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平成24・2012年1月23日 東京新聞(中日新聞東京本社)
人間像を映す万年筆原稿
桐山桂一
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【私説・論説室から】
2012年1月23日
横浜市にある県立神奈川近代文学館で、来月二十六日まで「作家と万年筆展」が開かれている。
夏目漱石、江戸川乱歩、吉川英治、池波正太郎、井上靖…。作家たちがどんな万年筆を愛用していたか、どんな筆跡だったか。自筆原稿と一緒に眺めてみるのも、興味深いものだ。
開催直前に漱石の万年筆を見せてもらったが、英国製のオノトを愛用していたようだ。明治期の評論家・小説家であった内田魯庵から贈られたと、漱石自ら「余と万年筆」の中で書き残している。
「酒呑(さけのみ)が酒を解する如(ごと)く、筆を執る人が万年筆を解しなければ済まない時期が来るのはもう遠い事ではなからうと思ふ」と書いた漱石だが、確かに長く万年筆は原稿用紙に名作を刻む大切な道具であった。
井上靖はモンブランが好きだったようだ。よく観察してみると、胴軸部分にあるインク窓部に絆創膏(ばんそうこう)が貼ってある。よほど使い込んだものだろう。
むろん小説家の世界でも万年筆時代はとうに盛りを過ぎた。現代作家の多くは、キーボードを叩(たた)くのが一般的な執筆スタイルだ。
ただし、今なお万年筆にこだわりを持つ作家もいる。同文学館によると、浅田次郎氏や伊集院静氏、北方謙三氏、出久根達郎氏らは万年筆派だそうだ。
筆跡には人柄が表れるという。自筆原稿から浮かぶ人間像を探るのも楽しみの一つだろう。 (桐山桂一)
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