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Nabari Ningaikyo Blog
Posted by - 2026.07.16,Thu
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Posted by 中 相作 - 2013.10.30,Wed

 『奇譚』にかまけてすっかり失念しておりましたが、10月27日の日曜日、三重県伊勢市の市長選挙がおこなわれましたので、そのご報告を少々。

 名張市議会議員の職をなげうって出馬なさった先生は、むろん予想どおりの大惨敗、みごとに散っておしまいになられました。

 朝日新聞デジタル:伊勢市長に鈴木氏再選(2013年10月28日)
 毎日jp:選挙:伊勢市長選/伊勢市議選 市長選、実績で鈴木氏再選 2新人破る /三重(2013年10月28日)
 YOMIURI ONLINE:伊勢市長選 鈴木氏、2新人抑え再選(2013年10月28日)
 中日新聞 CHUNICHI Web:笑顔と安心のまちに 伊勢市長再選の鈴木さん(2013年10月28日)
 伊勢新聞:伊勢市長に鈴木氏再選 実績訴え2新人破る(2013年10月28日)

 このエントリにも書きましたけど。

 2013年9月16日:つくづくわけがわかりません

 「任期途中で市議会議員の職をなげうち、勇猛果敢に市長選挙に打って出て、一敗地にまみれはしたものの、その四か月後の市議選でちゃーんと返り咲き、2010年の市長選には不出馬ながら、その四か月後の市議選ではみごとトップ当選に輝いた地方政界の星がじゃな、ちょっと頼まれましたんで伊勢の市長選挙にいっちょ噛んできまーす、とかそんな話、どう考えたってありえんじゃろうが」みたいな話が、ここ名張市ではふつうにあるんですから困ったものです。

 検索してみたら、こんなサイトができてました。

 つか、すでに放置されてるみたいですけど。


 ほんとにわけがわかりませんけど、名張市民の負託をうっちゃらかして縁もゆかりもない伊勢市の市長選挙に出馬するような無責任きわまりない先生が、なんと2010年の名張市議会議員選挙でトップ当選をはたしていらっしゃったという事実こそ、ここいらの尋常ならざる土地柄を如実に物語るものだとしかいいようがありません。

 要するに、われわれ名張市民といいますものはですね、ちょっくらちょっと並ぶものがないくらい、異常なまでにレベルが低いのだとご承知おきください。

 とか思ってたら、きょうはこんなニュースが。

 朝日新聞デジタル:怪人二十面相 募る(2013年10月30日)

 えーっとまあ、全国の乱歩ファンのみなさんはですね、おまえらしまいにゃしばき倒すぞおッ、とかいわずに、ふるってご応募くださいね。

 さて、官民双方異常なまでにレベルの低いここ名張市において、乱歩生誕百二十年を記念して乱歩蔵びらきの会が放つ奇蹟のような一冊、『奇譚』のつづきとまいりませう。

(48)

 素人 = 僕ハ全ク素人ヲ知ラヌト云ツテモヨイ二三彼ノ作ヲ読ンダ事ハアルガ涙香ニ比シテ文ニ妙味ガナイノデ印象モ止メズソノ儘他ノ作ニ及バナカツタ。只茲ニ上ゲル所以ハ涙香トノ対照の為且ツ大疑獄ヲ知レルガ為ニ過ギヌ。

 「の為」は追記で挿入された語句なので、うっかりひらがなが交じってます。

(49)

CHAPTER 5
DUBOISGOBEY, COLLINS AND MARCHMONT, CORELLI.

 困難 = 僕ノ様ナ貧書生ハ探偵小説ヲ読ムノニ大変困ルコトガアル。日比谷、大橋、ハ勿論上野ノ図書館ヘ行ツテモ探偵小説ナドハ極メテ僅カシカナイ。丸善ナレバ多少アルノダガ其ヲ買フ事ハ出来ヌ。止ムヲ得ヌカラ出来得ル範囲内デ批評シテ置ク。
 真暗 ビースボン作トアル、涙香ハ犯人ガ終リマデ分ラヌ所ガ真暗ダト云ツテ居ル。忘レタ。
 DUBOISGOBEY = 不幸ニシテ原文ハ素ヨリ英訳モ未ダ読ンデ居ナイカラ凡テ涙香ヲ通シテ批評スル外ハナイ。ガ、F. DuBoisgobey ハ Gaboriau ト共ニ日本ニ最モヨク知ラルヽ古イ探偵小説家デアル。海底ノ重罪 近頃ノ探偵小説ト比シテハ勿論 Gaboriau ニスラ及バ

(50)

ヌモノダガ一種ノ人情ヲ纏綿セシメテ又別ノ趣ガナイデモナイ。原文ハ無論達文ナノデアラウ。コレハ探偵小説ヨリモ復讐小説デアル。悪義兄ガ旅中主人公トアル宿ニ寝タガ夜中密カニ抜ケ出シテ自転車ヲ駆ツテ家ニ帰リ父ヲ殺シ再ビ宿ニ帰ツテ何喰ハヌ顔ヲシテ居ル。村人ガ殺人ノ夜胴ハ人間デ足ガ車ノ様ナ怪物ガ疾風ノ様ニ走ルノヲ見タト云フ辺リ味ガアル。彼悪義兄ハ父ヲ殺シテ満足セズ更ニ妻ヲ殺ス。ソノ方法ガ面白イ。先ヅ妻ニ手習ヲセシメ、長イ間カヽツテ自分ノ思フ字ヲ所々ニ散ラシテ書カシメ、ソレヲ自分ガ習ツテ、妻ノ偽筆ヲヤル、ソシテ妻ガ書置キヲシテ死ンダ様ニ見セカケルノダ。ソレヲ主人公ガ発見スル所ノ描写ガヨイノデ、斯ウ表カラ書イテハ駄目ダ。悪人ハ尚主人公ノ子ヲモ殺スソノ殺シ方ガ即チ海底ノ重罪ナノダ。僕ハコヽハ余リイヽトモ思ハナカツタ。劇場ノ犯罪 昔読ンダノデ忘レタガ余リ面白クモナカツタ様ダ。
搭上ノ犯罪 涙香ノ訳文ガヨイノデ見ラルガ左程ノモノデハナイ。然シ原作ガ名文ナラ知ラヌ事少クモ筋ニ於テハ左程デモナイ。

(51)

Notre-Dame 搭上カラ一婦人ガ落チタカ落サレタカシテ死ヌ。ライン河ニ釣リヲ垂レテ居ツタ探検好キノ画家ガ遠クカラ見タノダカラ確カニハ分ラヌガ何ンデモ塔ノ頂上ニ男女ガ居テソノ婦人ノ方ガ落チタノダト云フ。警官ハ塔ニ上ラウトスルト恰モ其所ヘ一人ノ男ガ下リテ来タ。検ベルト塔守ハソノ男ガ一人ノ婦人ト連立ツテ昇ツタト云フ、然ルニ今男ハ一人ダ。即チ男ガ引致セラレル。実ハソノ男アル婦人ト密会シタノダガ、婦人ノヴエールガ飛ンダノデ婦人ハ先ニ帰ル、ソノアトカラ出ヤウトスルノヲ捕マツタノデ、実際ノ犯人ハ外ニアル。ソシテソノ犯人ハ男爵ト号シテ club ニ出入シテ居ル。コレヲ三人ノ物好男ガ探偵シテソノ罪ヲ曝クト云フ筋。只始ノ所ガ curious ナ丈ケダ。Cat's eye Ring(指環) 地下ニ穴ヲ穿ツテ密輸入ヲシテ居ル秘密団体ガアル。Heroine ハ知ラヌケレドモモトソノ団長ヲシタ人ノ子デアル。団体ノ秘密ヲ洩シタモノヲアル郊外ノ空家デ団体ノ死刑ニ処スル時偶然 Heroine モソノ空家ニ無頼ノ兄ト密会シタノデ団体ノモノニ見付ケラレ無理ニ殺人ヲ手伝ハセラレル。ソレヲ又 Heroine ヲ慕ツテ来タ

(52)

Hero ガ密カニ見ル。色々ノ曲折ガアリ結局秘密団ハ亡ビ Hero トソノ友人ノ妹ト、Heroine ト Hero ノ友人ト二対ノ夫婦ガ出来テ目出度ク終ル。Heroine ノ指ニ秘密団ノ徽章タル Cat's eye Ring ガ嵌ツテ居ル所ニ面白サガアリ curiosity ガ湧ク。執念 コレハ局面ガ変ツテ居テ余程面白カツタ。Hero カラ(或ハソノ父カラ)苦シミヲ受ケタ老人ガ復讐ノ為ニ極度ニ綿密ナル計画ヲ廻シ、表面 Hero ノ親友トナツテ Hero ヲ危難カラ救フ事モ再三ナラズアル程デアル。而モ彼ハソノ裏面ニ於テ絶エズ復讐ノ爪ヲ研ギ、餌物ヲ前ニシテ喜ブ猫ノ様ニ、腹ノ奥底ニ冷カナ微笑ヲ洩シテ、復讐ソノ事ヲ楽シンデ居ル。ト云フ実ニ curious novel ノ理想ニ近イモノ。原名ハ多分 Revenge is Sweet デアルト思フ。巨魁来 随分有名デアツタト見エ昔ノ壮士芝居ノ芸題ニコレガアルノヲ見タ。筋ハ忘レタ。仏蘭西特有ノ革命小説ノ様ニモ記憶ガ残ツテ居ル。其他 片手美人、悪党紳士、決闘ノ果、活地獄、美少年〔where is Zeno Bia〕、女夜叉、死美人(Gaboriau 也)、武士道 等ガアル。

片手美人 大正五年四月十九日再読面白シ。〓〓〓〓〓団ノ主領ガ片手美人也。露シアノ官憲ヨリフランスノ一銀行ニ預けたる密書ヲ盗ムに始まる。

 「原名」には訂正の跡がみえますが、どう訂正したのかは判読不能。

 「(Gaboriau 也)」は本文の下に追記されたもので、あ、「死美人」はボアゴベじゃなくてガボリオだった、と勘違いに気がついて訂正を入れたものと思われます。

 【2013年11月3日追記】46ページの追記に記しましたとおり、「死美人」はガボリオの作品ですが、このページの「死美人」に添えられた(Gaboriau 也)」という追記の意味するところについては、このエントリの11月2日付コメント「付け焼き刃は困ったものです」に記しました。

 いまだにどうもよくわからず、はかりかねるところがありますので、なにか思いついたらまた追記したいと思います。【追記終了】

 「片手美人」の追記は天のマージンに書き込まれていますが、一部判読不能。

(53)

英訳ニナツタモノ、重ナノヲ挙ゲル。

Blue Veil
Count's Millions
Detective's Crime
  〃    Eye
Fatal Legacy
Ferdinand's Choice
Fight for a Fortune
Great Jewel Mystery
His Great Revenge
Jailer's Pretty Wife
Matapan Affair
Millionaire's Fate
Missing Rubies
Phantom Legacy
Red Band
〃  Camellia
〃  Red Lottery Ticket
Revenge is Sweet
Scarlet Mystery
Search for Ancestors
Steel Necklace
Thieving Fingers


決闘ノ果 面白シ一美人ガ金満ナル夫ヲ得ントシテ企ツル周到なる大芝居。男女ノ標本。謀極メテ深シ。

 「決闘ノ果」の追記は天のマージンに記入。

(54)

〔以上ハ Chicago Donohue & Co. ノ Flashlight detective series 中ノモノ〕

(55)

