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Posted by 中 相作 - 2011.09.17,Sat

書籍

 

茗荷谷の猫

 木内昇

 平成23・2011年9月10日第一刷 文藝春秋 文春文庫

 A6判 カバー 262ページ 本体629円

 初刊・旧版:2008年9月25日 平凡社

 

関連箇所

五 隠れる 本郷菊坂

 p121ー172

 

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五 隠れる 本郷菊坂

 

 ぽっくり、父が逝ったので、相当額の金が舞い込んだ。

 耕吉は、親類縁者に口やかましい者がいないのをいいことに、とっとと父の営んでいた店を畳み、三十人ほどいた従業員に十分な金を与えてこれを追い払い、恐ろしいまでの手際の良さで土地と家屋を処分、父親の骨を先祖代々の墓に放り込むと位牌を親戚に預け、やはり潤沢な金を渡して「これで菩提を弔って欲しい。そちらに預かってもらったほうが父も安堵いたしましょうから」と死者に口を貸しているような振りをして言い、跡取りたる自分の役目を一切合切放棄した。しかし連中は耕吉を蔑むどころか、兄弟もなく、親もこれでいなくなった彼を、天涯孤独の身になったと哀れんだ。どや、帰ってきたらわしら面倒みたるがのう。父親の兄にあたる伯父はそう言って泣いた。うっかり垂れた鼻水まで、穢れなき透明であった。耕吉はしかし、東京で勤めがあるからと言下に答え、伯父を振り切り汽車に飛び乗った。ベタベタと見送りに来た親戚たちに手を振りながら、これで晴れて自由の身になれる、と腹の中で快哉を叫んだ。

 

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文藝春秋:茗荷谷の猫

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