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Posted by 中 相作 - 2013.12.14,Sat
ウェブニュース

毎日jp
 平成25・2013年12月2日 毎日新聞社

嗜好と文化 vol.33 竹吉優輔
 網谷隆司郎
 Home > 特集企画 嗜好と文化 > 記事











 「実は私、今、公僕をやっておりまして」と語り始めた竹吉優輔さん。茨城県牛久市内の公立図書館の司書として勤務しながら小説を執筆。今年見事、第59回江戸川乱歩賞を受賞した。図書館の 静謐せいひつさをまとったような雰囲気を漂わせるが、受賞作「襲名犯」の主人公は図書館司書という設定。自分の知っている世界と、猟奇殺人という想像力を駆使した世界とを巧みに重ね合わせて、物語を紡ぎ出した。「物語を創るのが小さい時から好きだった」という33歳のサクセスストーリーは?

 このたびは江戸川乱歩賞受賞、そして作家デビュー、おめでとうございます。月並みな質問ですが、受賞決定の一報は、どんな状況で受けられたのですか。

「最終選考の結果発表の日は自宅にいてくれと言われておりまして、友人と母と一緒に待っていました。夜6時近くに電話があって、第一声が『取りました!』でしたので、私はひと言、『え、どなたがですか?』と尋ねると、私だと。すぐに『本当ですか!?』と大声を出してしまいました。やったぁ!という気持ちでした」

 確か、3度目の応募でしたよね。結果を待つ間は、「三度目の正直」を信じていたのか、「二度あることは三度ある」という不安にさいなまれていたのか……。

 「1回目は1次審査を通り、2回目は2次審査、そして3回目の今回は5人が残る最終審査と、着実に進歩してきたので、仮に3度目で落ちても、このまま前進して臨めば、きっと"4度目の正直"があるとポジティブに信じていました」

 まさしく「ホップ・ステップ・ジャンプ」の快挙でしたね。

 「すでにエッセーにも書きましたが、ホップ・ステップ・大気圏!というくらい、大きく跳んでしまったな、という思いです」

 受賞作「襲名犯」は、図書館司書の主人公とつながりのある人物による連続猟奇殺人事件をめぐるミステリー長編小説。この構想や狙いは?



 「正直、後付けっぽいところがありますが、この作品で現代のカリスマ性というものにチャレンジしてみようと。成功したかどうかわかりませんし、読者からも『わからない』という意見をもらってもいます。過去のカリスマというと、チャールズ・マンソンやオウム真理教の麻原彰晃のようなカルト的なものでした」

 作中の連続殺人犯、新田秀哉は、そんな強烈な引力を持った人間ではないように描かれていますね。

 「今の時代のカリスマは、1億総洗脳するような昔のカリスマと違って、思想を持たないノンポリのほうがいいのではないか。もし、自分の主義主張を声高に叫んだりすると、逆にこっけいに見えたりシラケたりするのが現代。それに今は、誰でも意見を発信できるインターネット社会。『それ違うよね』など膨大な量のツッコミが入る。だからこそ黙して語らず、想像をかき立てられる人間の方が、現代のカリスマになるのではないか。インターネット時代の初のカリスマを描いてみたいと思いました」

 そもそもミステリーが好きになったのはどんなきっかけですか。

 「幼いころから本が好きで、同居していた祖母の部屋に入り浸っていました。よく絵本を読み聞かせてくれて、5、6歳になったころは自分で読むようになっていました。もう読む本がなくなったら、『おばあちゃん、もうないよ』とせがんだりして。そんなとき、祖母が『じゃあ、お話、創ってみようか』と」

 創作童話を?

