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平成23・2011年12月23日 東京新聞(中日新聞東京本社)
三重(3)ミステリーの巨匠江戸川乱歩 生地名張に強い思い
朽木直文
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【TOKYO―首都圏―のわがふるさと】
2011年12月23日
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応接間の乱歩の肖像画と孫の平井憲太郎さん=豊島区の旧江戸川乱歩邸で
ある年齢以上の世代で「少年探偵団」や「怪人二十面相」を知らない人はいないだろう。その作者で推理小説の巨匠、江戸川乱歩は現在の三重県名張市の生まれである。父の転勤で生後間もなく転居したが、後年に訪れ、「ふるさと発見記」の随筆を残している。
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豊島区西池袋の立教大学キャンパスに隣接するように、古風な土蔵を持つ洋館がある。旧江戸川乱歩邸。現在、敷地、建物とも同大学の所有となり、同大の「大衆文化研究センター」施設となっている。
この地に乱歩は1934年に移った。それまでは転居が多く、生涯で47軒目の住まいだった。乱歩は70歳で亡くなるまで31年間暮らした。
乱歩の孫で出版社社長の平井憲太郎さん(61)は乱歩が気に入った理由の一つが、2階建ての土蔵だったという。濡(ぬ)れ羽色の独特な外観。書斎兼書庫として用いた。
建物は復元改修され、ほぼ乱歩が生活した晩年の雰囲気を残している。憲太郎さんは、洋館応接間で、原稿の受け取りなどに来た出版社の編集者らが待っている姿を覚えている。
立教大学とは不思議な縁がある。乱歩の一人息子で心理学者の平井隆太郎さん(90)は、長く同大で教え、現在は名誉教授である。
2002年の土地・建物の譲渡に当たっては、乱歩自筆原稿や書簡、約2万5000冊の蔵書とともに移管された。井原西鶴の「好色一代男」などの貴重な和書も多く含まれている。
憲太郎さんは「祖父は性格的には冷静で理詰め。蔵書などもきちんと整理していた。お世話になった人の選挙応援に出掛けるなど、郷里への思いも強かった」と言う。
同センターの研究員、落合教幸さん(38)は「乱歩の大きな功績は、欧米のものとみられていたミステリーを、日本の風土を取り入れた探偵小説として作り上げたこと、また、江戸川乱歩賞の創設など、日本の推理小説の基盤を築き上げたことだと思う」と話す。
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生誕の名張市には、生家跡地そばの広場に、「江戸川乱歩生誕地」の碑が立っている。また、同市立図書館には、江戸川乱歩コーナーが設けられ、乱歩の著書や色紙、原稿などが展示されている。
同市教育委員会文化生涯学習室の門田了三さん(57)は「市は怪人二十面相に特別住民票を出している。乱歩に関するイベントも随時開いており、若い世代を含め、乱歩作品を身近に感じてもらえれば」と話す。 (編集委員・朽木直文)
<江戸川乱歩(えどがわ・らんぽ)> 1894~1965。本名・平井太郎。幼少から名古屋で育ち、早稲田大学政治経済学部卒業。さまざまな職業を経て23年「二銭銅貨」でデビュー。47年探偵作家クラブを結成し、初代会長に就任。54年江戸川乱歩賞制定。日本推理作家協会理事長なども務めた。
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<旧江戸川乱歩邸> 豊島区西池袋3の34の1、立教大学江戸川乱歩記念大衆文化研究センター。センターの開室日は原則月・水・金曜。乱歩邸の公開は金曜のみ。資料閲覧は要予約。(電)03・3985・4641。
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