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Nabari Ningaikyo Blog
Posted by - 2024.05.15,Wed
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Posted by 中 相作 - 2015.02.26,Thu

 池袋駅のこれ、きょうまでの予定です。


 つづきまして、当地における例の一件の続報です。

 伊賀タウン情報YOU:異議申し立て却下 厳重注意処分の柏市議 名張市議会(2015年2月25日)

 名張市議会議長の吉住美智子先生、下手な逃げを打って問題をごまかしていらっしゃる印象ですけど、こうなると、やっぱ漫才のネタとして採用せんわけには行かんのやないか、という気がしてまいります。

 ちなみに、吉住美智子先生のお名前を当ブログで検索いたしましたところ、こんなエントリが引っかかってきました。

 2014年6月26日:震災がれきはすっかり風化しとるがな

 さて、たまには『奇譚』の話でも綴ることにいたします。

 「伊賀一筆」第一号に掲載した「奇譚(抄)」をお読みいただいたかたはすでにご存じのところですが、乱歩の『奇譚』には、序文にも本文にも、どこにも「奇譚」という言葉は使用されておりません。

 乱歩は自身の嗜好に適う小説を「curious novel」と仮称して、論述を進めています。

 ネットで検索して、「プログレッシブ英和中辞典(第4版)」にみえる「curious」の語釈から引いておきます。

1 (よい意味で)知りたい, 知りたがっている, 好奇心の強い[をもっている], (見聞き)したい, (…)したがる((to do));(悪い意味で)せんさく好きな;おせっかいな
2 好奇心をそそる, 不思議な, 珍しい, 奇抜な, へんてこな. ⇒STRANGE[類語]
3 ((婉曲))〈本が〉わいせつな, みだらな, 好色の(pornographic).

 『奇譚』の表紙には「extraordinary」という言葉も記されていて、こちらの語釈はこうです。

1 非常な, 異常な;非凡な;風変わりな, 驚くべき;顕著な;途方もない
2 ((通例名詞のあとに置いて))〈公務員などが〉特派の;特命の

 ボードレールが訳したポーの作品集『Histoires extraordinaires』を紹介したあと、乱歩はこう記しています。

 ソシテ書名ハ「Histoires extraordinaires」。Curious novelヨリモコレヲ応用シテextraordinary novelノ方ガヨイカモ知レヌ。

 「Histoires extraordinaires」は、異常な物語、ということになろうかと思います。

 こんな本ですけど。


 で、curious novelとはどういうものか、というと、序文にはcurious novelの特徴がこう記されています。

コレヲ名付クベキ文字ヲ知ラヌガ、死ト云ヒ、神秘ト云ヒ、恐怖ト云ヒ、暗黒ト云ヒ、凄惨ト云ヒ、怪奇ト云ヒ、知識ノ凄サト云ヒ、好奇的ト云フ。コレラノ概念ヲ打ッテ一丸トシタ、アル感ジデアル。

 序文には「今日迄僕ハ内的文学ノ尊キコトヲ知リナガラモ、多クハplotノ奇怪ナルromanceニ趨ッタ」とも書かれていて、人間の内面や成長なんてものより、プロットの面白さのほうが重要だ、みたいなことを乱歩は主張してるわけですが、文芸ジャーナリズムにおいていわゆるエンターテインメントが全盛を迎えている現代では、乱歩のこうした主張は違和感なく受け容れられるもののようで、げんに「伊賀一筆」第一号でこの序文をお読みいただいたかたのなかには、そういった旨を記したはがきやメールをくださったかたもいらっしゃいます。

 『奇譚』から七年後、乱歩は「二銭銅貨」でデビューしますが、探偵小説作家として立ったあと、curiousないしはextraordinaryという形容詞で語られていた偏愛や嗜好はどうなったのか、というと、乱歩は「探偵趣味」という言葉でそれを表現するようになります。

 大正15年9月の「探偵趣味」には、こう記されています。

 探偵趣味というのは、探偵小説的な趣味という意味で、猟奇趣味と呼んでも差支ない。つまり、誰かが云った奇を猟り異に耽る趣味なのだ。人間に好奇心のある間は、この趣味のすたる時はあるまいと思われる。
 一方に於ては、怪奇、神秘、恐怖、狂気、冒険、犯罪などのそれ自身の面白さを意味し、他方では、それらの不思議だとか秘密だとか危険だとかを、うまく切り開いて行く明快なる理智の面白さを意味する。そんな要素が集って、探偵趣味というものが形造られている。