何者 B. L. フワージヨン作、チヨギレマツプタツト自称スル罪人ノ話。ソノ恋人ガ罪人ヲ救ワントシテ苦心スルヿ丈ケ覚エテヰル。梅花郎 マンビルフエン作。Hero ガ死人ノ側ニ居タノデ疑ガカヽル。処ガ真ノ犯人ハ Hero ノ恋ノ仇デ、彼ハ絶エズ Hero ヲ失ハント試ミル。山ノ杣ノ子ガ恋人ノ所ニ雇レテ居ル女ニ逢ヒニ来タ古イ金貨ヲ出ス。ソレガ死人ノ持ツテ居ツタモノナノデ杣ニ疑ガカヽル抔ノ波瀾アリ。結局目出度終ル。美人ノ獄 Heroine ガ家ノ為ニ去ル富豪ニ嫁シタガ夫婦ノ不和ハ普ネク知ラレテ居ツタ。アル日客来ノ節夫人ガ夫ニ Cafe ヲ注イデヤルトソノ中ニ毒ガアツタト見エ夫ハ死ヌ。死ヌ時彼ハ夫人ヲ指シテ「アレダ」ト云フ。ソノ上夫人ノ化粧室ニ同様ノ毒薬ガアツタノデ、Heroine ハ疑モナキ犯人ト目指サレ獄ニ投ゼラレル。実ハ夫人ヲ恋スル者ノ仕業ト分ル。獄ヲ出デヽ数年アル紳士ニ嫁シタ Heroine ハ旧悪ヲ知ル悪者ニ苦シメラルヽ等ノ事アリ結局ハ矢張リ目出度シく。フロレンス、マリエツト女史作。以上三個ヲ比較スレバ美人ノ獄ガ先ヅ面白イ方ダガ共ニ余リ大シタモノデハナイ。

 「救ワントシテ」は「救ハントシテ」。

 ではここで、もういちど、お願いを記しておきたいと思います。

 朝日新聞デジタル:怪人二十面相 募る(2013年10月30日)

 全国の乱歩ファンのみなさんは、ふるってご応募くださいな。
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Posted by 中 相作 - 2013.10.29,Tue

 すでにお察しのことと思いますが、このところ時間さえあれば『奇譚』とにらめっこする明け暮れ、眼はしょぼしょぼするわ腰は痛くなるわ二日酔いだわ、それでも手書きの文字を追いキーボードを叩きつづけて妙に機嫌がいいんですから不思議なものです。


 奇譚ジャンキーとお呼びください。

 それにしても、とくに眼が疲れて困ります。

 文庫本に印刷された写真から文章を読み取るんですから、かなり近づかないと判読できません。

 しかし、ただ近づけばいい、ってものでもありません。

 世の中には老眼という冷酷な問題が厳然と存在していて、なんやもう泣けてきまっせ奥さん。

 ですから、作業中の机はこんな感じになります。


 厚めの辞書を二冊積みあげ、そのうえにファイルホルダーを立てて『奇譚/獏の言葉』を据えつけ、さらには先日近所の百円ショップで買ってきた天眼鏡を用意して、粛然と作業に勤しんでおります。

 粛然と、と申しますか、YouTubeで「剣客商売」なんかみながらやってるんですけど。


 とうとう「剣客商売」はすべて消化してしまい、「鬼平犯科帳」に移行してこんにちを迎えました。

 それにしても奥さん、山中貞雄の「人情紙風船」がYouTubeでみられるようになっとるんですから、正味びっくりしまっせ奥さん。


 さて、『奇譚』の件ですが、私もこんなばかみたいになって内容を公開する作業に勤しむつもりはなく、ただ序文だけを公開して『奇譚』一冊がいかに興味深いものであるかをお知らせするだけでいいと思ってはいたんですけど、ただ寝転がって読んでるだけでは視線がうわすべりして内容が頭に入ってこず、というのも、眼で読んでるぶんには判読しにくいところ、英文、難しい漢字、みたいなものはどうしてもすっ飛ばしてしまいますから、にらめっこしながらタイピングして、ようやくふつうに読み進められるという寸法です。

 読み進めてみますとと、やはりいろいろと発見があり、乱歩の初心とでも呼ぶべきものにふれられるのもうれしく、つい嬉々として深みにはまってしまった次第なのですが、えへん、ここにひとつ、鼻高々で新たな発見を書きつけておきたいと思います。

 『奇譚』の第三編「ボーその他」の第九章「続ポー」の第三節「神秘的作品」の「アルンハイムの地所」に、こんなことが記されています。

嘗ッテ谷崎(兄)氏ガ大阪朝日紙上ニ金色ノ死ト題スル一篇ヲ出シタ事ガアル。アレハコレカラ suggestion ヲ得タノデハナイカト思ハレル。

 ところが、毎度おなじみ『探偵小説四十年』では、大学を出て就職した大阪の貿易商を突然ばっくれて放浪中の大正6年、伊豆の伊東温泉ではじめて「金色の死」を読んだ、ということになっています。

 先にも書いたように、私は少年時代自然主義文学が面白くないという印象を受けてから、日本の文壇小説というものに殆んど無関心となり、それが大学卒業後までつづいていたのだが、第一の職業、大阪の貿易商をしくじって、数ケ月の間、温泉から温泉へと放浪をつづけていたころ(私は生来放浪の気質を持っていたが、それが実際に現われたのは、このときが最初であった)伊豆の伊東温泉であったと思うが、宿のつれづれに、ふと手にした小説が谷崎潤一郎の「金色の死」であった。私はこの小説がポーの「アルンハイムの地所」や「ランドアの屋敷」の着想に酷似していることをすぐに気づき、ああ日本にもこういう作家がいたのか、これなら日本の小説だって好きになれるぞと、殆んど狂喜したのであった。それ以来私は谷崎氏の小説を一つものがさず読むようになったが、読めば読むほど益々好きになり、今でもその気持は失せていない。

 『探偵小説四十年』にはこう記されているのですが、事実は『奇譚』に記されたとおり、つまり乱歩は大学在学中に「金色の死」を読んでいたということになるでしょう。

 ただし『奇譚』の記述にもおかしなところがあって、「金色の死」が連載されたのは、小谷野敦さんの「谷崎潤一郎詳細年譜」をはじめとした谷崎潤一郎の年譜によれば、「大阪朝日新聞」ではなくて「東京朝日新聞」でした。

 谷崎潤一郎 詳細年譜:1914(大正3)年 / 29歳

 それにしてもこの年譜はなんだか凄いなと思いますけど、それはともかく、「金色の死」の連載は12月4日から17日まで、むろん当時の乱歩は東京に住んでいましたから、読んだのは東京朝日だったと考えてまちがいないはずで、しかも『奇譚』がまとめられたのは大正5年3月、つまり「金色の死」が発表されてからわずか一年ちょいあとのことゆえ記憶もまだまだ鮮明だったと思われるのですが、にもかかわらず乱歩はたしかに「大阪朝日紙上ニ金色ノ死ト題スル一篇」と記しています。

 大丈夫か乱歩、みたいなことはいいとして、気になるのは『探偵小説四十年』の記述です。

 乱歩が伊東温泉で『金色の死』を読んだのは事実でしょう。

 たぶん大正5年6月に日東堂から刊行された名家近作叢書第二輯『金色の死』だったと思われますが、放浪の旅の途次、どっかの本屋でその本を眼にとめて、ああ、あの小説は面白かったな、とか思って買い求め、伊東温泉の宿屋の座敷に寝っ転がって、進退きわまりつつある現実からまさにユートピアへ逃避するようにして「金色の死」をむさぼり読んだ、ということだったように思いますけど、さて、それから三十年あまりが経過して、『探偵小説四十年』に、というか、厳密にいえば「探偵小説三十年」にそのときのことを書く段になって、乱歩は自分がはじめて「金色の死」を読んだのは学生時代であったということを忘れてしまっていたのか、それとも、おぼえてはいたけれどもなにかしらおもわくがあって放浪中にはじめて読んだということにしてしまったのか、さーあ、どっち。

 どっちかであることはたしかなんですけど、いったいどっちであったのか、お暇でしたらちょっと考えてみてください。

 それでは、できるだけ両眼をいたわりつつ、またジャンキーに戻ることにいたします。
Posted by 中 相作 - 2013.10.26,Sat

 しつけーよーだけど、きのうは大分市が公開しとったぞ。


 さて、乱歩生誕百二十年を記念して乱歩蔵びらきの会が世に問うはずの『奇譚』の件ですけど、著作権の問題には眼もくれず、第一編「春浪及其他」全文を追記つきでお届けいたしました。

 乱歩に興味があるひとのみならず、明治なかばに生まれた読書好きの少年がどんな小説を血肉として成長したのか、みたいなことが手にとるようにわかりますから、児童文学に関心があるひとにも有益な一冊になるのではないかと思われます。

 もちろん、飛ぶような売れゆきをみせる商品にはなりません。

 しかし、乱歩という作家のことや、この国の探偵小説、あるいは児童文学の歴史をよく知りたい、研究したい、というひとにとっては、おそらく必読必携の基本文献にはなるはずです。

 つまり、潜在的な必要性、みたいなものが、いまから見込めるわけです。

 で、せめてそれくらいのことは見込もうな、という話になります。

 つまり、乱歩生誕百二十年の記念事業としてなにをやったっていいんだけど、事業の必要性とかいうやつを考慮してみようね、ということです。

 このあたりのことは地域雑誌「伊賀百筆」第二十三号の漫才にも書きましたから、関係各位はぜひご購読くださいな。

 てゆーか、そのあたりのことは公開ページに出てきますから、いちどよく読んでくださいな。


 てゆーか、特別大サービスで当該パートを引用しちょいちゃるけ。

「まず重要なポイントがあります」
「事業を成功に導くポイントですね」
「必要とされている事業をやるゆうことが重要です」
「それはごくあたりまえのことや思いますけど」
「けど君あの伊賀の蔵びらきの数多い事業のなかで必要とされていたものがなんぞありましたか」
「いろいろあったんとちがいますか」
「しょせん学芸会の域を出るものやなかったですね」
「なんで学芸会ですねん」
「学芸会は出演する子供の身内とか関係者からは必要とされてても世間一般の人には関係ありませんから」
「ほな伊賀の蔵びらきも世間一般の人にはいっさい無関係で必要とされてなかったゆうことですか」
「右も左もわからん田舎もんが身内だけで盛りあがって喜んでるご町内イベントばっかりでした」
「そうゆういいかたはひどいと思いますけど」
「あんなもん税金三億円がばらまかれると聞きつけてから大あわてで自分たちの趣味や道楽の延長上に一円でも多くの税金を囲い込もうと目の色を変えたあさましくて欲の深い乞食連中が泥縄式にでっちあげたすっとこどっこい事業を野放しにしただけでしたがな」
「ようそこまで悪口すらすらと出てきますな」

 とにかく、伊賀の蔵びらき事業の二の舞いだけはしないように気をつけねーとな。

 それから、公開ページだけでなくて、未公開ページにもとてもたいせつなことが書いてありますから、関係各位は「伊賀百筆」第二十三号、ぜひぜひお買い求めくださいな。

 それでは、『奇譚』のつづき、きょうも元気に行ってみよう。

(37)

BOOK II.
RUICOW AND OTHERS

(38)

(A)
探偵的涙香
[黒岩涙香ガ飜訳小説ヲ著シタル年代順ニ随ツテ各作家訳者ノ批評ヲスル事ニシタ。]

(39)

