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Nabari Ningaikyo Blog
Posted by - 2024.05.05,Sun
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Posted by 中 相作 - 2013.11.15,Fri

 いよいよ寒くなってきました。

 寒ッ。

 名張、寒ッ。

 しかも、きょうは冷たい雨だし。

 今月30日に開催される第二回怪人二十面相なりきりコンテスト出場者のかたは、どうぞ万全の寒さ対策をお心がけください。

 ちなみに11月30日と12月1日、当地へのご来駕はこの切符がお得です。

 近畿日本鉄道:圏際・食彩・文化祭 ご当地グルメでまちおこしin名張×B-1グランプリ 往復きっぷ

 しかし、こんなとこにも怪人二十面相のなりきりが出没しとるのか。

 面白いから無断転載しとこ。


 「ここな、ばりええとこ」というコピーに、いささかの解説を加えておきます。

 「ここ」は指示代名詞、「な」は間投助詞、「ばり」は「とても」「非常に」の意の副詞で、もとは博多弁というが近年は大阪でも使用される。

 「ええ」は「よい」という意の形容詞、「とこ」は「ところ」。

 「な、ばり」は地名「なばり」のかけことば。

 コピー全体の意味は、名張は国のまほろば、といったことになるでしょうか。

 ほんとかよおい。

 実際にはどんなとこなのかというと、たまたまおととい名張のまちをご紹介いただいたブログがあって、そのエントリはこんな感じでがす。

 香ばしい町並みブログ ~昭和レトロな町並み~:【三重県・名張市】上本町サンロードの昭和なアーケード その1(2013年11月13日)

 さびれっぷりが半端なく、いよいよもって廃墟マニア垂涎の的か、とも思われてきますけど、乱歩が生まれた名張のまちの現状は、まさしくここに撮影されたとおりでがす。

 先日、昭和文学会の文学踏査で、小酒井不木ゆかりの愛知県は蟹江町をひさしぶりで歩いたんですけど、雨が降ってたという悪条件はあったものの、とにかく人影というものが見当たらず、信号なんかいくらでも無視できるくらい自動車も通りません。

 ああ、名張みたいだ、と感じ入ったものでしたが、日本全国津々浦々、どちらの土地におじゃましても田舎町の衰退はえらい勢いで進行しているようで、地方の集約という名の切り捨てが否応なしに進められてゆく過程のどこかで、名張のまちなんてのはひっそり息絶えてゆくことになるのでしょうか。

 だが。

 だがしかし。

 名張は死すとも乱歩は死せず。

 ばかは死んでも治らない。

 死んだみたいな名張のまちから乱歩蔵びらきの会が雄々しく世に問う乾坤一擲の一冊、本日の『奇譚』は挿話第二編「妖怪ト心霊」全文でございます。

(83)

EPISODE 2.
妖怪ト心霊.

 お化ケト云フト何トナク滑稽ニ聞ユル。狸ノ腹鼓、狐ノ嫁入、猫ノ踊リヲ連想スル。幽霊ト云フト非常ニ凄ク聞ユル。尾花ノ様ナ痩セタ手ヲ前ニブラくサセタ、血ダラケノ女ヲ連想スル。亡霊ト云フト幽霊ノ優シサガナクナッテ凄味ガ加ハル。お岩の亡霊、累ノ亡霊ヲ連想スル。妖怪ト云フト三ツ目子僧、大入道ヲ連想スル。変化ト云フト水ノ滴ル様ナ美人ニ化ケタ魔性ノモノヲ連想スル。魔物ト云フト大空一杯ニ拡ガッテ夜ノ世界ヲ占領スル、アノ見エナイ(Invisible)怪シイモノヲ連想スル。魑魅魍魎ト云フト "瘤取リ" ニ出テ来ルアノゴタくシタ鬼共ヲ思ヒ出ス。然シコレハ平凡ナ観察ダ。コノ内最モオッカナイモノハ実ニ猫ノ舞踏デアルノデス。ソシテソレヨリモ怖イモノハナニカト問ハレタラ、僕ハ立所ニ「独リ縁側デ日向ボッコヲシテ考ヘテ居ル事ダ」ト答ヘマス。日光ヲ受ケテ白ク光ル礫ヲ見ツメテ御覧ナサイ。ジット見ツメ見ツメテ御覧ナサイ。ソレネ。蜥蜴ノ赤イ舌モ一寸ト凄イ。夜ノ蜘蛛モ

(84)

