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平成23・2011年11月24日 朝日新聞社
育て!新人賞作家 出版社の戦略、あの手この手
中村真理子
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2011年11月24日10時41分
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今年の江戸川乱歩賞贈呈式。女性2人の受賞者を選考委員が囲む
作家になる大きな一歩は新人賞の受賞。全国の公募の新人賞は100を超え、毎年大量の新人作家が生まれている。しかし、専業作家として食べていける人は、ひと握り。デビューより、作家であり続ける方が難しい。息の長い作家は、どうしたら生まれるのか。
「昨日の会議でさあ、新人賞の歩留(ぶどま)りの話が出たんだ」。「新人賞の歩留り?」と尋ねる後輩に伝説の編集者は答える。「うちの新人賞でデビューした作家のうち、何パーセントが会社を儲(もう)けさせる作家に成長したかってことだ」
「小説すばる」11月号に掲載された、東野圭吾の「戦略」は新人作家を売り出すため、編集者があれこれ作戦を立てるユーモラスな短編だ。小説の題材になるくらい、新人賞の「その後」は、作家にも出版社にも課題なのだ。
■勢い続かぬ次作
受賞作なしだった今年の「ミステリーズ!新人賞」(東京創元社)では、貫井徳郎選考委員が選考経過の報告で「ミステリーが好きというより、どの賞でもいいから小説家になりたいという人が多いような印象だった」と語った。「殺人事件が解決したらミステリー? 違います。伏線がないのに『犯人はあなたです』というのもミステリーの作法がわかっていない」
10件ほどの新人賞で選考に携わる文芸評論家の池上冬樹さんも「1本なら偶然、良い作品が書けることもある。しかし、次作で編集者に書き直しを命じられると壁にぶつかったり、また別の賞に応募したり、さまよう人が多い」と言う。
■2年かけ見極め
息の長い作家を育てるため、賞とは別の形で新しい才能を見つけられないか。そんな思いから「別冊文芸春秋」(文芸春秋)は「新人発掘プロジェクト」を始めた。「これぞと思った方には最長2年間、担当編集がつきます」が売りだ。賞金はない。
「2年」は書き直し前提だから。1人2編まで応募できるのも数を書ける「体力」を見たいとの理由だ。「応募作の欠点をつくより、新人とじっくりつきあって才能をすくい上げたい」と吉田尚子編集長。
こうした試みは、かつてあった原稿持ち込み方式に近い。1990年代半ばにできた「メフィスト賞」(講談社)も、編集者が原稿を読み、面白かったら本にするという持ち込み方式のような新人賞。00年代に辻村深月、西尾維新ら人気作家を出している。
■小説講座で特訓
作家の底力をつけさせようと、デビュー前からつきあう動きはほかにもある。「小説野性時代」(角川書店)は7月号から、大沢在昌が講師を務める「誌上小説講座」を始めた。「書きたい人はたくさんいる。しかし、書き方はなかなか教えてもらえない」と三宅信哉編集長。応募原稿から生徒12人を選び、毎月、小説の書き方を学ぶ。大沢さんは「優れた受賞第一作をすばやく出せなければ、生き残ることは難しいでしょう」と生徒に説く。
今年の小説現代長編新人賞(講談社)を受賞した山形県の吉村龍一さんは、小説講座育ちだ。97年にできた「小説家(ライター)になろう講座」に10年前から通い、今は代表を務める。
吉村さんは講座で「毎日書くことの大切さ」を学んだという。自信満々で提出してもめった斬りにあう。先にデビューされて悔しがったり、励まされたり。「ひとりだと続かなかったかもしれない。講師の作家や編集者に読まれて自分のレベルがわかり、刺激にもなった」。この講座からは4人がデビューし、プロとして書き続けている。「開花時期は人によって違う。しっかりと根を作ることが必要です」と講師兼世話役の池上さんは話す。
作家志望者が足腰を鍛える小説講座は、丹羽文雄の「文学者」や、富士正晴、島尾敏雄らの「VIKING」など、かつての同人雑誌が果たしていた機能と似ている。切磋琢磨(せっさたくま)が底力をつける。今も昔も変わらないのだろう。(中村真理子)
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