CHAPTER 4.
GABORIAU ト丸亭素人

 涙香 = 小学生ニ読マセタラ必ツト黒岩涙香ノ文章ハ下手ダト評スルデアラウ。或ル点ニ於テコノ評ハ当ツテ居ル。彼ノ文ハ日本文法ニ適ハヌ誤ガ多イ。文語口語時ニ混淆サレテ居ル。会話ノ言葉、殊ニ婦人ノ言葉ナドハ極メテ真ニ遠イモノダ。ソノ上誤字ガ多イ。僕モコレラノ理由ニヨツテ一時ハ彼ハ想ニ於テ面白イ事ヲ書クガ文章ハ下手ダナト思ツテ居ツタ。然ルニ此頃ハ何ウダラウ。ソレガ正反対ニナツテ了ツタ。普通ノ小説家ノ書ク文章ガ却ツテ気障ニ見エ涙香ノ文章ニ言フベカラザル味ガ出テ来タ。想ノ如キハ近頃ノ新シイ人々ノ作ニ劣ルケレドモ、文章ニアル親シサヲ感ズルノデ涙香ノ作ハ今モ読ミ度イ。
彼ノ文ヲ読ムト恰カモ酸イモ甘イモ噛ミ分ケタ分別者ノ意見ヲ聞ク様ナ感ジガスル。普通ノ人ガアンナニ廻リクドク書イタラ見ラレタモノデハナイガ、彼ガ書クト幾ラ廻リクドクツテモ、

 「必ツト」は「きっと」と読むのではないかと思います。

(40)

ソノクドイ所ガ面白イカラ妙ダ。涙香ト同時代恰カモ水蔭ノ春浪ニ於ケルガ如ク、彼ト併立シテ Gaboriau, Du Boisgobey 等ノ探偵小説ヲ訳シタ人ニ丸亭素人ト云フ人ガアル。処ガソノ素人ノ訳シタモノハ同ジ原作デモ涙香ノ様ナ味ガナイ。只モウ新聞ノ三面記事ヲ書ク様ナ調子デ何ノ技工モナク訳シテアルノデ少シモ面白クナイ。訳者ノ相違ニヨツテ原作ハヨクモ悪クモナル事ガヨク証セラルヽ。
聞クナラク、涙香ハ原書ヲ一読スルト、訳サネバナラヌ要点ニ線ヲ引キ、新聞ニ出スノナレバ大体ノ回数ヲ定メ、ソレ丈ケノ数ニ原書ヲ区分スル。然ル後、彼ノ線ノアル所ノミヲ主トシテ後ハ勝手ニ取捨増減シ、自分ノモノトナツタ文章ヲ書クノダ相ナ。彼ノ小説ノヨク消化シテ居ルノニハ斯ウ云フ原因ガアル。彼ハ彼ノ所謂異様ニ文章ヲ書カウト力メル。彼ハ事ノ次第ヲ廻リクドイ簡単ヲ以テ一読明瞭ナ様ニ記ス天才ヲ持ツテ居ル。彼ノ天人論ガ深遠ナル哲学ヲ平明ニ説キ得テ、浅薄ノ誹ヲ招ク程デアツタノハ、実ニ彼ノコノ特徴ノ然ラシムル所デアル。
然シ、彼ハ僕ノ最モ共鳴スル Poe ノ眩惑

(41)

的天才ハ勿論持ツテ居ラヌ。彼ノハ天才ト云フヨリモ努力ノ結果ト云ベキモノヲ豊富ニ所有シテ居ル。随ツテ彼ニアレ以上ノ深サアル探偵小説ヲ望ム事ハ無理デアル。Poe ノ詩、短文ハ彼ノ訳シ得ヌ所ダ。訳シテモ極メテ原文ニ遠イモノトナルデアラウ。ソコヘ行クト和製ノ Hugo ト云ハレタ森田思軒ハ適任者ダ。彼ノ間一髪ハ或ル点迄 Poe ノ天才ト一致スル天才ヲ以テ訳サレテアル。
日本デ最モ我 Curious novel ノ理想ヲヨク自カラ embody シテ居ルモノハソノ量ニ於テ質ニ於テ両者ノ積ニ於テ涙香ヨリ外ニハナイ。僕ハ次ニ出ヅベキ探偵小説家ニハ涙香ニ加フルニ Poe ヲ以テシタ人ヲ望ミタイ。涙香ノ小説ヲ大別シテ二方面ニ別ツヿガ出来ル一ハ探偵小説及ソレニ類似ノモノ。他ハ探偵小説以外ノモノ。後者ヲ更ニ分ツテ(1)怪奇小説(Thrilling novel)(2)伝奇的人情小説(一種ノ Romance)(3)科学的小説(Scientific novel)☆トスルヿガ出来ル。(1)ハ例ヘバ幽霊塔、岩窟王ノ如キモノ。彼ノ訳書中最モ大物ノアル Category デアル。Dumas ノモノヲ Thrilling novel ナド云フノハ失礼カモ知ラヌガ、他

☆(4)探検小説(exploratory novel)

 「云ベキモノ」は「云フベキモノ」だと思います。

 「☆」は忘れてたものを追加するために使用した記号で、追加分「(4)」は地のマージンに記載。

(42)

ニ適当ナ名モナイ。(2)ハ噫無情、野ノ花ノ如キモノ、単ナル人情小説例ヘバ恋ノ小説ナドト異ル所ハ伝奇的ナルニアル。plot ニモ変化ガナケレバナラヌ。涙香ノ筆ハ plot ガナカツタナラバ立タヌ。plot ニ沿ツテ彼一流ノ人情ヲ説ク所ニ味ガ湧ク。彼ノ人情観ハ極メテ常識的ダ。随ツテ平凡単調タルヲ免レヌ。単調ダカラ plot ノ変化ヲ以テ之ヲ補フノ外ハナイ事ニナル。単調トハ云フモノヽ噛ンデ含メル様ニヨク突込ンダ筆致ヲ以テ人情ヲ描ク所ハ真似ノ出来ヌ美点ダ。明治初期ノ小説ナドニ比スレバ情ニ於テモ説キ得テ妙ナ所ガ少クナクハナイ。只彼ハ詩人ノ紅ナル熱ヲ欠ク。説教僧ノ深切ニ近イ所ガアル。ソコニ長所モアレバ短所モ存スル。(3)ハ Verne, Wells 等ニヨツテ代表セラルヽ物理的化学的天文学的小説デアル。コノ方面ノ作ハ三ツシカナイ。暗黒星ハソノ一ツダ。涙香ハ科学的ノ頭ヲ以テ居ル。分析綜合ナドニ〓〓〓ガアルラシイ。随ツテコノ方面ノ訳モ上手ニ出来テ居ル。直訳ニ陥ラヌ常識的ガ大イニ助ケトナル。(4)ハ Haggard ノ作ニ見ルガ如キ奇怪ナル探検小説デアル。コノ方面ノ作

 「以テ居ル」は「持ツテ居ル」でしょう。

 「〓〓〓」は判読不能。

 【2013年10月30日追記】「〓〓〓」は「才能」でした。【追記終了】

 お暇なかたは『奇譚/獏の言葉』を開いてご検討ください。

 【2013年10月30日追記】上の追記のとおり自己解決しましたので、ご放念ください。【追記終了】

(43)

ハ二ツシカナイ。山ト水及人外境ガ之デアル。以上五項目悉ク僕ノ好ム方面ナラヌハナイ。之レ僕ノ涙香ニ共鳴スル所以デアル。之ヲ要スルニ涙香ハ奇怪ナル小説ヲ円転滑脱ノ筆ニ訳シタ日本一ノ Curious noverist ダガ、我理想ヨリスレバ未ダ々々遠イ。殊ニ彼ハ飜訳家ニシテ創作家デナイノダモノ、日本ハコノ方面ニ貧弱ダナア。
──────────
以下彼ノ訳ヲ年代順ニ配列シテ重要ナルモノニハ原作者ノ全体ニ亙ツテ批評シ且ツ他ノ訳者ト比較スル。
法庭の美人 原名 The Dark days ヒユー、コンエイノ訳。勿論読ンダ事ハアルノダガ今ハ忘レタ。批評シ得ナイ。
 GABORIAU = 仏ノ Emile Gaboriau ハ一時日本ニモ盛ニ輸入セラレタ。米ノ Poe ガ Dupin、英ノ Doyle ガ Holmes ノ如ク彼ハ Lecoq ナル探偵ヲ Idol トシテ彼ノ探偵小説ヲ書イタ。コノ点ニ於テ Poe, Doyle, Gaboriau ハ世界ノ三人ト称スル事モ出来ル。探偵法ニ於テモ Poe, Doyle ノ精ナル点ヲ欠クモ

 「noverist」は「novelist」。

 「法庭ノ美人」は「法廷ノ美人」。

(44)

中々巧ミナル Deduction ガ用ヰラルテ居ル。然シ彼ノ主人公 Lecoq ハ現ハナル野心家デアル。他ヲ排シテ自ガ独リ長官ニ認メラレヤウトスル様ナ、多少探偵ノ俗臭ヲ脱シテ居ラヌ所ガアル。Doyle ハ彼ノ Lecoq ヲ "Study in Scarlet" ニ於テ Holmes ヲシテ次ノ如ク批評セシメテ居ル。

"Lecoq was a miserable bungler, he had only one thing to recommend him, and that was his energy. That book made me positively ill. The question was how to identify an unknown prisoners, could have done it in twenty four hours. Lecoq took six month or so. It might be made a text-book for detective to teach them what to avoid."

随分痛烈ニ罵倒シテ居ル。コレハ Ga 氏ノ Lecoq, The detective. ヲ云ツタモノラシイ。英訳ハ種々アツテ、之ヲ Monsieur Lecoq

 英文、大嫌い。

(45)

ト云フ題ニシテ居ルノモアル。他ノ探偵ハ分リ切ツタモノトシテ安心シテ居ル時 Lecoq ハ私ニ疑ヲ抱イテ独リ探索ノ歩ヲ進メル。雪ノ上ノ足跡ヤ種々ノ微細ナル遺留品ニヨツテ賊ノ行動ヲ手ニ取ル如ニ推断スル辺リハ Du Boisgobey ナドノ及バヌ deductive ナ所ガアル。ケレドモ Doyle モ云フ如ク余リニ結末ガ遠イ。ソノ為ニ折角ノ興味ヲ失ヒ探偵ノ手腕ガ落チテ見エル。然シ批評ハスルモノヽ、アレダケノ探偵小説家デモヨイ我国ニ在ツタラト思フ。Poe, Doyle サテハ近頃ノ探偵小説家例ヘバ仏ノ Gaston Leroux 等ヲ除ケケバ一寸彼ニ及ブ探偵作家ヲ見出サヌ。
The Lerouge Case 寧ロ前者ヨリモアル点ニ於テ味ガアル。犯人ガ何モカモ凡テアル一人ニ疑ノカヽル様綿密ナル注意ヲシテ殺人ヲ行フ服装カラステツキニ至ル迄ソノ通リノモノヲ着シテ犯罪ヲ行フト云フ辺リニ僕ノ興味ハ集ツタ。ソレガ段々曝露シテ行経路亦面白クカヽレテアル。"Lecoq" ノ方ハ丸亭素人ガ大疑獄ト題シテ訳シテ居ルガ、訳筆極メテ拙ダ。Lerouge Case ハ涙香ガ多分有罪無罪(?)ト題シテ訳シタモノガアツタ様ダ。

 「如ニ」は「如クニ」。

 「行経路」は「行ク経路」。

(46)

涙香ノ Gaboriau ヲ訳シタモノニ大盗賊 人耶鬼耶 他人ノ銭 等ガアルガ皆今ハ忘レテ了ツタ。素人ノ訳ニカヽルモノモ多クアルト思フガ之ハ知ラナイ。
Gaboriau ノ作ノ英訳ニナツタモノ二三上グレバ。

File 113
Last Adventure of Lecoq, the detective
Mystery of Orcival

死美人。Old age of Lecoq, the de.

