サンデー先生の人生ぼやき講座だ。
名張市はどうよ、というメールでのご質問にお答えしてきたが、要するに、どうもこうもありゃせん、ということになる。
乱歩の生誕地だから、という理由で、気にかけていただき、期待してくださっている向きには、まことに申しわけない話ではあるけれど、名張市になにかを期待していただいても、いっさい無駄だと思う。
さんざん述べてきたとおり、乱歩にかんしてなにをやらせても、ハコモノ崇拝主義とイベント尊重思想のあいだで右往左往するばかり、まともなことはなんにもできない。
これまでもそうであったごとく、これからもそうであろう。
名張市なんてのは、しょせん、その程度の土地なのよ。
ところで、乱歩の生誕地である名張市に、乱歩のことで期待してくれるひとが存在しているのは、いったいどうしてなのか、というと、やっぱ、名張市がかつて、ひとたびは、まともなことをやったからであろうな。
つまり、名張市立図書館の江戸川乱歩リファレンスブックのことだ。
ああいうまともなこと、世間に通用すること、乱歩のファンや研究者に喜んでもらったり、重宝してもらったり、そういうことがちゃんとできる名張市、という誤解がひろまってしまったのだが、しかしいまでは、実際はひどいものだ、みたいなことがかなりばれてしまって、いやはや、すっかり笑いものじゃよ。
だから、名張市が乱歩にかんして起死回生をねらうならば、やはり名張市立図書館の出番なのであって、乱歩関連資料の収集と活用をしっかりこつこつ進めてゆくことで、乱歩生誕地にあるオンリーワンの公共図書館として、寄せられた期待に応え、担った使命をはたしてゆかにゃなるまい。
そこで、幻影城プロジェクトなわけね。
そういえば、先日、11月14日月曜のことだけど、伊賀市のお城に用事があって、ちょっと足を運んだ。
お城というのは、上野城とか、伊賀上野城とか、白鳳城とか、伊賀文化産業城とか、いろいろな呼称があるけれど、要するにこれ。
■20111120b.jpg
この天守閣はいわばレプリカで、近世には存在していなかった。
乱歩が終生、恩人として慕った伊賀出身の代議士、川崎克が私財を投じて建設したものだ。
完成は昭和10年。
ちなみに乱歩は、昭和31年、ということは、乱歩の編纂による『川崎克伝』が出版された年のことだが、「週刊読売」に「白鳳城」という随筆を寄せている。
でもって、お城の関係者のかたにお会いしたのだが、談たまたま、お城をつくったメリットは? みたいなことに及んだ。
つまり、城下町観光のシンボルができた、というのはあたりまえなんだけど、それ以外に、近代に入ってからレプリカの天守閣を新設して、どんないいことがありましたか? という話であったのだが、資料が集まってくるようになった、とのことであった。
資料というのは、津藩藤堂家の関係とか、伊賀上野の城下町の関係とか、そのあたりのものなんだけど、お城がわかりやすい目印になって、資料の提供や購入依頼がよく寄せられるらしい。
それが、お城をつくったことによってもたらされた意外なメリットだ、とのことであった。
だから、名張市立図書館もやっぱ、乱歩関連資料を集めてまーす、ということを、もっと前面に打ち出すべきだろうな。
それには、なんどもなんども指摘したとおり、インターネットを活用するのが手っ取り早い。
伊賀市のお城が城下町の目印となっているのと似たような感じで、名張市はネット上に目印のお城をつくればいい、というのが、幻影城ブロジェクトなわけである。
そういえば、11月11日金曜日のことであったが、こんな雑誌をお送りいただいた。
■20111120c.jpg
乱歩の出席した「探偵作家楽屋ばなし」という座談会がアンコール掲載されていて、むろん単行本や全集には未収録という貴重な資料なんだけど、こういう資料は名張市立図書館が寄贈先となっているべきなのであって、四十年以上も乱歩関連資料を収集していながら、いまだにそういうことになってないわけね。
しかし、目印のお城がネット上にそびえている、ということになれば、話はちがってくると思う。
ところで、図書館ってやつも、これからいったい、どうなってゆくのだろうな。
まず、電子書籍の問題がある。
和歌山県の有田川町では、電子図書館の試みがスタートした。
▼YOMIURI ONLINE:行かずに読める図書館(2011年11月4日)
電子書籍を購入した以外に、「著作権上、電子化しても問題ない郷土資料なども用意。24時間利用でき、遠隔地でも手軽に本に親しめるようになることが期待できる」というのは、図書館サイドで郷土資料を電子書籍化してしまう、ということであって、これからの図書館はこういったこともやってかなきゃならんのであろうな。
すなわちデジタルライブラリーというやつなんだけど、たとえば国立国会図書館の「近代デジタルライブラリー」では、乱歩のお父さんの著書二冊がデジタルデータで公開されている。
興味のあるかたは、下記のページにアクセスして、「平井繁男」で検索してみられよ。
▼近代デジタルライブラリー:Home