 「まったくゼロからは創れないので、例えば『ももたろう』の童話でしたら、『鬼退治のお供に猿、犬、キジのほかに、猫がいたらどう面白くなる?』と尋ねてくるんです。祖母は聞き上手だったんですね。そこで私は、犬とけんかするとか、キジを食べようとするとか、桃太郎はみんながけんかしないように鬼ケ島に行く道中、中間管理職のように(当時はそんな言葉は知りませんでしたけど)、チームの和を保とうとするとか、祖母と一緒になってお話を創っていたんです」

 今から思うと、子どもの想像力を広げるいい訓練でしたね。

 「それで物語を作るのが好きになりました。今は鬼籍に入りましたけど、祖母に感謝しております。当時読んだのでは、『長靴をはいた猫』や『オズの魔法使い』などの作品から、ストーリーの妙や自分にない発想に気づかせられました。物語を書く人はカッコいいなあという思いが、子ども心に芽生えていたんでしょうね」

 その後も本を読む少年になっていった?

 「小学校ではよく図書館で読んでいただけでなく、友達としゃべったり、友達の話を聞くのが好きでした。当時は江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズや『ルパン』ものですね。その後、横溝正史の方に行って、あのおどろおどろしさがたまらなかった」

 



 小学校卒業記念文集に、よく「将来の夢」を書きますよね。竹吉さんは何になりたいと?

 「名探偵、と書きました。子どもの頃から推理小説、ミステリー小説が好きでしたが、ただどちらかというと、天地が引っくり返るような事件や謎がある作品より、そんな事件に巻き込まれた人間がどう感じたか、感情の機微が丁寧に書かれている作品にひかれていました。人の気持ちの方に関心が強かった。そういう意味では、宮部みゆき先生の『模倣犯』が衝撃的でしたし、北村薫先生の『空飛ぶ馬』の微細な感情表現がすごいなあと」

 読むほうから、実際、物語を創り書くほうに興味、関心を強く持ったのはいつごろからですか。

 「小学校のときに演劇部に入っていて、劇の脚本なんかを勝手にコメディーに変えてしまったりしていました。先生が自由にやらせてくれる方だったんです。それと当時、チャプリンの作品と出会って、すごく衝撃を受けました。自分で物語を作って自分で演じることは、本当にすごいなあと。5、6年生の頃でしたか、『彦星と織姫』で私が彦星役をやって、子どもの遊びというんでしょうか、時間を気にせず、だらだらと面白いことを好き勝手に言うような芝居でした」

 実際に小説を書き始めたのは、まだ後のことですか。

 「幼い頃から作家志望はあって、まあカッコいいヒーローに憧れるような気分がずっとありました。中高生時代は、まあこれは男の子だったら一度は経験があるでしょうが、授業中にもし学校が何者かに占拠されたら、どうやって一人で相手を倒すか、というストーリーをぼんやりと考えたりしていました」

 まだ憧れにとどまっていた頃ですね。

 「浪人中や大学1、2年の頃にチャプリンに憧れて、映画のシナリオのようなものを書いたことはありましたが、友人に見せるだけで、劇団に持ち込むとかはしませんでした。大学3年生になってゼミに入った時、本気で小説家を目指している友人と出会いました。私はそれまで小説家への漠然とした憧れはありましたけど、友人から小説家になるには作品を投稿しなければ、ということに気づかされまして、その友人と一緒に書いて、ホームページに作品を公開したりしました」

 大学3年から4年にもなると、将来のこと、就職の話が具体的になります。そのころはどう考えていましたか。

 「もっと物語について学びたい、と大学院に進みました。自分の研究テーマは村上春樹でしたが、他の研究もしていて、志賀直哉と吉行エイスケの二人は私にとって神のような存在です。小説は志賀から、生き方はエイスケから学びました。毎年、私の誕生日には千葉県我孫子市にある志賀直哉邸跡に行って、ぼんやりと一日を過ごすようにしています」

 村上春樹については、修士論文を仕上げたのですか。

 「修士論文は『村上春樹における現代人のコミュニケーション論』です」

 難しそうですね。内容を30秒程度でご説明願えますか。

 「修士論文と言うよりは、研究から離れて気づいたんですが、村上春樹作品は、読んでいる人ごとに好きな理由が異なっていて、結構かみ合わないことが多い。まるで広大なお花畑みたいなもので、いろいろな花があって、その中でみんなが自分の一番好きな花を探す。私にとってはその花がコミュニケーションだったんだなと思います」

 面白そうですね。そのまま研究を続けていこうという気持ちはなかったんですか。

 「研究者の道は私には難しいかなと。そのころは公務員になりたいと思って、試験勉強もしたのですが、なかなかうまくいかず、結局、ある企業の人事部に1年間勤めました」

 たった1年?