Paris of Lecoq, the de.
Blackmailers

死美人ハ old age of Lecoq ラシ二冊ノ長篇。古ノ小説ハ気ガ永イ。涙香ハ Lecoq ヲレコツク先生ト云フテ居ル。彼ガ巴里ヨリ本ヲ取寄セルト云フノト矛盾シテ居ル。

今ノ世ノ奇蹟(涙香創作)

 最後の行は追記されたものです。

 【2013年11月3日追記】「死美人」がガボリオの作とされていますが、この「La vieillesse de Monsieur Lecoq(The Old Age of Monsieur Lecoq)」はガボリオが創造したLecoq探偵を主人公にボアゴベが執筆した長篇で、当節のことばでいうところのパスティーシュですから、本来であればガボリオではなくボアゴベの項で扱われるべき作品です。【追記終了】

(47)


 このページは白紙です。

 しっかし、大丈夫かよ、著作権。
Posted by 中 相作 - 2013.10.25,Fri

 きょうの『奇譚』はきのうのつづき、「定期刊行物と探偵小説」のおしまいまででご勘弁いただきます。

(34)

 中学世界
 Wells 流ノ科学小説ガヨク出ル。
 太陽
 昔ノ太陽ニハヨク不思議小説ガ載ツタモノダ。Sherlock Holmes ノドレダツタカ忘レタガ誰カヾ訳シテ出シタ事ガアル。
 文芸倶楽部
 昔ノ文系倶楽部ニ誰カヾ Doyle ノ Golden Pince-Nez ヲ訳載シタコトガアル。近頃ハ又岡本綺堂ノ飜訳小説ガ毎号連載サレテ居ル。幽霊ノ旅、黒沢家ノ秘密ナド之デアル。又一種ノ面白味ガナイデモナイガ要スルニ平凡タルヲ免レル事ハ出来ナイ。
 日本少年、少年、飛行少年、少年倶楽部
 少年ハ小説ノ文ヲ味フヨリモ筋ヲ喜ブモノダ。随ツテ低級ナル探偵小説ハ毎号コレラノ雑誌ヲ飾ル。春影ノモノ而モソノ飜訳モノヲ除イテハ見ルベキモノガナイ。ソノ春影ハ逝イタ彼ノ後継者トナツテ探偵小説ヲ書イテ呉レルモノハ誰ダラウ。
 万朝報
 一時明治廿年頃探偵小説ガ小説界ヲ風靡シタコトガアル。ソノ頃涙香ノ

 はい、次。

(35)

飜訳小説ハ大体万朝報ニ載セラレタ。ソンナ時代ガモウ一度来レバヨイト思フ。
 探偵世界 近頃一寸出テスグ消エタ極メテ廉ツポイ。五号活字ノ中ヘ二号活字ヲ沢山混ズル様ナ旧式ナモノ。㐧一表紙ガイケナイ。内容ノ新シカラウ筈ハナイ。

〓〓ノ世界社ノ探偵雑誌ハヨイ
探偵小説時代〓〓〓文学上何ノ値もないとは云つてゐるが奇怪小説ノ立場から見ての話さ

新青年(博文館)主筆森下雨村 寄稿家
        大正九年頃より 保篠竜猪
 最も尤なるもの、遺憾なしといふも可。
新趣味(博文館)
 少し低級なもの、(青)より後ニ創刊。
ポケット(博)
 低級乍ら探偵小説に努力す。
其他講談倶楽部、文芸倶楽部、講談雑誌等夫々掲ぐ。

 このページは「探偵世界」の項で終わっていて、余白に追記があるのですが、この追記が走り書きでまことに読みにくく、どうしても読めないところはゲタにしておきました。

 かろうじて判読できたところも、これで正解かどうか、自信はまったくありません。

 しかもインクの濃淡に差があって、もしかしたら一度ではなく二度にわたって追記されたのかもしれません。

(36)

Je sais tout Leblanc ノ寄稿雑誌
Strand Doyle ノ寄稿雑誌
ピアソン Fleeman ノ寄稿雑誌
大阪毎日社のサンデー毎日ニ Green などの探偵物が続いてのる。

 このページは中扉前の余白なのですが、そこにもこんなふうな追記をみることが出来ます。

 「Fleeman」は「Freeman」だと思います。

 さて、これでようよう第一編はおしまいです。

 どもおつかれしたあッ。
Posted by 中 相作 - 2013.10.24,Thu

 お待たせしました。

 地域雑誌「伊賀百筆」第二十三号が出ました。

 ついに出ました。

 私のもとにはきょう郵送されてきましたので、ご予約いただいた遠方のみなさんにもあすあたり、きっと手にしていただけるのではないかと思います。

 終戦直後の旧上野市の文化運動を掘り起こした特集「パルナッスの丘とその周辺」ほか、二百二十ページにわたって多彩な作品が勢ぞろいしておりますが、私の漫才だけ明らかに浮いてます。

 浮きまくってます。

 詳細はまたあらためてお知らせすることにして、毎度おなじみ『奇譚』のほうも、本日は奇しくも雑誌の話題となっております。
 
(29)

EPISODE 1
PERIODICALS AND THE DETECTIVE STORY.

別ニ自信ノアル事ヲ書カウト思フノヂヤナイ。只読ンダ事ノアル雑誌ノ中探偵小説ノ見エルモノヲ選ンデ短評ヲ加ヘントスルニ過ナイノダ

STRAND MAGAZINE
 ヨク DOYLE ガ短篇ヲ載セル。'13 ノ December number ニハ新シイ Sherlock Homes 談ヲ出シタシ。'15 年ノ October 号ナドニモ Outing in Wartime ト云フノヲ出シテ居ル。【2013年11月23日追記】同ジ号ニ George R. Sims ト云フ人ガ Originality in Murder ト云フノヲ出シテ居ル。【追記終了】ソレカラ Hint ヲ得テ "人カ馬カ" ト云フ探偵小説ヲ案ジ二度程子供等ニ話シテ遣ツタコトガアル。又コノ内ニ Poe ノ "The Murder in the Rue Mogue" 及 Gaston Leroux ノ "The Mystery of the Yellow Room" ノ材料トナツタ不思議ノ事件ガ記シテアル。次ニソノ部分ダケヲ切貼ル。

 乱歩はドイルの「Outing in Wartime」からヒントを得て「人か馬か」と題した探偵小説を思いつき、子供に話してやったことがある、とのことです。

 私は英語には弱いですけど探偵小説にも弱いので、そんなドイル作品は読んだことはおろか聞いたこともなく、ちょっと検索してみたらこれらしいです。

 Sherlock Holmes Encyclopedia:An Outing in War-Time

 うーん。

 さっぱりわけがわかりませんけど、気にすることなく次のページヘ。

 【2013年11月23日追記】文章の脱落がありましたので、上に追記として書き込みました。

 したがいまして、乱歩が思いついたという「人か馬か」は、ドイルではなくてジョージ・R・シムスからヒントを得たものだ、ということになります。

 いやどうもすいませんでした。【追記終了】

(30)

我ガ冒険世界ト文芸倶楽部ヲ打ツテ一丸ニシタ様ナ雑誌ダ。冒険小説ガ大部分ヲ占メテ居ル。London

 このページには「ストランドマガジン」の「不思議ノ事件」を記したページが切り貼りされていて、その余白に上のごとく記されております。

(31)

WIDE WORLD
 コレハ米国ノ雑誌英ノ Strand Magazine ニ当ル様ナモノダガ一層下品ダ。コレニハ日本カラモ投書スル人ガアルト見エ我風俗ナドヨク見ル。確カ '15 年ノアル号デダツタ題モ忘レタガ、保険探偵小説ガ出テ居ルノヲ見タコトガアル。保険探偵小説トハ保険金ヲ得ル為ニ偽ツテ死ンダ様ニ見セカケル犯罪ニ係ルモノヲ総称スル。コレハヨクアル。春影ノ呉田博士六篇ニアルノモコレダ。Wide World ノハ悪人デハナク貧乏ノ為ニ苦シム妻子ヲ可哀相ニ思ツタ夫ガ妻子ニ告ゲズニ家出ヲシテ死ンダ様ニ見セカケ、妻ハ何モ知ラズ保険金デ生活シテ居ル。トアル夜夫ノ亡霊ガ現レル。夫レハ夫ガ一眼妻子ヲ見テ遠ク外国ニ走ロウトシテ最后ニ遣ツタ来タノダ。コノ辺リ物凄ク描イテアル。ソレヲ保険会社ノ社員ガ婦人ニ共力シテ真相ヲ見露スト云フ筋。Doyle ヲ見タ眼ニハ殆ンド見ラレタモノデナイ。次ニハ '15 年ノ Christmas 号ニ X's Ghost ト云フ怪談ガ出テ居ルノヲ見タ。Spiritualism ヲ信ズル X 氏ガ遺言ヲセズシテ死ンダ。氏ハ常ニ死後霊トナツテ現レ Spiritualism ヲ信ゼヌ

 「遣ツタ来タ」は「遣ツテ来タ」でしょ。

(32)

人々ニ実例ヲ見セテ遣ルト云フテ居ツタ。ソノ後息子 X 氏ノ厩ニ何カ怪シイヿガアルト見エ馬ガ夜眠ラヌ。ソシテ段々痩セテ行ク。馬ノ番ヲスル為ニ馬舎ニ寝タ馬丁ハ夜中ニ怪シイ嘆息ヲ聞ク。天窓ノ外ヲ見ルト白イ光ツタ Ghost ガ居ル。コレカラ騒ギニナツテ X 氏及ソノ友人数人ガ徹夜シテ Ghost ヲ待ツ。十二時ガ打ツト果然妙ナ嘆息ガ聞エル。ソレガ何所カラ来ルトモ分ラヌ。天井ノ様デモアリ床下ノ様デモアリ。サテハ人々ガ立ツテ居ルソノ間、自分ノ目ノ前ニ聞エル様デモアル。コノ辺リ凄イト思フ。遂ニ光ツタ X 氏ノ霊ガ現レテ嘆息ノ数ニヨツテ人々ノ問ニ答ヘルヿニナル。然シテコレハ凡テ隣家ノ子供ノ悪戯デアツタトハ後ニ分ル。光ツタ Ghost ハ面ニ燐ヲ塗ツタモノ。嘆息ハ二人ノ子供ガ上ト下デ交々発シタノデソノ出所ガヨク分ラナカツタノデアル。別ニ新味モナク。面白クモナイ。恰度我冒険世界ニ当ル雑誌。
 冒険世界
 始メ春浪ヲ主筆トシタ。中頃彼ノ病中ハ河風潮風ガ殆ンド主筆ノ様ナ地位ニアツタ。ソノ後春浪ガ去ツテ武侠世界ヲ興スニ及ビ今ノ阿武天風ガ代ツテ主筆トナツタ。彼ハ兵学校出ノ海軍小尉デアル。

 「海軍小尉」は「海軍少尉」。

(33)

主筆ガ皆余リ探偵小説ニ傾カヌ人々デアツタノデ左シテヨイ探偵小説モ出ナカツタ。只一人三津木春影ハ探偵小説ヲ出シテ大好評ヲ博シタ。最初ノモノヲ奇絶怪絶飛来ノ短剣ト称シタ。探偵小説ノ少イノニ反シテ幽霊談ハ大分出タ様ダ。近頃大分政治的ニナリ始メタ。尚更ラ探偵小説ニハ縁ガ遠クナル。
 武侠世界
 早稲田ノ魔窟攻撃ノ際坪谷水哉ト衝突シテ出デヽ自カラ武侠世界社ヲ興シタ春浪ハソノ社長タリ主筆デアツタ。春影ノ呉田博士ノ好評ナノヲ見テ晩年ノ彼ハ二三探偵小説ノ飜訳ヲ載セタ。主トシテ Doyle ノモノデ Scandal in Bohemia ナドモアル。春浪ノ死後針重某ト云フ運動記者ガ主筆ノ様ニナツテ居ル。ソシテ中沢臨川ヤ大倉桃郎等大分方面ノ違ツタ人々ノ、稿ヲ出シ始メタ。ドウモ平凡ニ堕シテ行ク様ニ思フ。
 ANSWERS
 匿名氏ノ Sexton Blake 探偵談ガ載ツテ知ラレタ(僕ニ)英国ノ小説雑誌。Blake ノ批評ハ後ニ書ク。而シテ Answers ヲ直接見タコトハナイノダカラ、只コレ丈記スニ止メル。

