書籍
乱歩彷徨
紀田順一郎
平成23・2011年11月3日初版 春風社
B6判 カバー 266ページ 本体1905円
第Ⅰ部 乱歩低迷
1 深夜の瞑想
2 「探偵小説」の曲がり角
3 「眼高手低」の自覚
4 新時代の探偵小説を開拓
5 エログロ・ナンセンス時代の旗手へ
6 二重世界願望と郷愁と
7 休筆宣言と放浪
8 低迷の上に弾圧
9 本格探偵小説の復活を信じて
10 評論集の隠された意図
11 第一人者の再生演出
12 再コード化への道
第Ⅱ部 乱歩彷徨
1 少年雑誌という舞台
2 『怪人二十面相』における心理洞察
3 『怪人二十面相』の読者像
4 休載の謎をめぐって
5 『怪人二十面相』の基調変化
6 「誘拐」という記号
7 乱歩作品の異質性
8 なぜ「少年倶楽部」に起用されたか
9 二十面相はいかにして教育的となったか
10 「国民精神総動員」下の探偵もの
第Ⅲ部 乱歩変容
1 「じつにおどろくべき変化」
2 戦中体制への「協力」
3 追い詰められた戦争末期
4 劇的な性格変化とその意味
5 少年ものと旧作再録
6 再起への苦闘
7 推理小説界の振興に向けて
8 戦後も持続した「社会活動」
9 第二の創作『幻影城』
10 全集という名の評価
11 松本清張という名のライバル
12 乱歩は清張をどう評価したか
13 清張は乱歩をどう評価したか
14 乱歩復活と幻想怪奇ブームの実態
15 激動の時代をこえて殿堂入り
第Ⅳ部 乱歩復活
1 《創造者》の自覚
2 「私を怖わがらせた批評家」
3 「文芸球場」の「ピンチ・バッタア」
4 「一本の藁」と「新しき神」
5 居心地のよくない「大衆文学」
6 《もう一つの可能性》を夢見て
7 「エログロ」からの距離
8 精神分析と同性愛への関心
9 《第二の創作》への情熱
10 『幻影城』、自己回復と再生の企て
11 『探偵小説四十年』の隠された意味
12 ライバル松本清張と《一人の芭蕉》
あとがき
参考文献
乱歩主要作品一覧
乱歩略年譜
…………………………………………………………………………………
第Ⅰ部 乱歩低迷
1 深夜の瞑想
日本の近代的な推理小説の礎を据えた江戸川乱歩は、生涯に約百三十篇の作品、十数冊の随筆、回想を残したが、多くの作家同様、海外の作家から大きな影響を被っている。
では、乱歩はどのような作家を最高の存在と考えていたのだろうか。私は、彼自身による次の感想が、一つの明快な回答になっていると思う。
「深夜、純粋な気持になって、探偵小説史上最も優れた作家は誰かと考えて見ると、私にはポーとチェスタートンの姿が浮かんでくる。この二人の作品が、あらゆる作家と作品を超えて、最高のものと感じられるのである。この二人のほかの作家はいずれも、どこかに不満がある。突飛なことを書いても根底が平俗であるか、気取っていても薄っぺらであるか、滋味はあっても廉っぽいか、文学的に優れていても探偵小説味が稀薄であるか、なにかしら満足しないものがある」(光文社版『江戸川乱歩全集』第三十巻)
私にとって、乱歩のこの文章はきわめて印象的なものだった。高校三年の一九五三年(昭和二十八)夏、「別冊宝石」中の『世界探偵小説全集』(ビーストン篇・チェスタートン篇)に付された解題として一読したもので、乱歩自らもよほど気に入ったらしく、後に同じフレーズを何度も繰り返している(翌年の「ハヤカワ・ポケットミステリ」版『木曜日の男』と、四年後の『海外探偵小説作家と作品』のチェスタートンの項など)。
…………………………………………………………………………………
▼春風社:乱歩彷徨-なぜ読み継がれるのか
Powered by "Samurai Factory"