凄イ。Tarantula ニ至ッテハ尚凄イ。砂漠ノ沈黙ノ凄サモアル。白昼熱〓ニ見出ス最モ深イ凄サモアル。
ソシテ、妖怪ハ我 Curious novel ノ物質的有形的ナル一対象デアル。主観的ナル心霊ノ問題ハソノ精神的ナル一対象デアル。先ヅ妖怪カラ始メルガ。コレニ付テハ安価ナル怪談、例ヘバ講談ノソレ、小年小説ノソレナドヲ読ンダノミデ未ダ一ツトシテ見ラレルモノニ出合ヒマセン。只一ツ Maupassant ノ The Horla or Modern Ghosts ノ主観的ナル怪談ニ云ヒ知レヌ味ヲ見出シタヿヲ覚エテ居ル。有形ノ幽霊ハ到底無形ノ幽霊ノ凄サニ敵ヒマセン。平田篤胤ノ著ニ鬼神論、古今妖魅考、仙境異聞、神童憑談略記、七生舞ノ記、勝五郎再生記、幽郷真語、稲生物怪録、等ガアル。無論面白イモノト思ハレルガ未ダ読マヌ。是非読ミ度イモノデス。ソレカラ井上円了博士ノ妖怪学。コレハ見逃スコトハ出来マセン。不知火ダトカ七不思議ダトカ云フ題材ガ取扱ッテアッタト記憶スル。尨然タル大著ノ割リニハ解明的デ凄クナイ。

 「〓」は判読不能。

 といっても、どんな文字だかはよくわかります。

 もんがまえに、沓。

 つまり、悶絶の悶、という字の心が沓になってる、そういう漢字です。

 しかし、こんな漢字は存在しないのではないか。

 しいて似た字を探せば、闇、ということになると思いますけど、明らかに闇ではありません。

 前後の文脈から判断することも、ちょっとおぼつかない感じです。

 だいたいこのあたり、乱歩のいってることはあんまりよくわかんなくて、猫の舞踏、ひとり縁側でひなたぼっこして考えていること、日光に白く光るつぶて、蜥蜴の舌、夜の蜘蛛、タランチュラ、砂漠の沈黙、と列記されても、そんなに怖い? という印象を否むことができませんし、そのあとに「白昼熱〓」とつづけられても、それなに? というしかありません。

 しかし、そこにこそ、乱歩が後年、くり返し描くことになる恐怖の原型があるのかもしれません。

 それにしても、不意に読者に語りかけてくるあたり、後年の語り口を髣髴とさせて、まさに栴檀は双葉より芳しの観があります。

 「勝五郎再生記」は、正しくは「勝五郎再生記聞」です。

(85)

妖怪ニ付テ未ダ何カ重大ナモノヲ読ンダ様ダガ一寸ト思ヒ出セヌ。次ハ心霊的方面ダ。最モ早ク刺激ヲ受ケタノハ桑原俊郎トカ云フ人ノ精神霊動三部デアッタ。中学一年ノ頃ダ。催眠術ノ存在ハ已ニソノ以前カラ知ッテ居ッタ。僕ノ好奇的ナル性質ハ早クカラ斯ウ云フ方ニ向イテ居ッタ。以来古谷鉄石ダトカ大阪ノ神秘会ダトカノ書物ニヨッテ催眠術ヲ読ンダ。アル時 New York ノ何トカ云フ会ノ広告ヲ見テ規則書ヲ取リ寄セ二十円計リ伝習料ヲ出サネバナラヌノニ驚イタコトモアル。ソシテ精神ノ全能力ヲ信ジタ。健全ナル精神ハ健康ナル身体ニ宿ルト云フ格言ノ皮相的ナヿヲ笑ッタ。丹下君ト催眠術ノ実験ヲヨクヤッタ。理論ニ於テハ僕ガ勝ッテ居ッタノダガ、実行ハ丹下君ガ上手ダッタ事ヲ今更ラ丹下君ノ偉大ナリシ証トシテ驚嘆スル。僕ハコノ方面カラ哲学ニ入ッタ。宗教ニ入ッタ。
個人ノ霊モ宇宙ノ霊モ共通ナル渾一体ダト云フ事ヲ信ズルノハ催眠術ノ行ハレ得ル所以ダ。仏教ノ哲学ハコノ点ヨリシテ味ガアルト思ハレタ。涙香ノ天人論ニ感心シタノハ未ダ幼イ頃デアッタ。Swedenborg ノ The Heaven and Hell ハヅット後ニ始メテ知ッテ。ソノ深サヲ喜ンダ。