 「ぜんそくがひどくなってしまい、退職しました。空気だけでなく、いろいろストレスもあったのかもしれません」

 その後、今の図書館司書になったわけですね。プロの作家デビューした今、司書はお辞めになるんですか。

 「いえ、辞めません。続けていきます。というのも、この仕事をしていて、自分の中でいいサイクルができていて、利用者の方々との会話で刺激を受ける部分があるからです。本好きな方と接していると、それがもっといいものを書こうという刺激になっています」

 今回の受賞は、地元ではもう知られていますよね。

 「ええ、地元の人も知っていて、顔なじみの方からは『受賞作を借りるよ。ごめん。買ったほうがいいかな』『偉くなったから、俺なんか恨まれてもう出入り禁止かな』などと声を掛けられます。図書館に来る方はいろいろな方がいて、意見も多岐にわたるので、一つの職種より司書という仕事はいろいろあって面白いですよ。受賞後は、『私のおすすめコーナー』などイベントの形でやらせていただきました」





 さて、結構お忙しい中、趣味というか、オフの時間の楽しみというものはいかがですか。

 「漫画です。すごく好きです。うちの兄が小学校6年生の誕生日に、父から『火の鳥』全巻をプレゼントされて、それを貸してもらって読んだのが初めです。私が小学2年生の時です。手塚治虫先生から漫画の世界に入りました」

 「火の鳥」を小学2年生で読破ですか。子どもの心にどう響きましたか。

 「もう、重い!という感じでした。人間のありとあらゆるものが書いてあって、子どもにとっては理解しがたい性の問題などもあって、怖くもあり魅了されもしました」

 その後は?

 「漫画だけでなく、アニメにもなっている藤子・F・不二雄先生の『ドラえもん』にハマりました。今もF先生を尊敬していますし、Fミュージアムには何度も行っています。先ほどの志賀直哉邸跡と同じように、自分が影響を受けた人のところに誕生日に行くようにしています」

 どこに強く影響を受けたのですか。

 「F先生の作品はほぼ網羅しましたが、今も読んでいます。大人向けのSF短編もすごく面白くて、『大予言』という4ページくらいの短編は、人間の未来を悲観的に描いていて、『ドラえもん』などで一人ひとりの子供に"世界は、人生はいいものだ"というメッセージを送る一方で、大人の社会には警鐘を鳴らす。F先生には、この二つの視点の素晴らしさがあります」

 その後の漫画遍歴は?

 「F先生の後は、横山光輝先生の『三国志』。大きく影響を受けたのは萩尾望都先生の『トーマの心臓』。子ども達がメインの話でありながら、大人たちの優しさが丹念に描かれていて、心にしみました。荒木飛呂彦先生の『ジョジョの奇妙な冒険』では、敵役も自分なりの正義があると、それぞれの真実と真実のぶつかり合いが描かれています。また小田扉先生の、この人以外描けないという独特の世界にも惹かれます」

 そうすると、相当数の漫画を読み続けてきたわけで、ご自宅はひょっとすると漫画だらけ?

 「全集類を含めると、ざっと1800冊くらいです。図書館で人に本を貸していますが、そのお給料のほとんどが本代に消えて、そっちに回っていっていますね」

 さて、今後、プロの作家として、どういうものを書いていこうと?



