書籍
戦時下の青春 コレクション戦争と文学15
中井英夫他
平成24・2012年3月10日第一刷 集英社
B6判 カバー 727ページ 月報12ページ 本体3600円
関連箇所
防空壕
江戸川乱歩
初出:文芸 昭和30年7月号(第12巻第9号)
Ⅰ> p148-169
解説 銃後の苦界
浅田次郎
p681-692
著者紹介
p693-699
収録作品について
p700-706
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防空壕
江戸川乱歩
市川清一の話
君、眠いかい? え、眠れない? 僕も眠れないのだ。話をしようか。いま妙な話がしたくなった。
今夜、僕らは平和論をやったね。むろんそれは正しいことだ。誰も異存はない。きまりきったことだ。ところがね、僕は生涯の最上の生きがいを感じたのは、戦争の最中だった。いや、みんなが言っているあの意味とはちがうんだ。国を賭して戦っている生きがいという、あれとはちがうんだ。もっと不健全な、反社会的な生きがいなんだよ。
それは戦争の末期、今にも国が亡びそうになっていた時だ。空襲が烈しくなって、東京が焼け野原になる直前の、あの阿鼻叫喚の最中なんだ……君だから話すんだよ。戦争中にこんなことを言ったら、殺されただろうし、今だって、多くの人にヒンシュクされるにきまっている。
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解説 銃後の苦界
浅田次郎
毛沢東は一九三八年に発表した「持久戦論」でこう述べている。
武器は戦争の重要な要素ではあるが、決定的な要素ではなく、決定的な要素は物ではなくて人間である。力の対比は軍事力および経済力の対比であるばかりでなく、人力および人心の対比でもある。軍事力と経済力は人間が握るものである。
「持久戦論」は日中戦争の初期の段階において、驚くほどすみやかに明晰に、抗日戦の理論的根拠を示した「人民戦争論」であった。
この部分だけを読めば、多くの人は毛沢東の言葉とは思わず、日本政府の見解か当時の言論人が書いた文章だと考えるであろう。数年後の日本はまったく同様の理論を掲げて、対米英戦に突入したからである。
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