 「針重某」はフルネームが針重敬喜。

 つづきます。
Posted by 中 相作 - 2013.10.23,Wed

 いやー、夢にみますね、二十面相の恋チュン。

 とか思ってたら、きのうの読売新聞にこんな記事が。

 YOMIURI ONLINE:知事らの「恋チュン」、再生140万回超(2013年10月22日)

 「企画会社から提案されて実現した」とありますから、佐賀県が叩かれた五十万円の費用も、たぶんそっち関係の経費だったのかもしれません。

 検索してみたら、県ではなくて市町レベルでやってるとこもあって、たとえば国立市はこんなん。


 どこかは知らねど、猪名川町。


 ほんと、二十面相の恋チュン、やればよかったのに。

 ま、来年の本番まではまだ一年ありますから、二十面相の恋チュンをしのぐようなプロジェクト、じっくり想を練ってみてけろ。

 ついでですから、大反響らしい平井堅君の「桔梗が丘」もどうぞ。


 桔梗が丘というのは、名張市内の地名にして、近鉄大阪線の駅名でもあります。

 このMVに出てくる風景はすべて名張市内、多くは桔梗が丘地内で、平井堅君のほんとうのお母さんも出演していらっしゃいますが、おれなんかたまに近所のマックスバリュ名張店でこのお母さんにお会いしたりもしてんだぞ。

 すき焼きの肉をどこでお買い求めになったのかはわかりません。

 さて、先々週の土曜日、地元の秋祭りの宵宮の夜、親戚を招いてじつに久しぶりにすき焼きを食して以来、ふたたび草食の日々をほそぼそと生きつつきょうもお届けする『奇譚』でやんすが、なんかもうほんとに眼が急速にわるくなってるという実感があって、きょうなんか近所のマックスバリュ名張店のそばにある百円ショップで虫めがね買ってきましたがな。

 天眼鏡、とかいう易者がもってるやつです、はい。

 では、真新しい天眼鏡を駆使してきょうはハガードの項。

(26)

 HAGGARD = H. Rider Haggerd ハ英国、イヤ世界ニ於ケル探偵小説家ノ優タルヲ失ハヌ。Verne ノ科学的ナルハナクトモ、アフリカ蛮地ノ探検小説ナド何人モ到達シ得ナイ独自ノ境地ニアル。飜ツテ思フニ探検小説殊ニ Haggerd ノ如キ作品ハ将来余リ生命ガ長クハアルマイ。社会ノ進化ハ実際上ノ地球ニ探検ノ余地ヲ絶タントシテ居ル。サレバコソ我国デモ探検ヲ主トスル探検世界ハソノ影ヲ亡ヒ冒険ヲ主トスル探検世界武侠世界ハ盛エ来ツタ。Defoe ノ Robinson Crusoe ハコノ種探検小説ノ優ナルモノデアルガ Haggard ガソノ殿デハナカラウカト云フ様ナ感ジガスル。サレバトテ、Verne ノ如ク科学的ニ Wells ノ如ク将来ノ探検談抔ナラバマダく余地ガアル。
Allan Quatermain 中学三年カ二年ノ頃、父ノ書棚ヲ探シテ不図二人女王(菊池幽芳訳)ト云フ本ヲ見附ケタ。何気ナク読ンデ見ルト探検小説ダ。而モ非常ニ面白イ。今迄ニ経験ノナイ奇シキ興味ニ魅セラレテ一気ニ読ミ了ツタ。当分ハ二人女王ガ頭ヲ離レナカツタモノダ。三人ノ欧人ガアフリカ内地ヲ探検スル。黒獅子ト云フ額ニ穴ノアル豪傑ガ大鉞ヲ持ツテ三人ニ従フ。アル河

 「殿」は「しんがり」と読んでください。

 「探検談抔」の「抔」は「など」なんですけど、あとから挿入された字ですこぶる判読しにくく、かなり無理してこう読んでみました。

(27)

ヲ舟デ遡ル間ノ物凄イ出来事。川上ニ住ム老人ノ家ニ籠ツテ蛮人トノ戦。ソノ家ノ娘ノ Episode。不思議ノ湖、舟ガ何時ノ間ニカ一方ノ隅ニ向ツテ近附キツヽアル、段々流レル速度ガ加ハツテ遂ニハ矢ノ様ニ進ム。驚イタガドウスルコトモ出来ヌ。地下ノ戦慄スベキ旅行。火ノ柱。水ガ段々熱クナルアタリノ描写ノ妙。不思議ノ国。二人ノ女王。原文ノ妙味ニ加フルニ訳筆ノ流麗。コウ云フ小説ニハ、アノ口調ノヨイ漢文直訳体ガ最モ相応シイ。
King Solomon's Mines 大宝窟ト云フ名ニヨツテ宮井安吉先生ガ訳サレタ。先生ガ若イ時ノ著ニ係リ文章ハ中々ニ巧ミダガ、英学生ノ通弊余リニ原文ニ忠実ナ為メ面白サヲ削グ。幽芳ノ流暢ニハ及バヌ。スツカリハ読マヌカラ分ラヌガ、アフリカノアル山中ニ Solomon ノ遺宝ガアルト云フ伝説ヲ信ジテ一人ノ男ガ探検ニ出掛ケル。処ガソノ山ニ行ツタモノハ一人トシテ無事ニ帰ラヌト云フ云ヒ伝ヘガアル。ソレヲ男ノ兄ガ心配シテ自カラ弟ノ後ヲ追フノガ発端デアル。
彼ノ作ノ重ナルモノヲ記セバ。

Allan's Wife and Other Tales
The Brethren


 「コウ云ウ」は「カウ云フ」になってるべきだと思います。

(28)

The Ghost Kings
Jess
Lysbeth

〔A Tale of the Dutch〕

Morning Star
Red Eve
She

〔A Histrory of Adventure〕

The Lady of Blossholme
Pearl Maiden
Montezuma's Daughter
Dr. Therne Anti-vaccinist
Nada the Lily
Yellow God
The Wizard
Maiwa's Revenge, or The War of the Little Hand


 はい、おしまい。
Posted by 中 相作 - 2013.10.22,Tue

 ひらやまさんからコメントをお寄せいただきましたが、『新青年』研究会の「乱歩で散歩」、当ブログで本日ご紹介した「銀座編・第6回」で堂々の完結です。

 そういえば、風間賢二さんがこんなツイートを。


 当ブログ右サイドのリンク欄、「YouTube:乱歩で散歩」でいつでも全編をご覧いただけますので、よろしくどうぞ。

 さて、おとといの「乱歩生誕祭」、雨のせいもあって盛りあがりに欠ける催しだったような印象ですが、ま、しかたありません。

 きのうも記しましたけど、乱歩のことをなんにも知らない市民が、乱歩のことにまったく興味がない市民を対象に、というのですから、そりゃほんとに難しいと思います。

 そもそも、名張市民だから乱歩に親しまなきゃならない、なんてことはまったくありません。

 乱歩作品を読もうが読むまいが、そんなものはひとそれぞれですから、名張市民相手に乱歩が乱歩がと訴えるのは、いかにもむなしいことだと思われます。

 じゃ、どうすればいいのか。

 たとえば私だったら、乱歩生誕百二十年を来年に控えた今年の10月21日、乱歩を利用して名張市をひろく宣伝するためになにかやるとしたら、いったいなにをやったか。

 怪人二十面相に「恋するフォーチュンクッキー」踊らせて、その動画をYouTubeにアップしてましたね。

 時流にちゃっかり便乗すればいいのよ。

 この便乗ネタはいろいろあります。

 たとえば数日前には神奈川県バージョンが公開されて、そこそこ話題になってますし。


 お役所関係では佐賀県バージョンが早かったんですけど。


 税金の無駄づかいじゃねーかばーか、とか叩かれたりもしてます。

 日刊ゲンダイ:AKBダンス動画に税金50万円 佐賀県知事に批判の声(2013年10月19日)

 しかし、なにをどうやったら五十万円もかかるのか。

 『新青年』研究会の「乱歩で散歩」シリーズなんて、鬼も落涙するほどの低予算であれだけのものを仕上げてるはずだぞ。

 だから名張市でも便乗して、とは思っても、名張市役所のあのどよーんとした重っ苦しい空気のなかでは、カモンカモンカモンカモンとか、とても無理じゃろベイビー。

 だから二十面相の出番なわけです。

 たとえば早朝、名張市立桔梗が丘小学校のグラウンドでラジオ体操に汗を流す桔梗が丘体操会のみなさんにはじまって、怪人二十面相が観光スポットだの企業だの商店だの学校だの役所だの、むろんのこと建築途中で放置された怪しげな神社の予定地みたいな乱歩生誕地碑広場も含めてその他いろいろ市内各地を駆けまわり、さまざまなみなさんとカモンカモンカモンカモンをぶちかましたあと、最後には夜を迎えた名張のまちにマントをひるがえして消えてゆく、みたいな感じでいいと思います。

 二十面相とAKBのコラボなんて、まず名張市にしかできないことですし、乱歩のことをまったく知らなくてもOKですし、二十面相というキャラクターを利用して現在ただいまの名張の姿をひろく紹介できるんですから、こんな面白い企画はないと思います。

 ただまあ、現在ただいまの名張のまちの姿、ということになると、しーんと静まり返って薄気味悪いほどですから、人影の絶えた名張のまちで二十面相がひとりで踊りはじめ、踊りに加わる市民が少しずつ増えてゆく、みたいなシーンを入れるのもいいかもしれません。

 堀北真希ちゃんのケータイ刑事ダンス、みたいな感じになりましょうか。


 とにかくまあ、もうちょっとなんとかしようぜ。

 そこへ行くと、乱歩蔵びらきの会の『奇譚』はいまから乱歩ファンの期待を一身に集めてるわけですから、なんとかものにしてほしいものです。

 というところで、きょうはマーク・トウェインざんす。

(21)

 TWAIN = Humour ヲ以テ聞ユル米国ノ作家我正直正太夫故斉藤緑雨ノ wit ハ Twain ノ wit ニ近イ。Mark Twain ハ二葉亭四迷ト似タ因縁ヲ有スル号デ本名ハ Samuel L. Clemens 氏ト云フ。彼ニハ種々ノ方面モアラウガ、茲ニ彼ヲ上ゲタ所以ハ彼ノ文ノ奇ナル点ニアル。The Prince and the Pauper 小波山人ニヨツテ訳サレタ乞食王子ガ之デアル。英国ノ皇太子殿下ト殿下ニヨク似タ乞食ノ子トガ境遇ヲ換ヘテ互ニ苦心ヲスルト云フ筋。左程面白イモノデモナイノニ、ドウ云フ訳カコレヲ読ンダ時ニハ全ク吸込マレル様ニ感ジタ。矢張文章ノ徳デアラウ。サレバコソ英米ニ於テ数版ヲ重ネテ居ル。好個ノ少年小説。アル点ニ於テ Burnett 女子ノ Little Lord Fauntleroy, A Little Princess 等ニ似テ居ル。コノ三者ヲ読ム時ノ感ジガ全ク同一ノモノダ。A Double Barrelled Detective Story Archy Stillman ト云フ Born detective ガアル。ソレハ恐ロシイ程デ鼻ハ警察犬ノ如ク、耳ハ聞カザルニ聞キ、頭ハ全ク探偵ニ出来テ居ル。大復習ノ使命ニ一生ヲ費ス Hiro ダ。仇ノ後ヲツケ廻ツテ。何時トモ知レズ仇ノ室ヘ日

