて心が震えて、涙がぽろぽろ落ちてくる…というのが小説の魅力。天下国家を論じる『大説』じゃあないんだから。『小説が読まれない』と言われる今こそ、その面白さを提示するのが大事だと思ったんだよ」

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　◆「両極」な２人

　収録するのは３６長編に、短編や掌編などを加えた１４３作家による２５４編。「移動」をテーマにした第１巻『漂泊と流浪』が作品集の性格を規定している。日本の探偵小説の父、江戸川乱歩著『白髪鬼』と井上靖著『敦煌』という２長編を並べる。「井上靖は文学性が高く、乱歩は通俗を追い求めた。この２人を『両極』と定め、その間にある小説から選ぶという発想。扱う作品の幅がここで宣言されている」

　だから冒険小説からハードボイルド、警察小説、時代小説、ＳＦ、ホラー、純文学まで顔ぶれは多彩。長編は馳星周著『不夜城』など、主に時代をつくったエンターテインメントが年代記風に並び、短掌編には夏目漱石や森鴎外、芥川龍之介、川端康成、吉行淳之介ら純文学系の作家もたくさん入る。

　殺人へと走る男の暗い情念を乾いた文体で描き、日本のハードボイルドの草分けとなった大藪春彦著『野獣死すべし』（第３巻『背徳の仔ら』所収）を選んだことにも編集委員の個性が表れている。「これは石原慎太郎さんの『太陽の季節』と併記されるべき作品。文学によって戦後民主主義を否定し『何か新しいものはないのか？』って問いかけたんだから。優れたハードボイルド小説は人間をしっかり見つめて書いているから時間がリアリティーを食い潰さない。若い現役作家が読んでも勉強になると思うよ」

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　◆「闘い」の結果

　旧知の５人がそれぞれの読書歴を持ち寄り、各巻のテーマや収録作を議論する。自作執筆の合間を縫っての編集作業を「楽しいバトルだった」と振り返る。

　「５人がこれまで全然違う本を読んでたりするから新鮮でしたよ。それに仲が良いからお互い引かずにののしり合える。闘った結果を示さないと読者に説得力もないし礼儀も欠く」。視線はおのずと出版界の未来へ向く。「小説があることで救われたと思える瞬間がある。これはゲームの魅力とはまた質の違う感動です。みんなが自分の場所でできることをやっていけば、小説も蘇生（そせい）すると思うなあ」

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【プロフィル】北方謙三　きたかた・けんぞう　昭和２２年佐賀県生まれ。５８年に『眠りなき夜』で吉川英治文学新人賞。平成３年に『破軍の星』で柴田錬三郎賞。１６年に『楊家将』で吉川英治文学賞、１８年には『水滸伝』全１９巻で司馬遼太郎賞。２５年に紫綬褒章。

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　『冒険の森へ　傑作小説大全』の第１回配本は第１１巻『復活する男』と第１６巻『過去の囁き』（発刊記念特価２０００円＋税）。以降７月から毎月刊行予定で各２８００～３２００円＋税。