Nabari Ningaikyo Blog
Posted by 中 相作 - 2011.01.22,Sat
横溝正史と江戸川乱歩(13)
桐屋敷で何が起きたのか、時間の経過に沿って書き出してみましょう。
いやその前に、作品に挿入された屋敷の間取り図をご覧いただいておきましょうか。
■20110122a.jpg
さて、事件が起きた夜のこと。
・午後8時、雨があがる。
・午後8時、静子が麹町の家を出る。
・午後9時、奈美子がお抱えの自動車で麹町の家を出る。
・午後9時、桐屋敷では留守番の五郎爺さんが床に入る。
・午後9時過ぎ、桐屋敷に向かうタクシーが石切橋の交番の前を通過する。客は女性。
・午後11時25分、新井巡査が定期巡回で桐屋敷のあたりに到着。桐屋敷は無人のはずだったが、二階から灯りが洩れていた。不審に思って屋敷に入った新井巡査は、階段を昇る途中で「静さん──、静さんは居ないの?」という男の声を耳にする。ついで「あっ! お前は!」という声。急いで階段を駆けあがった新井巡査は廊下のつきあたりの窓から外へ飛び出そうとしている男を発見し、男に組みついたもののアッパーカットをくらって気絶してしまう。男は窓から飛び降り、低い塀を越えて一目散に逃走した。騒ぎを聞きつけた近所の青年たちがあたりを捜索したが、男は切支丹坂のほうへ曲がって見えなくなってしまったという。
・午前0時近く、気絶から回復した新井巡査は起きてきた五郎爺さんと桐屋敷の二階で奈美子の死体を発見する。
新井巡査が桐屋敷へ踏み込んだときの梗概が簡略に過ぎましたので、少しく補足しておきました。桐屋敷ではこのあと、所轄警察署の署長らによる捜査が行われます。奈美子が殺害されていたのは二階の居間で、死体はソファの足許に転がっており、茶卓の上にはワイングラスがふたつと葡萄酒の瓶が一本。どちらのグラスも空でしたが、内側が濡れていました。奈美子は絞殺されたように見えましたが、毒殺の可能性を考えたのか、刑事はグラス内側の付着物を分析するよう警察医に依頼。そのあと床に落ちていた小さい紙片をふたつみっつ拾いあげ、ポケットにしまいます。燃えさかるガスストーブは新井巡査と五郎爺さんが入ったときにはすでに火がついていたとのこと。五郎爺さんは奈美子がいつ桐屋敷にやってきたのか、まるで知らなかったといいます。
・午前0時近く、静子が拓殖大学へ出る道で御用聞きの源さんに出会い、奈美子が自殺した、いや自分が奈美子を殺した、と伝えて走り去る。
・午前0時過ぎ、要太郎が麹町の家に帰宅する。
・時刻不明、尋問を終えた五郎爺さんが住居に戻り、かくまっていたらしい誰かに声をかけるが、その人物は姿を消していた。
ざっとこんなところですが、いろいろ謎があります。
新井巡査が踏み込んだとき、二階には男がいて、待ち合わせでもしていたのか、名を呼びながら静子を探していました。その男は誰か。男は誰を発見して「あっ! お前は!」と声をあげたのか。男はどこへ逃げたのか。男に発見された人間はどこへ消えたのか。
お抱えの自動車で家を出た奈美子はなぜ桐屋敷を訪れたのか。居間でワインを飲んだのは誰と誰だったのか。奈美子が誰かを相手にワインを飲んでいたのか。奈美子の死因は絞殺だったのか、それともワインに毒物が混入されていたのか。刑事が拾った小さい紙片は何か。
石切橋の交番の前を通過して桐屋敷に向かったタクシーに乗っていた女性は誰なのか。なぜ拓殖大学前まで乗り入れず、交番の前を通って桐屋敷へ行ったのか。
静子はどこへ行っていたのか。桐屋敷で男と会う約束をしていたのか。奈美子を殺したという静子の言葉は本当なのか。
五郎爺さんは誰をかくまっていたのか。その人間はどこへ消えたのか。
かくのごとくいろいろ書き出してはみたものの、結局なんにもわかりません。「桐屋敷の殺人事件」に記された事実を整理すれば犯人の目星くらいはつくかもしれないと虫のいいことを考え、あわよくば解決篇をでっちあげられるかもという皮算用さえないわけではなかったのですが、いやもうとてもとても。どなたか解決篇にチャレンジなさってはいかがなものかと。
つづく。
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