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朝日新聞デジタル
平成24・2012年5月11日 朝日新聞社
幻想の推理作家 渡辺啓助
高山美香
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2012年05月11日
■弟の分まで? 精力的に
前回は作家の渡辺温(おん)を紹介しましたが、今回登場するのは温の兄の渡辺啓助。モダンで退廃的な作風から「薔薇と悪魔の詩人」と評されたこともある推理作家です。
父の転勤で、生後間もなく道南の谷好村(現北斗市)にやって来た啓助は、鉄瓶の熱湯をかぶり大やけどを負います。頭や顔に傷痕が残ってしまいましたが、気丈な性格の啓助は元気に育ち、また1歳年下の温をかわいがり双子のように行動を共にしました。
東京、茨城と転居し、雑誌「新青年」の編集に携わっていた温に頼まれ、啓助は俳優のゴーストライターとして短編「偽眼のマドンナ」を執筆。これがデビュー作となります。翌年、温が突然の事故で亡くなると、啓助は教員の仕事をしながら、まるで弟がのり移ったかのように同誌に探偵小説を次々と発表し、30代半ばから作家活動に専念。独特の幻想的世界は江戸川乱歩にも評価され、直木賞候補にも3期連続で選ばれました。
人間の心の闇を鋭くついた作品が得意でしたが、そこには子供時代の傷に苦悩した体験が下地としてあったのかもしれません。そして、推理小説のみならず歴史ミステリーやSF、さらには絵画や詩作と活動の幅を広げ、90歳を過ぎても創作を続けました。
101歳で死去。27歳で早世した弟の分まで精力的に生きたといえる生涯でした。
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渡辺啓助(1901~2002)。秋田県生まれ、幼少期を北海道で暮らす。戦前、雑誌「新青年」に探偵小説を発表し戦後は怪奇小説やSFなどでも活躍。日本探偵作家クラブ会長も務めた。著作に「偽眼のマドンナ」「聖悪魔」「ネメクモア」など。
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