 「受賞後、尊敬する先輩から『地獄の一丁目にようこそ!』という言葉をいただきました。小説を書くという生みの苦しみが今まで以上にきついよ、ということでしょう。物語を生み出す、小説を書くという作業が、趣味としてではなく、仕事になると思うと、今までがまだまだ甘かったと気づきました。アマチュアで書いている時も読者を意識していたつもりですが、自分の中の読者の視点を、今まで以上にもっと磨いていかねばと思っています。

 作家は読者あってのものなので、満員電車の中で読んでいて、もうちょっと続きを読みたいなと思うようなものを書いていきたい。のっぴきならない人生を送っている人が、登場人物の生き方に共感を覚えて、なにかその人を後押しするような作品を一生書いていきたいですね」

 ミステリー小説は今後も?

 「小説の中で一番、ミステリー小説が読者とコミュニケーションをしていると思います。世の中には自分のために書かれた小説もあるかとは思いますが、ミステリー小説は作者の独りよがりでは成立しません。作者が、こんな謎を用意しました、と読者に投げかけて、その謎を読者が解けるかどうか。本当に作者と読者のコミュニケーションだなあと思います」

竹吉優輔(たけよし・ゆうすけ)
 1980年茨城県生まれ。二松学舎大卒業後、東洋大大学院文学研究科国文学専攻を修了。公立図書館司書として勤務しながら小説の執筆を始め、第55回江戸川乱歩賞で1次選考通過、第57回江戸川乱歩賞で2次選考通過とステップアップし、2013年「襲名犯」で第59回江戸川乱歩賞を受賞し、念願のデビューを飾る。

取材を終えて  毎日新聞学芸部編集委員 網谷隆司郎
 映画は昔から好きで、いろいろ見てきたが、一つだけあまり見ないジャンルがある。血が噴き出る場面が多い映画だ。
 20代の事件記者の頃は、殺人、火事、列車事故、交通事故、自殺などの現場に立ち会った。そこで、さまざまな死体・遺体を見てきており、おそらく普通の職業の方よりは見慣れていると思う。
 それでも、今年の江戸川乱歩賞受賞作「襲名犯」を読んだとき、遺体損壊の場面にいささか気分が悪くなった。
 還暦を過ぎてパワーが弱まったのか、はたまた人間らしい感性がよみがえってきたのか。「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」なんていうセリフが、ふと口を突いて出てきたりした。
 さて、この小説の作者はタフなのか、優しいのか。そんな関心を秘めながらインタビューに向かったのだが、目の前に登場した竹吉優輔さんは、終始にこやかに、穏やかな口調で語る「優しい」人だった。
 「実は今、公僕をやっています」と自らが市立図書館の司書の仕事をしていることをユーモラスに紹介し、その仕事から得る刺激もまた、創作のエネルギーになっていると明かした。
 半面、「タフ」な一面も見せた。プロ作家デビューの今、小説の中で読者とのコミュニケーションが一番あるのがミステリーだと力説し、「作家の独りよがりのミステリーは成立しない」と自分に言い聞かせるように言い切った。その心意気やよし。
 もう一つ、受賞作の中軸テーマにもなっている「現代のカリスマ」を模索し造形しようとするチャレンジ精神もいい。現代社会で曖昧な存在、未解明の分野に、小説という切り口から言葉と形を与えて、多くの人々に考える材料を与えることは、大げさに言えば文学の使命でもある。32歳の若い感性に期待したい。
 カルト宗教の教祖がダークヒーローとしてのカリスマだった時代は過ぎて、インターネット時代の今日は、誰もが自分の感想や意見を発信できる時代。強い主張や権威の持ち主より、不特定多数からネット上で突っ込まれ、「いじられる」存在のほうが"黒い人気"を高めていくのでは、という想定が私の興味を引いた。
 雲の上の存在より、いつでも会える、気軽にツッコミを入れられると身近に感じられる存在がモテる時代。AKB48の人気沸騰ぶりも、そんな風潮の結晶の一つか。
 いずれにしても、作家デビューし、生みの苦しみ「地獄の1丁目」に着いたばかり。新たなカリスマ像に挑戦し続け、おばあちゃん譲りの?物語創作力をますます発揮して、我々読者を楽しませてほしい。血がドバドバ出るのは、ご勘弁を。
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