 「Humour」は、英国式に記せばこれでもいいみたいです。

 なにしろ英語力ほぼゼロなもので。

 「女子」は「女史」だと思います。

 「大復習」は「大復讐」が正しいでしょう。

(22)

数ヲ記ス。ソノ日数ハ仇打ノ日ヲ示スモノデ一日一日ト数ガ減ズル。仇ハコレニ振ヒ戦イテ逃ゲ廻ル。コノ辺ハ中々凄イノダガ、中頃ニ突然 Sherlock Holmes ガ飛ビ出シテ滑稽ナル大失敗ヲ演ズル。ソノ少シ前ニ村人達ガ Holmes ノ真似ヲスル所ガアルガ、コレガ実ニ面白イ。Doyle ノ Holmes ノ口調ヲ極メテ皮肉ニ真似シメテ善罵骨ヲ刺スモノガアル。然シ余リ大シタ作トハ思ハレナカツタ。
The £1,000,000 Bank-Note 奇怪ル喜劇ノ一幕ダ。アル金持ガ貧乏人ニ突然大金ヲ持タシタラドンナダロウト云フ議論カラ実際ニ試ミルコトニナツテ世界ニ只一枚ト云フ妙ナ千万円ノ札ヲアル貧乏ナ青年ニ与ヘル。青年ハ一躍英国交際界ノ花形トナツテ色々ノ波瀾ガアル結局青年ハ金持ノ娘ト結婚スルニ終ル。£1,000,000 Bank-noteノ奇ト貧民対金持ノ contrast ノ奇トハアルガ左程ノモノデモナイ。
The Killing of Julius Caesar "Localized" Caeser ガ暗殺セラレタ当時今日ノ様ナ新聞ガ有ツテソノ記事ヲ載セタラ面白カラウト云フ所カラソノ記事ヲ想像シテ書イタモノ。奇抜ナル所ニ味ガアル。
アダムノ日記 原名ハ Adam's Diary。奇抜ナモノダ。本間久四郎ニヨツテ訳サレタ。按フニ

 「奇怪ル」は「奇怪ナル」か。

 「ダロウ」は「ダラウ」であらう。

 「Adam's Diary」は、もともと「何ト云フカ知ラヌガ」とあったのが、こんなふうに訂正されてます。

 「A Double Barrelled Detective Story」に出てくる「ソノ日数ハ仇打ノ日ヲ示スモノ」にサジェストされた趣向は、乱歩の「魔術師」にみることができます。

(23)

Twain ノ特徴ハコノ奇抜ノ一語ニアルカト思フ。彼ノ作ヲ列挙セバ、

The Adventures of Huckleberry Finn
The  〃  〃  Tom Sawyer
Tom Sawyer Abroad
Tom Sawyer, Detective
Pudd'nhead Wilson
A Tramp Abroad
More Tramp Abroad
The Innocents Abroad

〔or the New Pilgrim's Progress〕

Roughing It
The Innocent at Home
The American Claimant
The Gilded Age
The Stolen White Elephant
Life on the Mississippi
A Yankee at the Court of King Arthur
Personal Recollections of Joan of Arc
The Man That Corrupted Hadleyburg


 もういや。

 英文って、ほんといや。

(24)

The Choice work of Twain
Twain's Library of Humor
Twain's Sketch
Celebrated Jumping Frog of Calaveras County
Christian Science

Eve's Diary 先ノアダムノ日記ノ姉妹篇.

Extract from Captain Stormfield's Visit in Heaven
A Horse's Tale
Information Wanted and Other Sketches
Sketches
The $30,000 Bequest and Other Stories
Travels at Home
Travels in History
Following the Equator

〔A Journey Around the World〕

Is Shakespeare Dead?

〔from my autobiography〕

Curious Dream and other Sketches


 勘弁してくれ。

(25)

〔1 A New Beecher Church. 2 My Late Senatorial Secretaryship. 3 The Facts in the Case of George Fisher, Deceased. 4 The New Crime. 5 Lionizing Murderers. 6 Mental Photos. 7 A deception. 8 The Facts Concerning the Recent Legislation. 9 Back from "Yurrup". 10 More Distinction. 12 The Legend of the Capitoline Venus. 13 Personal Habits of the Siamese Twins. 14 Rev. Henry Ward Beecher's Farm. 15 A Mysterious Visit.〕

 ようようトウェインの項が終わりました。

 AKBどころやないでほんまに。
Posted by 中 相作 - 2013.10.21,Mon

 今年もまた10月21日、乱歩のお誕生日が巡ってまいりました。

 気になるのは、名張市内できのう催された「乱歩生誕祭」。

 きのうはずーっと雨でしたから、開催されたのかどうかもわからなかったのですが、さーっと調べてみたところ、名張市観光協会のツイッターにきのうこんなツイートが。


 雨のなか、なんとか実施されたみたいです。

 この写真、近鉄大阪線名張駅東口にある乱歩像の前で撮影されたものですが、乱歩像との位置関係がよくわかりません。

 乱歩像は雨ざらしですから雨は避け、名張駅東口の切符売場前、屋根のあるところに関係者が勢揃いしたのがこの写真です。

 このエントリの写真が、多少の参考になるかもしれません。

 2013年4月28日:その後の乱歩像と実話読みもの

 乱歩像を正面から見あげる位置に陣取って、なにかを読みあげているのか、それとも歌っているのか、そういったシーンだと思われます。

 さらにきょうになって、こんなウェブニュースが報じられました。

 朝日新聞デジタル:怪人二十面相も祝う(2013年10月21日)
 毎日jp:江戸川乱歩:生誕祝う 二十面相の呼び掛けや歌--名張 /三重(2013年10月21日)

 まずなによりも、関係各位の労を多としておきましょう。

 しかし、こういうのは、ほんとに難しいと思います。

 先日、当ブログのコメントにも記しましたけど──

 2013年10月16日:『乱歩で散歩』銀座編・第5回 > 出世払いでいかがでしょうか(2013年10月19日)

 乱歩のことをなんにも知らない市民が、乱歩のことにまったく興味がない市民を対象に、さあ乱歩だ乱歩だと思いつきのご町内イベントをぶちかましてみてもですね、なに? いったいなに? なにがしたいの? ということになるのは当然の話で、なんだか漫才のネタにするのは気の毒な感じもいたしますけど、なんのなんの、なさけ容赦なく「伊賀百筆」第二十四号に登場していただくことになるはずです。

 つか、「伊賀百筆」の第二十三号、そろそろ出てもいいころなんですけど、まだ出ませんね。

 第二十三号をご予約いただいたかたには、発行されるや否や、as soon as でお送りする手はずになっておりますので、いましばらくお待ちいただきたいと思います。

 さて、乱歩蔵びらきの会が乱歩生誕百二十年を記念して発行するはずの『奇譚』、本日は第三章から Stevenson のくだりとなりますが、読んでいると乱歩の少年時代の読書を追体験しているような気分になり、乱歩は江見水蔭の「少年探検隊」を紹介して「身親シク一行中ニ在ル様ナ面白サヲ覚エタ」と書いてましたけど、それに似た面白さをおぼえる次第です。

(16)

CHAPTER 3.
STEVENSON, MARK TWAIN AND HAGGARD.

 STEVENSON = 春浪ノ冒険小説中怪奇ヲ主トスルモノニアル点ニ於テ似テ居ルノハ Stevenson デアル。Mark Twain ハ奇ノ点ニ於テ Stevenson ニ似通ツタ所ガアル。水蔭ノ蛮人ヲ主題トスル冒険小説ハアル点ニ於テ Haggard ノ冒険探検小説ニ似テ居ル。コノ理由ヲ以テコノ章ニ三人ヲ列ベルコトニシタノダ。Allan Poe ノアル方面ヲ享ケテ Robert Louis Stevenson ハ英国ニ現レタ。彼ノ作ハ殆ント知ラヌケレドモ一二批評シテ見ヤウ。
Treasure Island 押川春浪ガ訳シテ宝島ト名附ケタ。春浪ノ章ニモ記シタ通リ、探偵小説ヲ見ル様ナ不知ノ物凄サ、暗ヲ恐ルヽト同様ノ恐怖ノ豊富ナ小説、thrillig novel ト称シテ過不足ノナイ程度ノモノダ。船長ノ唄フ怪シノ欸乃。一本足ノ怪物ヲ予期スル船長ノ怪シイ恐怖。ナドハコノ著ノ最モ curious novel ノ理想ニ近イ所デアル。コノ著ヲ通シテ見タル Stevenson ニハ、Poe ノ深サハ無論ナク、Doyle

 「欸乃」は「あいだい」と読んで、日本国語大辞典によれば「舟の艫(ろ)のきしる音。また、船に棹(さお)さす時に掛ける声。転じて、船人のうたう歌。船頭歌。船歌。棹歌。あいない」。

(17)

ノ奇智モナク、Verne、Wells ノ科学的正確モナク、只 Haggard ト共ニ Twain ト共ニ curious ノ標準カラノミ論ズレバ比較的平凡タルヲ免レヌ。否ヤ Twain ノ精神的 Humour モ欠イテ居ルヤウダ。
New Arabian Night 春浪ガ新アラビヤンナイト称シテ著シタモノハコレニ suggestion ヲ得タニ止リ飜訳デハナイ。New Arabian night 中ニ Suicide club ト云フノガアルコレ丈ケハ読ンダコトガアルカラ多少批評ガ出来ル。奇行多キサル親王殿下ガロンドンニ来テ独リ微行スル事ヲ楽ンデ居ラルヽ中、フト Suicide club ト云フノニ連込マレタ。コノ club ハ世ノ中ノ厭ヤニナツタモノガ集ツテ、互ニ抽籤ニヨツテ殺シ合フト云フ妙ナ club デアツタ。奇ヲ好マルヽ殿下ハコレニ加ツテ籤ヲ抽カルヽト偶然ニモ今度殺サルヽ番ニ当ラレタ。ソレカラ臣下ノモノガ之ヲ知ツテ色々苦心スルナノドノ事ガアリ結目出度ク局ヲ結ンデアル。確カニ curious novel タルニ耻ナイ。実ニ何トモ形容ノ出来ヌ味ガアル。西洋ノ populer novel ハ凡テコノ種ノ奇ヲ交ヘテ居ル。我国ノ人々ガ講談ニ満足シ居ル内ハコンナモノヽ現レルマイ。奇デ思ヒ出シタガ西洋ノ populer edition, cheaper edition ナルモノハ Tolstoy ノ小説ノ表紙

 「Humour」は「Humor」で、頭文字を大文字にする必要はないと思われますが、とりあえず原文のまま。

 「新アラビヤンナイト称シテ」は、「ト」と「称」のあいだに「ト」が抜けているようです。

 「苦心スルナノドノ事」は「ナドノ」ではないかいな。

 「結目出度ク局ヲ結ンデアル」の最初の「結」は不要だとみえますが、まあ原文のまま。

(18)

ニスラ excitement ニ富ム奇怪ナ画ヲ現シテ居ル。コレヲ以テ想フニ外国人ハ余程日本人ニ比シテ奇ヲ好ムモノト見エル。奇怪小説ノ大家ガ出ヅルノモ無理ハナイ。今 Stevenson ノ重ナル著書ヲ上グレバ、

Tales and Pantasies
The Silverado Squatters
Prince Otto
Travels with a Donkey
An Inland Voyage
Memories and Portraits
Virginibus Puerisque
Familiar Studies of Men and Books
Across the Plains
The Merry Men
In the South Seas
Essays of Travel
Weir of Hermiston
The Art of Writing
Collected Poems
The Black Arrow
Catriona, A Sequel of "Kidnapped"

〔being memories of the further adventures of

 「Pantasies」は「Fantasies」だと思います。

(19)

David Balfour at home and abroad.〕

"Kidnapped"

〔being the adventures of David Balfour. How he was kidnapped and castaway; his sufferings in a desert isle; his journey in the West Highlands; his acquaintance with Alan Break Stewart and other notorious Highland jacobites; with all that he suffered at the Lands of his uncle. Ebenezer Balfour of shaws, falsely socalled; within by himself and now set forth by Robert L. Stevenson〕
一寸思ヒ出シタカラ附加ヘル。コノ "Kidnapped" ハ一度見タコトガアル然シスツカリ読マナカツタシ今ハ記憶シテ居ラヌガ、何ンデモ諷刺的滑稽小説ダツタト覚エテ居ル。お伽話ノ趣ガアツタ。

The Dynamiter
The Ebb-Tide. A Trio and Quartette

〔L. Osbourne ト共著〕

Island Night's Entertainments

〔Consisting of The Beach of Falesa, The Bottle Imp, The Isle of Voices〕

 お手あげです。

 作品のタイトルならまだなんとかなりますけど、本格的な英文となるととてもじゃないけど手に負えません。

 きれいな筆記体で書かれてはいますけど、それを書き写すとなるとそれなりの英語力が必要で、単語の切れ目すら判然としない場合があります。

 たとえば「notorious」ということばが出てきます。

 悪名高い、といった意味なんですけど、これは最初、どうながめても「hot or irons」としか判読できず、そりゃまあアイロンは熱いけど、とかばかなことを考えたりもしたものでしたっけ。

 義務教育終了程度の英語力を有しているかどうかもわれながら疑問ですので、どなたか英語に堪能なかた、Help me !