というか、「江戸川乱歩」で検索しても、『新宝島』『鉄仮面』『名探偵ルコック』『名文鑑賞読本 昭和時代』の四冊がひっかかってくるではないか。
著作権の問題は、「著作権者許諾」ということで、クリアされている。
いやー、時代はこんなところまで進んでおるのか、とびっくりしたり、なぜかあせったり。
ともあれ、和歌山県にある有田川町立図書館のサイトをリンクしておく。
▼有田川Library:Home
有田川町というのは、人口三万人に満たない小さな自治体だけど、そういったまちのほうが小回りがきいて、先進的な試みにも着手しやすい、ということなのかもしれん。
そういえば、全国にその名が鳴り響いている徳島県の北島町立図書館・創世ホールだって、やっぱり小さな自治体の施設だし、つい先日、「Library of the Year 2011」に選ばれたのも、長野県の小布施町立図書館だったりしたしな。
▼IRI 知的資源イニシアティブ:Library of the Year 2011
名張市立図書館だって、専門的に収集してきた乱歩関連資料という知的資源を所蔵してるんだし、よその土地のかたから、乱歩関連資料をいつまでも死蔵してんじゃねーよ、みたいなご批判を頂戴したりもしておるのじゃから、やっぱ、もう少し、しっかりしなければならんとぞ思う。
じつは、きのう、名張市立図書館に乱歩関連のお客さんがあって、ところが、名張市立図書館は乱歩のことをよく知らないものだから、わしがおもてなし要員の絶対的エースとしてお相手を務めることになり、それはそれは楽しい時間を過ごしたのだが、ひさかたぶりで図書館の地下書庫に入り、ミステリ関連の寄贈図書をつめこんだ書棚もごらんいただいたところ、このまま眠らせてちゃだめだよね、みたいなそれとないお叱りを頂戴した次第であった。
寄贈図書をどう活用するか、というのは、名張市立図書館にとって長きにわたる課題なんだけど、まったくといっていいほど話が前に進まない。
というか、以前にも記したとおり、衝突事故で脱線して地中に埋められた中国の電車かよ、みたいなことになっておるわけね。
▼2011年10月24日:死蔵とは脱線電車とみつけたり
しかもこれ、いったんは活用の方針が明らかにされてじゃな、いやー、もう六年も前のことになるのか、と驚かれぬる次第じゃが、2005年12月7日付朝日新聞のコラム「青鉛筆」でとりあげられた結果、つまり地方版ではなく、少なくとも大阪本社版と名古屋本社版に掲載されたことまでは確認できたんだけど、その結果、そこそこ期待も集めておったわけなのね。
こんな記事だったけど。
▽推理小説の生みの親、江戸川乱歩の生誕地である三重県名張市は5日、古今東西の推理小説を一堂に集めた「ミステリー文庫」を設置する方針を明らかにした。
▽同市は、乱歩に関する街おこし事業が盛ん。08年までに完成させる予定で、市立図書館の乱歩関係の蔵書約千冊を移し、寄贈も受け付けるという。
▽「全国の推理小説ファンの集まる場に」と同市。しかし、具体的な運営方法や設置場所は未定だ。行政側の思惑通りにいくか、それもまた「ミステリー」。
結局のところ、あの方針はうそでした、という結果に終わったわけであって、それはそれでしかたないことだし、とっくに過ぎてしまったことでもあるんだけど、寄贈図書をどう活用するか、という課題そのものはそのまま残っていて、一步も前進していない。
しかも、ひさかたぶりで地下書庫に入ってみてわかったのだが、蔵書が増えてますます手狭になっておった。
みた感じ、もう、いっぱいいっぱい。
活用以前に収蔵の問題でも、かなり頭の痛い状態になっておった。
だから、みごとなまでの大失敗に終わった名張市のまちなか再生事業にさいして、わしはパブリックコメントまで提出して、新町の旧細川邸に名張市立図書館のミステリ分室を設けたらどうよ、と提案してやったじゃろうが。
乱歩が生まれた新町に、なにかしらの公共施設を整備するのであれば、乱歩と関連させない手はない。
だからといって、乱歩記念館だの、乱歩文学館だの、そんなごたいそうなものは必要ないから、せいぜい名張市立図書館のミステリ分室みたいなのつくったらどうよ、となかなか魅力的なプランを提示してやったのに、名張市の当局は聞く耳をもっておらんかった。
わしの意見に素直に耳を傾けておれば、名張市立図書館がLibrary of the Yearに輝く、ということになっておったかもしれんのだが、市当局にはそもそも、わしの提案を理解することすらできなかったようじゃ。
それ以前に、当局は癒着結託相手の顔だけをみておった、という事情もあったわけだしな。
いやはや、思い返すだけではらわたが煮えくり返ってくるようじゃが、死児のよわいを数えてもせんかたあるまい。
ところで、きのうのお客さんには、あいにくの小雨のなか、乱歩生誕地広場にもお立ち寄りいただいのだが、もう少し、なんとかできんかったのか、とのお声も頂戴した。
いやはや。
いやはやいやはや。
といったところで、親戚の子供が遊びにきて、あそぼ、あそぼ、とうるさいので、本日はここまでとする。
Powered by "Samurai Factory"