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Nabari Ningaikyo Blog
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Posted by 中 相作 - 2011.01.16,Sun
 横溝正史と江戸川乱歩(10)
 
 川崎七郎の「桐屋敷の殺人事件」は「新青年」昭和3年7月号の巻頭、二ページから二十三ページまで二十二ページにわたって掲載されました。巻頭作品ですからいわゆる目玉の扱いなのですが、巻末の「編輯局より」にはこの作品への言及がいっさい見られません。特集として組まれた「セキストン・ブレーク短篇集」や耽綺社の「飛機睥睨」、甲賀三郎の「瑠璃王の瑠璃玉」、さらには「講談雑誌」に発表された小酒井不木の「恋魔怪曲」までを筆にしながら、「編輯局より」の筆者「横溝生」は「桐屋敷の殺人事件」にはひとことも触れず、かわりに、というわけでもないでしょうけれど、有力新人がなかなか現れないとこんな不満を述べています。
 
◆前月号で発表する予定だつた懸賞小説が、紙面や何かの都合から到頭今月に延びて了つた。何んとも申訳がない。懸賞小説にはいつも多大の期待を抱いて熱心に読んでみるのだがどうもうまく成功しないのに困る。もうそろそろ不木、三郎、乱歩の二世が出さうなものだのに、一向さういふ気配が見えないのはどうしたものか。これはと思ふ作家には、新青年たるもの大いに太鼓を叩いてみるに吝かでないつもりであるが、未ださういふ人に出会はさないのは、何んとも不幸な事である。大いに奮発して戴きたい。
 
 手許には7月号の目次と「桐屋敷の殺人事件」「編輯局より」のそれぞれのコピーしかありませんので、ここにある「懸賞小説」のことがもうひとつよくわからず、つまり「今月に延びて了つた」のがいったいどの作品なのかが目次からは判断できないのですが、目次の最初のほうを引いておくならば──
 
桐屋敷の殺人事件……………………………川崎七郎
 
長襦袢………………………………………山本禾太郎
きつねの賽………………………………………小林栄
瑠璃王の瑠璃玉………………………………甲賀三郎
 
飛機睥睨(第六回)………………………耽綺社同人
 
 見慣れない名前は小林栄しかありませんから、あるいはこれが懸賞小説なのか。8月号の目次の最初のほうはというと──
 
飛機睥睨(第七回)………………………耽綺社同人
 
ニウルンベルクの名画………………………甲賀三郎
疑問の銃弾……………………………………新井紀一
四本足の男(懸賞作品第二回発表)…………秘名生
病院をめぐる…………………………………岩切俶郎
 
 「懸賞作品第二回発表」とあるのは7月号につづく第二回ということなのか、やはりどうもよくわかりません。このあたりのことはいずれ「新青年」復刻版で確認することにして、とりあえず川崎七郎の話題。
 
 正史は編集者として新人を待望していたわけですから、川崎七郎という新人の登場にあたってはおおいに太鼓を叩いてしかるべきだったはずなのですが、前述のとおり編集後記ではひとことも言及しようとしませんでした。自分の作品だから太鼓を叩きにくいということもあったでしょうけれど、もともとたいした作品ではないという自覚があったのかもしれません。「紙面や何かの都合」で玉不足に陥ってしまった7月号に余儀なく書かざるを得なかった埋草、それが「桐屋敷の殺人事件」だったのではないかと推測されます。つまり、なぜ川崎七郎に頼んだのかというと、7月号の目玉になる小説がなかったから、ということだったのではないか。川崎七郎という謎の作家は編集者の窮余の一策ででっちあげられた存在だったと推測されます。
 
 つづく。
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