(20)

又思出シタ。コノ Bottle Imp ノ訳ヲ嘗ツテ読ンダ事ガアル。壜中ノ怪物トカ云ツタ。ソレヲ持ツモノニ禍ガアルノデ安ク安ク売リワケ様トスル。然シ一度ハコノ鬼ガ望ヲ叶ヘテ呉レルノデ、アル男ガ大金持ニナツタガ鬼ノ祟リデ愛スル女ニ嫌ハレル様ナ病ニ罹ルソコデ壜ヲ売ラウトスルガ前ニ買ツタヨリモ廉ク売ラネバナラヌノニ苦心ヲスルト云フ様ナ筋オ伽噺ヲ脱シテ怪奇小説ニ入ラントスル間ニアルモノヽ上乗ナルモノ。

The Master of Ballantrae
St. Ives, being the Adventures of a French Prisoner in England
Strange Case of Dr. Jekyll and Mr. Hyde
The Wrecker〔Osbourne 共著〕
Adventure in Hiveland
Virginibus puerisque


 本日は以上です。

 それから、きょうの乱歩のお誕生日、名張市ではこんなこともあったそうです。

 伊賀タウン情報:乱歩像前で呼び掛ける 赤い羽根共同募金(2013年10月21日)

 全国の乱歩ファンのみなさんは、しまいにゃしばき倒すぞおッ、とかいわないでくださいね。
Posted by 中 相作 - 2013.10.20,Sun

 雨だわ。


 寒いわ。

 へろへろだわ。

 へろへろになりつつ本日は『奇譚』第二章「春浪ト水蔭及ビ鴎村」、一挙公開でっせ奥さん。

(10)

CHAPTER 2.
春浪ト水蔭及ビ鴎村.

 江見水蔭ト桜井鴎村ハ春浪ト比較対照スベキ人々デアル。
 水蔭ノ著 = 水蔭ニハ二方面ガアリ、彼ノ真面目ハ明治文檀ニ名ヲナシタ文学的諸作デアルガ、彼ノ探検好キガ彼ヲシテ諸種ノ冒険小説探検小説ヲ著サシメタ。茲ニハ後者ニ属スル重ナルモノヲ上グル。(少年)探検隊 水蔭ニ親シンダ最初ノモノ。アル快男児ガ不時ノ富ヲ得テ、某山中ノ探検ノ為同志ヲ集メ数十人ノ人夫ヲ傭ツテ発足スル。途中人夫ノ謀叛ガアリ、ソノ主謀者ヲ懲ス為地獄ノ真似ヲスルナドノ挿話ガアリ。身親シク一行中ニ在ル様ナ面白サヲ覚エタ。コレモ確カ二度読ンダト思フ。雲かくれ 少年ノ頃時事新報ニ連載セラレタ。アラスカノ雪中ヲ舞台トスル人情的冒険談 Hiro ハ茫々乎タル力強ヨデアツタト記憶スル。渡辺審也ノ画ト共ニ記憶ニ刻マレテ居ル。海竜窟 海岸ノ洞穴探検。彼ノ得意ノモノダ。真実性ノ大ナル点ニ味ガアル。一々上ゲルヿハ出来ヌガ水蔭ノ小説ニハ洞窟又ハ地底ヲ主題トスルノガ多ク、彼ノ特色モ亦

 「文檀」とあるのは、「文壇」が正しい表記だと思います。

 「Hiro」はたぶん「Hero」のことでしょう。

 「力強ヨ」は、こうとしか読めないのですが、意味不明。

 ただし、日本国語大辞典には「ちから‐づよ【力強】」という項目が立てられていて、語釈は「力が強いこと。大力であること。また、その人」とありますから、とりあえず「ちからづよ」と読んでおきます。

(11)

其処ニアル。空中ノ人 plot ヲ主トスル普通小説トシテ極メテ面白イ。軽業仕ノ少年男女ガ雇主ノ虐待ニ耐ヘズシテ逃走スルノガ発端、千変万化ノ plot ヲ経テ遂ニ目出度シくデ終ツテ居ル。
牧丹族 水蔭ハ又野蛮人ノ小説ニ勝レテ居ル。洞穴ヤ野蛮人ガ好ンデ題目トセラルヽノハ皆彼ノ好古癖古器発掘癖ト一致スルモノデアル。
探検女王 コノ内ニ支那ノ秘密的ナ出来事ヲ問題トシタモノガアル。一人ガ露店デ一個ノ古イ支那文庫ヲ買ツテ開ケテ見ルト立所ニ蒼白ニナツテ死ンデ了フ。ソノ文庫ハ今迄ニ露人鮮人支那人等今死ンダ男ト合セテ五人ノ手ニ転々シタガ、ソノ函ヲ開イタモノハ皆立所ニ死ンデ了ツタ。コレハアル支那人ガ莫大ノ財産ヲアル場所ニ隠シテソノ場所ヲコノ文庫ノ中ニ示シテ置イタ。幸運ナ人ノ手ニ入ル様ト云フノデ五人目迄ハソレヲ開クト直グ死ヌ様ナ仕掛ニシテ置イタノデアツタ。六人目ノ幸運ナ男ガ開ケテ見ルト、アル高山ノ去ル池ニ行ツテコノ文庫ヲ投ズレバ隠シ場所ガ分ルト書イテアツタノデ、ソノ山ニ向フ。途中競争者ガ現レテ多少ノ破乱ガアル。水蔭ニハ珍ラシク plot ノ優レタモノデ curious novel ノ理想カラ云ヘバ諸作中㐧一

 「軽業仕」は「軽業師」のほうがいいように思います。

 「孤島の鬼」に出てくるのは、もちろん「少年軽業師」。

 「目出度シく」は「めでたしめでたし」。

 「く」はくの字点という踊り字の一種で、「く」というひらがなを縦二文字分に伸ばしたような記号のことですが、横組みの場合には使用しません。

 にもかかわらず使用してますから、なんか変。

 「破乱」は一般的には「波乱」または「波瀾」です。

(12)

位ニ推スベキモノデアル。支那ハ神秘ノ国デアルヨ。豪傑ノ子 生レ乍ラニシテ英雄ノ質ヲ有スル志士ノ子ガ都ニ出デヽ諸豪傑ト交ル。ソノ間ニ種々ノ波瀾ガアル。コレ又著者独特ノ境地。奇人怪人 豪傑ノ子ニ似テ今一層 plot ニ富ムモノ、去レドソノ plot タルヤ俗臭粉々タルモノデアル。其他 秘密世界、荒鷲ノ爪、二人女王、女船長、速射砲、大軍艦、突貫、武装ノ巻、海底ノ錨、大暗礁、海賊ノ子、火中ノ女、美人船、奇窟怪獄、大蛮勇、捕鯨船、飛ブ人、飛行ノ女、海賊大将、大正七変人、等俗ナガラ夫々ニ面白イ。
 鴎村ノ著 = 鴎村ハ殆ント知ラヌト云ツテモヨイ。多クノ中ニ彼ノ著ヲ読ンダヿモ再三アツタラウガ、彼ノ名ヲ記スル程感銘ノ深カツタモノハナイ。茲ニ彼ヲ上ゲル所以ノモノハ。彼ノ世界冒険譚ト云フ叢書ガ少年ノ間ニ春浪ノモノ同様持テ囃サルヽヲ知ルガ為デアル。コノ世界冒険譚ハ皆各国冒険談ノ飜訳デ、ソレ丈ケ面白イ筈デアル。上グレバ、
金掘リ少年(米 ブルークス)遠征奇談及続 二勇少年 決志少年 漂流少年、殖民少年、

 「俗臭粉々」はふつうは「俗臭芬々」と書きます。

 「奇窟怪獄」は正しくは「奇窟怪岳」。

(13)

初航海(英 M. リード)、不撓少年、朽木ノ舟、侠勇少年、絶島奇談。
コノ内一ツモ読ンダ事ガナイ。折ガアツタラ読マウト思フ。春浪ト鴎村ノ対照ハ少年及書店ガ同一型ノ人ト見做セル一事ヲ上グルノ外ニナイ。
 春浪ト水蔭 = 一般文学ノ上ヨリ云ヘバ春浪ハ一片ノ形而下的冒険小説家ナルニ反シテ、水蔭ハソノ本拠ヲ所謂文学ノ境ニ置キ、紅葉露伴ト伍シテ硯友社ノ錚々デアル。彼ノ探検小説ハ云ハヾ内職ニ過ギナイ、道楽ニ過ギナイ。コノ両者ヲ同日ニ論ズルノハ甚ダ当ラザルニ似ル。然シ飜ツテ思フニ、水蔭ト虽モ今日ノ文学眼ヨリ見レバ春浪ト相去ルヿ左程遠キモノトハ云ヘナイ。只大甘物ケレン物ノ持テ囃サレタ明治文檀一時ノ風潮ニ乗ツテ名ヲナシタノデ、ソノ作タル凡テ伝奇小説ニ過ギヌ。ソレ計リデナク、水蔭ガ好古狂デアルヿハ春浪ノ武侠狂ト差シタル兄弟ヲ見ヌ程デ、彼ハ古代ノ石器土器ノ発掘、古代人種ノ遺跡ノ探検ヲ唯一ノ道楽トシテ居ル。彼ノ探検小説ハコヽカラ出ル、而シテ彼ハコノ方面ニ於テモ立派ニ一境地ヲ開イテ居ル。カヽル水蔭ト春浪トヲ比較スルノハアナガチ間違ツタ事デハナイデアラウ。

 「虽モ」は「雖モ」でいいのかも、とも思いますけど、原文のままとしました。

 「文檀」は前におなじ。

 「兄弟」は、もしかしたら「径庭」か。

(14)