 「誰かが云った」というのは、佐藤春夫が大正13年8月、「新青年」夏期増刊号に発表した「探偵小説小論」を指しています。

 佐藤春夫がこの短い文章で探偵小説を定義した「要するに探偵小説なるものは、やはり豊富なロマンチイシズムといふ樹の一枝で、猟奇耽異の果実で、多面な詩といふ宝石の一断面の怪しい光芒で」といったくだりは『探偵小説四十年』にも引用されていますが、「猟奇耽異」には「キユーリオステイハンテング」というルビが振られていて、佐藤がcuriosityという言葉を使用していたことは、乱歩をして、わが意を得たり、という気持ちにさせたのではないかと思われます。

 さて、上に引いた「探偵趣味」の冒頭には、『奇譚』からそのままひきつづいた見解が語られているようです。

 『奇譚』には、数多いcurious novelないしはextraordinary novelのなかから探偵小説を抽出していった過程が記されているのですが、それは「探偵趣味」に即していえば、「怪奇、神秘、恐怖、狂気、冒険、犯罪」といった要素を「明快なる理智」に結びつける作業だったと呼べないでもありません。

 「奇譚(抄)」の解題には、凄さから面白さへ、作品を評価する基準が微妙に変化している、と記しましたが、変化のきっかけはいうまでもなくポーの作品で、「赤き死の仮面」をはじめとしたミスティックな作品には凄さを認め、「黄金虫」などの探偵小説にはまさしく「明快なる理智の面白さ」を感じて、その手の面白さは後続のドイル作品でいよいよ多く語られてゆく、という寸法です。

 で、「探偵趣味」に記された探偵趣味の定義をよく読むと、謎という言葉が登場していないことに気づかされます。

 毎度毎度の一本ネタで申しわけありませんが、「奇譚(抄)」の解題にも引きました『幻影城』冒頭の定義、しつこくもまた掲げておきます。

 探偵小説とは、主として犯罪に関する難解な秘密が、論理的に、徐々に解かれて行く経路の面白さを主眼とする文学である。

 この定義を書いたときはもとより、乱歩はデビュー当初から、謎という言葉にまったくといっていいほど興味を示さず、秘密という言葉に惹かれていた、ということになります。

 それが証拠に、デビュー作の「二銭銅貨」は当初、「秘密小説」として構想されていました。

  八木書店:近代文学草稿・原稿研究事典

 この本の第二部「作家別事例」に収録された浜田雄介さんの「江戸川乱歩」から引用。

 デビュー作である「二銭銅貨」は大正12年の「新青年」に掲載された作品だが、回想類や『貼雑年譜』によれば、大正9年に立案し、大正11年にあらためて執筆されたものである。その大正9年の立案段階における資料として、荒筋と草稿が残されている。「荒筋」は「センター通信」平成19年1月号に翻字紹介されたが、巻紙に毛筆で六七行、封筒には「秘密小説/二銭銅貨荒筋/大正九年五月十日記」と同じく筆書きされている。一方の草稿は「大衆文化」平成20年3月号(創刊準備号)に翻字されたが、手製原稿用紙二〇×一〇行一四枚ペン字で、紙縒りで束ねられた一枚目欄外に、後から付されたと思われる「(大正9年頃)」の書き込みがある。厳密な執筆順序は確定できないが、両者の内容に大きな食い違いはなく、ほぼ同時期のものとは推測される。

 大正9年の時点で、乱歩はむろん探偵小説という言葉を知っていたわけですが、「二銭銅貨」を立案するにあたっては、探偵小説ではなく秘密小説という耳慣れない呼称を与えていました。

 そういえば、『探偵小説四十年』の「私を刺戟した評論」には、佐藤春夫の「探偵小説小論」に言及したあと、こんなことが記されています。

 この前半の探偵小説の定義はその後、私は随筆などに屢々引用している。ここに用いられた「猟奇耽異」という言葉は、その出典を知らないけれども、異様に魅力があり、後年横溝君など数人の探偵作家が寄り合った席上「探偵小説」という名称はどうも面白くない、何かこれに代るよい言葉はないだろうかという話が出たとき、右の佐藤氏の文章から思いついて「猟奇小説」「耽異小説」などの案が出た。そして、横溝君は自分の作品に「猟奇小説」という肩書きをつけたこともあるが、そんなことから、戦前にも、怪奇異常の小説を一般に「猟奇小説」と呼ぶようになり、新聞記事などにもこの言葉が常用されるにいたった。

 探偵小説なんて名前は面白くない、ということは、自身の嗜好に適うcuriousでextraordinaryな物語、換言すれば猟奇耽異や異常を主題とした物語の器として、探偵小説というのはもうひとつしっくりこない、ということであったのか。

 『奇譚』には「探偵小説ガcurious novel中下級ニ位置スルコトヲ否ムコトハ出来ナイ」との記述もあるのですが、ともあれ乱歩の探偵趣味は、『奇譚』の影を色濃く曳きながら、探偵小説の核であるはずの謎を欠落させたなにかしら理念のようなものとして、この国の探偵小説を牽引してゆくことになるわけです。

 この項、つづきます。
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