書籍
江戸川乱歩作品論 一人二役の世界
宮本和歌子
平成24・2012年3月28日初版第一刷 和泉書院 和泉選書172
B6判 カバー 225ページ 本体3000円
江戸川乱歩研究の新たなる地平
紀田順一郎
はじめに
第一章 『ぺてん師と空気男』論
一、『ぺてん師と空気男』に対する評価
二、The Compleat Practical Jokerと『ぺてん師と空気男』
三、探偵小説と落語
四、乱歩のジョーカー精神
五、Jokerと一人二役
六、『ぺてん師と空気男』論まとめ
第二章 「猟奇の果」論
一、「猟奇の果」について
二、宇野浩二「二人の青木愛三郎」と「猟奇の果」
三、村松梢風「談話売買処から買つた話」
四、「談話売買処から買つた話」と「猟奇の果」
五、「人間改造術」の着想
六、乱歩文学における「猟奇の果」の位置
第三章 「二人の探偵小説家」論
一、「二人の探偵小説家」について
二、名前の交換とアイデンティティーの融合
三、空気男の誕生
四、乱歩文学における「二人の探偵小説家」
第四章 「闇に蠢く」論
一、「闇に蠢く」執筆の事情
二、野崎三郎と籾山ホテル主人、えびす神
三、食人というテーマ
四、「闇に蠢く」の連載中絶
五、「闇に蠢く」論まとめ
第五章 「人でなしの恋」論
一、「人でなしの恋」のテーマ
二、門野の人物像と人形の描写
三、人形と京子
四、「人でなし」の恋
おわりに
〔注〕
参考文献目録
あとがき
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はじめに
本書では、日本における推理・探偵小説の隆盛の礎を築いたとして知られている江戸川乱歩(1984. 10. 21~1965. 7. 28)について取り上げる。まず、彼の諸作品の成立に際して、影響を及ぼした材源を明確にする。それらを基に、一人二役関係にある人物の解明を主な目的として作品の新たな考証、解釈を行い、探偵小説に対する彼の理念を解明することを目指す。
明治二七年、西暦一八九四年に誕生した彼は、大正末期に作家デビューを果たし、初期には短篇を多く発表した。昭和初期に、「蜘蛛男」(昭和四年八月~昭和五年六月『講談倶楽部』)を連載して以降は、通俗長編と呼ばれる作品を次々と雑誌に連載し、幅広い読者層を獲得した。デビュー作である「二銭銅貨」(大正一二年四月『新青年』)や、「二廃人」(大正一三年六月『新青年』)、「心理試験」(大正一四年二月『新青年』)は、「コナン・ドイルの最も立派な作品よりも、更に勝れたもの」(木々高太郎「江戸川乱歩論」、昭和一〇年五月『探偵文学』)と、乱歩と同時期に活動した探偵小説家からも、高く評価された。その評価は、「日本人作家による初めての本格ミステリーの出現と評判を呼び、以後乱歩は第一人者として日本のミステリー界をリードしていくことになる。」(藤井淑禎「二、うつし世はゆめ デビュー、黄金時代、戦時下の発禁」、平成二一年一〇月、神奈川近代文学館『大乱歩展』図録)、「一人の作家のデビューとともに、創作探偵小説の始まりが演出されたのである。」(浜田雄介「子不語の夢 七年の軌跡」、浜田雄介編『子不語の夢 江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集』平成一六年一〇月 皓星社)と、現在でも変わっていない。
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