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Nabari Ningaikyo Blog
Posted by - 2024.11.22,Fri
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Posted by 中 相作 - 2010.09.07,Tue
 横関大さんの『再会』を読了しました。江戸川乱歩賞受賞作品を読むのはほぼ四半世紀ぶり、ということになります。最後に読んだのは鳥井加南子さんの『天女の末裔』で、これが第三十回受賞作、『再会』は第五十六回ですから、正確には二十六年ぶりということになるのでしょうか。暑さのせいで判断力が鈍っており、「ぶり」という言葉の正しい用法がよくわからなくなってるわけですが。
 
 私はミステリファンではまったくなく、それでも昔、ごく一時期、乱歩賞受賞作の刊行を楽しみにしていたころがあって、きっかけはやっぱり『アルキメデスは手を汚さない』だったでしょうか。そのあと『ぼくらの時代』や『猿丸幻視行』といった話題作も含めて毎年、出るたびに買っていた受賞作はすべて処分して手許に残ってないのですが、『天女の末裔』は前年受賞作『写楽殺人事件』との対比ということもあったのか、どうも期待はずれな気がして、それっきり乱歩賞作品に接することがなくなってしまいました。
 
 『天女の末裔』の翌年、第三十一回受賞作品は森雅裕さんの『モーツァルトは子守唄を歌わない』と東野圭吾さんの『放課後』でしたが、私はむろん眼を通したことがありません。いくら思い返しても、このおふたりの作品で読んだことがあるのはただ一作、東野さんの『容疑者Xの献身』だけではないかしら。だからほんとにミステリファンではまったくないのですが、少し以前から森雅裕さんのこの本のことが気になって仕方ありませんでした。
 
 
 とはいうものの、読んでしまったら落ち込んだり身につまされたりしてしまうのではないかと案じられ、手に取ることなくきょうを迎えた次第なのですが、ネット上の評判はこんなあんばい。
 
 
 5月15日、中日新聞の「特報」という面の「へこたれない人々」という連載に森さんのインタビューが掲載されました。夕刊がない地域で販売される統合版の紙面です。東京新聞では5月2日に出たらしく、公式サイトにはちょこっとだけこんな記事が。
 
 
 困窮の乱歩賞作家、とあります。記事を一読し、「RAMPO Up-To-Date」に記録はしませんでしたが、ほんとに身につまされるような気がして紙面を保存しました。一部、引用してみましょう。
 
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悩む自分 鬼に託す
休筆、バイト…彫金に情熱
 
自殺も考えた
 
 最も苦しかったのは、コンビニに採用される前の一昨年二月。駅構内の清掃員にも採用されず、ほとんど無一文に。ついに窮して知人に仕事の紹介を頼んだところが、逆に「甘えている」「取りえがないんだから肉体労働しかない」と罵倒され、高田馬場駅(東京都新宿区)のホームに立った。「あの時は落ち込みました。高校を卒業して働いたけど、肉体労働しかなくて大学に入り、働きながら卒業したのに、何のためにあんなに苦労したのかと…」
 そのまま飛び込める気がして電車を見送っていると、ただならぬ様子に気付いたらしい駅員に声を掛けられ、その場を去った。だが、状況は今も変わっていないという。「来月に死ぬかもしれません。貧乏と孤独。一つなら耐えられるけど、両方はきつい。ところがこの二つはセットでやってくるんですね。作家になってからの友達は、ほとんど去っていきました」
 アパートの家賃は丸二年間、滞納。知人に数百万円の借金もある。光熱費の銀行引き落とし日はカレンダーに印を付けて入金しているが、「いつ入れられなくなるか、恐怖なんです」。
 乱歩賞の受賞者の中には、作品が次々と映画やドラマ化される作家も多い。しかし、森の場合、刊行本のほとんどが絶版。受賞作はファンの要望を受け、〇五年に復刊されたが、江戸川乱歩賞全集にも収録されていない。「出版界から干されて十年」という苦境に至るには、どんな経緯があったのか。
 「まず帝国ホテルでの乱歩賞授賞式から失敗していますから」と、森は振り返る。受賞が決まり、式が行われるまでの二カ月ほどの間に、森は雑誌や新聞で数々のインタビューを受けた。
 「言ってもいないことがたくさん載って驚き、頭にきて、受賞スピーチで『皆さん新聞とか雑誌とかで私のこと読んでると思いますけど、ウソが多いので本気にしないでください』と言ったら『あいつは生意気だ』となっちゃった。あとは何を言っても生意気だととられる風潮が、業界にはありましたよね」
 その後、九六年、森はこうした顛末を含め、出版界の裏事情などを記したエッセー「推理小説常習犯」を出版。「泣き寝入りするなら文句の一つも言ってやろうって気持ちだった」が、「今から思えば、出版業界から相手にされなくなる分かれ目だった」。
 受賞作のほか「ベートーヴェンな憂鬱症」など、森には芸術、歴史を軸に、個性的人物像を描いた作品が多い。人の心の機微も映し出しながら、現実の人間関係に苦労してきたのは、なぜ─?
 「意識してやってはいない。自分のやりたいようにやってきただけ。バカだったんですよ。過去に戻れるならあの時もっと、違う対応の仕方があったなあと思うことは、いっぱいあります」
 遠くを見やり、こうも話した。「私は人にいい印象を与えないんだろうなと。育った家庭環境に負うところが大きいと思いますけどね」
 高校生のころ、一家は離散し、父は行方不明に。母は三十年以上会わないまま、昨年死去。「親から感情的に怒鳴られはしても、人にあいさつするとか、しつけを受けた記憶はないですから」。最近は「持って生まれた星があるのか」とも感じるという。
 
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 思いついたことふたつ。ひとつは、出版界とはまったく無縁に、電子書籍で森さんの過去の著作を出版することは可能ではないのか。もうひとつ、名張市恒例のミステリ講演会なぞがたりなばり、二十周年の今年は森さんに講師をお願いしてみてはどうか。そんなことしたらわが名張市、日本推理作家協会から相手にしていただけなくなるのかもしれませんけど、それでもいいから、というかそうしたゆくたては見ていてじつに面白かろうと思われるので、いっちょ本気でかましてみてはどうかとぞ愚考します。
 
 小谷野敦さんのブログにはこんなエントリがありました。
 
 猫を償うに猫をもってせよ:森雅裕の不遇について(2010年3月8日)
 
 ところで今年の乱歩賞受賞作。地に足のついた作風で、手堅くまとまっている、と評しておくことにしましょうか。どうして四半世紀ぶりに乱歩賞作品を読む気になったのか、自分でも判然としないのですが、人の判断力に尋常ではない影響をもたらすこの異常な暑さのせい、ということになるのかもしれません。だとすれば、かりそめにも「RAMPO Up-To-Date」みたいなことを記録している人間が乱歩賞受賞作品を読まないというのは、しかも乱歩賞の選考結果は録しても受賞作の刊行についてはいっさい記録してこなかったというのは、ちょっとまずいのではないかしら、みたいなことに遅ればせながら気がついたのですから、たまには異常に暑い夏も経験してみたほうがいいということか。
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