 「古谷鉄石」は正しくは「古屋鉄石」。

 「丹下君」とあるのは、乱歩と同年の親友、丹下高福のことで、大正2年9月25日に名古屋で早世してしまいましたが、それから一年もしないうちに書かれたこの催眠術のくだりには、友人の冥福をあらためて祈る気持ちがこめられているようにも見受けられます。

 それにしても、美少年ふたりが催眠術ごっこに夢中になっている、などというのは、じつは結構妖しい図柄だと思います。

 「ヅット」は「ズット」。

(86)

コノ点ヨリシテ僕ハ孔子ノ哲学ヲ嫌味ダト思ヒ老子莊子ヲ好ム。老子ヲ一読シテアッケナイトハ思ッタケレド。Poeノ所ニ書クガ、 Usher ノ読ンダト云フ色々ノ蔭欝ナル書物ハ是非読ミタイト思フ。William Blake ノ画ト詩ノ凄サヲ喜ンダ。Dante ノ詩ノ浅クハアルガ古キ重サニ喜ンダ。未ダ何カ書ク事ガ残ッテ居ルガ忙グカラコノ位ニ止メテ置ク。要スルニ物理学天文学ヨリ妖怪学心理学哲学神学ニ進ムノガ僕ノ希望ダト思ヘバヨイ。
蘇東坡ハ貝ハ病ノ為ニ珠ヲ生ジ人ハ病ノ為ニ文ヲ作ルト云ッタ。Verona ノ人 Cesare Lombroso ノ Genio e follia 及ビ L'uomo di genio(狂人ト天才ノ訳アリ)等ハコノ思想ヲ押拡メタモノダト森鴎外博士ガ云ッタ。Lombroso ノ思想ハ Poe ト共鳴シ僕ト共鳴スル。Hereward Carrington 及 John R. Header ノ著ニ Death, its causes and phenomena ト云フ書ガアル。死ハ分ラヌ随ッテ生ハ分ラヌ。ソノ分ラヌモノヲ取扱ッテ例証ニ豊富ダ。文明協会ガ之ヲ訳シテ死ノ研究ト云フ。Hearn ノ In Ghostly Japan

 「Header」は「Meader」だと思います。

(87)

未ダ読ンデ居ラヌヿヲ悲シム。
Strand Magazine ノ 15 年一月号デ Leonidas Andreev ノ Was he mad を読んで Poe ヤ Andreiyeff ト同ジ type ノ物凄サを喜ンダ。Andreev ト Andreiyeff トハ同ジ人ダ同理でよく似テ居ルト思ッタ。ソシテコレハ上田敏氏ノ思想ト云フ訳ガアル。

〓からハーンの妖怪談を借りて病中ノ徒然に読むことにした(大正六 五月七日)

 ひらがなになってるとこは、ほんとにひらがなになってます。

 「同理」は「道理」。

 「ハーンの妖怪談」にかんする追記は、走り書きとか殴り書きと表現すべき筆勢ですから、ほとんど読むことができません。

 とか思っていても、しばらくしてまたじっくりながめてみると、夕暮れを迎えて夕顔の花が静かにほぐれはじめるように、なんとか読めるようになってくるから不思議なものです。

 ただし、最初の「〓」は人名だと思われますが、この字だけは判読できません。

 文脈からあたりをつける、ということが不可能ですから、どうにも見当がつきません。

 まいったなあ。

(88)


 このページは白紙ですが、ページ中央に「探偵興味」と落書きみたいなものが記されています。


 趣味、ではなくて、興味、となっている点が、文字どおり興味深い。

 さて、このあとはいよいよ、乱歩自身が「コレヨリ後ガ僕ノ最モ詳シク書キタイ所ダ」と記している第八章「エドガー・アラン・ポー」に突入することにあいなります。

 名張市教育委員会じゃあるまいし、おめーはいったいいつまで著作権の侵害をつづける気か、とお思いの諸兄姉もおいでのことと存じます。

 しかしまあ、もう少しだけ大目にみていただいて、なんとかポーのとこまではこっそり公開してみたいと思います。

 『奇譚』は全二百二十八ページ、第八章「エドガー・アラン・ポー」につづく第九章「続・ポー」は第百十四ページでおしまいになってますから、ちょうど半分。

 大目にみていただくにはうってつけの分量ではないでしょうか、とかわけのわかんないことをいってみました。
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