○春浪ハ朴ニシテ野愛スベキ好漢、水蔭ノ茶気ヲ欠クト虽モ、直往邁進ノ熱度ニ於テ勝ル
○水蔭ノ小説ハ局部ノ挿話ニ富ミ、全体ノ plot ニ貧シ。春浪ノ小説ハ両者兼ネ具フルモ前者ノ妙ハ遠ク水蔭ニ及バズ。
○水蔭ノ文ハ長江ノ流ルヽガ如ク春浪ノ文ハ大海ノ怒号スルガ如シ。前者ハ流暢ナレドモ常規ニ跼蹐シ、後者ハ流暢ナラザルモ文勢常規ヲ脱シテ奔放前者ヲ凌グ。
○水蔭ノ小説ハ探検女王中ノ支那文庫ノ一篇ヲ除キテハ curious novel ノ理想ニ及バザルヿ遠シ。春浪ノ小説ハコノ点ニ於テ水蔭ニ勝ル大也ト虽モ而モ遠キ事尚五十歩百歩ナルノミ。
○水蔭ノ文堕スレバ渡辺黙禅ニ劣リ、春浪ノ文誤レバ幼児ノ空想ニ堕ス。
○春浪ハ武侠的冒険小説ヲ生命トス。サレバ曩ニ冒険世界ノ出ヅルヤ聘セラレテ主筆トナリ、後博文館ヲ出デヽハ武侠世界ヲ起シテ自カラ社長兼主筆タリ。水蔭ハ探検小説ニ優レタリ。サレバ一時探検世界ガ冒険

 「曩」は「さき」と読んで、先、という意味。

 あとに出てくる「後」とタッグを組んで、対句みたいなことになってます。

(15)

世界ト対抗競争セントセシ際主筆ノ名ヲ貸シタリ。

 以上、『奇譚』第二章でした。

 それにしても、ほんま、へろへろでっせ奥さん。
Posted by 中 相作 - 2013.10.19,Sat

 『探偵小説四十年』を相対化する乱歩作品といえば、なんといっても昭和11年から翌年にかけて執筆されながら中絶に終わった「彼」であろう、ということに最近になって気がつきました。


 「彼」と並べてながめてみた場合、『探偵小説四十年』に秘められた戦略性というか、たくらみというか、そういったものがまことに鮮やかに際立ってくるように思われます。

 両者の違いをひとことでいってしまえば、「彼」は平井太郎という個人の自伝であり、『探偵小説四十年』は江戸川乱歩という探偵作家の、あるいは探偵小説の第一人者の自伝である、ということになるでしょう。

 「彼」は乱歩が試みた自己分析の生真面目な報告ですが、昭和11年にどうして乱歩が自伝というかたちで自己に向き合おうとしたのか、というと、年齢的に四十歳を過ぎて、いわゆるミッドライフ、通俗心理学でいうところの中年期の危機に直面していたから、ということになるのではないかと思われます。

 昭和11年は二・二六事件の年であり、乱歩は自由主義、個人主義が没落し、唯美主義なんてものは消えてなくなるだろうと予感していましたし、個人的にも「意気あがらず」、精神的に不安定な年でした。

 ぼんやりした不安をおぼえて乱歩が自己分析にのめり込んでいったとしても、それは無理からぬところではなかったか。

 「彼」は「人は生涯のある時期に一度は、その祖先に興味を持つものである」という印象的な文章ではじまりますが、乱歩が祖先に興味をもったということは、要するに自分に興味をもったということでしょう。

 自己を分析するために、つまりは自分がだれであるかを知るために、乱歩は家系図をたどることを試み、それから遺伝についても考えました。

 乱歩は「性格解剖」と呼んでいますが、自分はこういう性格で、父母や祖父母からはこういった性格を受け継いでいて、みたいなことをくわしく解剖し、そのあと幼年期の記憶をつぶさにたどってゆくものの、結局は自己分析の息苦しさに耐えられず、それを公表することの恥ずかしさも手伝って、「彼」は中絶されるに至ってしまいました。

 それから十二年ほどが経過して、乱歩はふたたび自伝の筆をとることになりますが、連載をはじめるにあたって、まるで「彼」の轍だけは二度と踏まねーぞと固く決意していたかのごとく、分析や解剖にはまるで見向きもせず、探偵小説の第一人者としての人生を自伝に再構成するための筆を進めました。

 といった感じで「彼」と対比することによって、『探偵小説四十年』という自伝に隠されていた意味がより鮮明になるのではないかと思われるのですが、私家版無料電子書籍『涙香、「新青年」、乱歩』を書いたときにはまったく気がつきもしなかったのを遺憾といたします。

 それから、「彼」についてごく最近、ふと思いついたことがあったのでここに記しておきたいと思いますが、乱歩の精神状態が自伝という名の分析や解剖を必要としていたらしい昭和11年、「彼」を執筆する直接的な火種になったのは木々高太郎の『人生の阿呆』ではなかったでしょうか。

 創元推理文庫の日本探偵小説全集『木々高太郎集』収載の年譜によれば、『人生の阿呆』は昭和11年の7月に版画荘から刊行されています。

 この本には序文としてはやや長めの「自序」が収められていて、創元推理文庫版『人生の阿呆』でも読むことができますが、というか、私はその文庫版しか読んでないのですが、というか、1988年に刊行されたのをすぐ購入しときながら今年の夏まで読まないまま放ってあったわけなんですが、読んでみるとこの「自序」、三人称の自伝と読めなくもありません。

 最初のほうから引いてみますと──

 彼は、日本の下層階級の、普通の家に生れた。そして、彼の場合には、実際は曾祖母なのであったが、一切の条件が、ほかの家での祖母に相当したから、彼も亦、祖母と考えていた、その祖母に、甘やかされて育った、平凡な、田舎生れの子であった。
 祖母に育てられた長男は、やくざである、意気地なしである、とは一般に言われていることであるし、全くその通りであった。彼も亦、やくざにせられ、蔭では、馬鹿だの意気地なしだのと言われて、大きくなった。少年時代は、両親、親族一同が、彼の文学への僅かな芽生えを、憎悪し、嫌忌し、悉く摘み去ろうとした。而も、それは可なり苛酷に。

 乱歩がこの「自序」を読み、そこに自分の似姿を発見して、みずからも三人称による自伝を書こうと決意して「ぷろふいる」の昭和11年12月号で連載を開始した、ということだったとしても不思議ではないと思うんですけど、さていったい、どんなもんですか。

 つづいて、やはり私家版無料電子書籍『涙香、「新青年」、乱歩』を書いたときには頭の片隅にもなかった『奇譚』の件。

 やだ。

 なんか、とまんなくなっちゃった。

 本日は六ページ目から。

(6)

興味ノ中心トナル。菊池幽芳訳ニナル秘中ノ秘ト何所カ似通ツタ所ガアル。序ダカラコノ秘中ノ秘ニ付テ一言シヤウ。コレハ小学時代大阪毎日ニ連載サレタモノデ、ソノ頃母カラ話シテ貰ツテ大変興味ヲ感ジ、更ラニ学校ノ談話会デ自カラ話シタモノデアル。最モ早ク僕ノ Curiosity ヲソソツタモノヽ一ツハ確カニ是デアル。海上ニ函ノ様ナモノガ漂フ不審シサ、船室ノ狂人、狂人ニ秘密ヲ語ラセントスル苦心、宝ノ所在ノ暗号文書、探索ノ競争、悪人ノ妨害。凡テガ探偵小説ノ奇怪性ヲ具ヘテ居ル。僕ノ幼イ好奇心ハ是ニヨツテ如何ニ教育セラレタデアラウ。其他春浪ノコノ種ノ作品ニハ、怪星奇星、人外魔境、水底怪火、海上ノ秘密、怪風一陣、怪人ノ奇譚、魔島ノ奇跡、ヘーグ奇快塔、奇人ノ旅行、千年後ノ世界、等ガアル、皆夫々ニ面白イ。
  = 立身膝栗毛 唯一ノ純人情小説。飜訳デアル。少年ノ憧レ易イ恋心トソノ病的ナ発作ヲ主題トシタ。少年ノ僕ノ Romantic ナ性格ガ是ニ共鳴スル所ガ多カツタ。二度読ンダ程 attractive ニ感ジタ。

 「不審」にはごくごく小さな字でルビが添えられているのですが、たぶん「イブカ」だと思います。

 「ヘーグ奇快塔」は、正しくは「ヘーグ奇怪塔」。

(7)

ホシナ大探偵 唯一ツノ純探偵小説。序文ニ Holmes ノ訳ダトアルガ、僕ノ読ンダ Doyle ノ作中未ダコレヲ見出サヌ。殺人犯ヲ隠ス為ニ二重底ノ棺桶ヲ作ルノガソノ最モ面白イ所デアル。書物ニハナツテ居ラヌ様ダガ春浪ハ嘗ツテ Doyle ノ The Adventure of a Scandal in Bohemia ヲ何トカ云フ題デ訳シテ武侠世界ニ出シテ居ツタ事モアル。
 総評 = 貧弱ナル日本ノ伝奇小説界ニ於テ兎モ角モ春浪ハ第一人者デアル。彼ハ明治ノ馬琴デアルト共ニ、日本ノ Stevenson デアリ Verne デアリ Haggard デアツタ。只恨ムベキハ彼ノ想ノ秀デタルニ比シテ彼ノ文ノ貧弱デアツタ事ダ。彼ニ紅葉露伴ノ筆ヲ貸シタナラバ必ズ東洋ノ伝奇小説家トシテ世界ノ文豪ニ比肩シ得タデアラウモノオ。惜シムラクバ文ニ劣リ部分々々ノ行文ニ浅薄デアツタノデ。コノ書中ノ curious novel 中最モ低キ部分ニ位セシメネバナラナカツタ。
彼ノ小説ノ奇ハ又上層ノ奇タルヲ免レヌ。精神的ニハ武侠的タル外ニ何等ノ加フベキモノガナイ。彼ノ小説ニハ常ニ勇気アル快男児ガ出ル、所謂花ノ如キ令嬢ガ出ル美人ガ出ル。ソシテ

 「モノオ」は「モノヲ」と記すべきでしょう。

(8)

貪慾 Jew ノ如キ男ガ出ル。コヽニ多少、千篇一律ノ嫌ガナイデモナイ。
然シ彼ノ influence ノ偉大ナルハ、僕ト同時代ノ少年ニシテ彼ヲ一時ナリトモ崇拝シナカツタモノハナイ。僕等ハ小波ノオ伽話カラ春浪ノ冒険小説ニ移リ然ル後銘々ノ方向ニ進ンダ。
彼ハ晩年甚ダ振ハナカツタ。早稲田大学ヲ出テ海底軍艦ヲ書キ武侠ノ日本ヲ書イタ頃ノ元気ハナク創作モ亦見ルベキモノガナイ。之一ニ飲酒ノ罪デアル。彼ハ酒ノ為ニ進ムベカリシ頭脳ヲ害シ、酒ノ為ニ逝タ。惜シムベキ事デアル。
彼ヨリ今少シク稚気ヲ奪ヒ与フルニ精神的神秘ヲ以テシタナラバ、サゾ立派ナ作ガ出来タデアラウト適当ナ後継者ノナイ丈ケ更ニ惜シイ気ガスル。
春浪ノ持テ囃サルヽヲ見テ輩出シタル彼ノ亜流ハ誠ニ少クナイ羽化遷史ナド云フ名ガ残ツテ居ル近頃ノ少年雑誌ノ記者ハ凡テ冒険小説ヲ書ク。日本少年ノ素水芳水ナドガアル。又武士道文庫ト云フモノガ大阪カラ出サレテソノ内ニモ春浪流ノモノガ少クナイ。芳水思水等ニ執筆セラルヽ痛快小説文庫ナルモノモアル。ガ凡テコレラハ齢スルニ足ラヌモノダ。只方面ハ違フガ故河岡潮風ハヨキ後継者タル

 もう一ページだけ。

(9)

素質ヲ有シテ居ツタ。惜ム可シ五々ノ春ヲ著シテ間モナク若クシテ逝タ。

 これで第一章「押川春浪」はおしまいです。
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