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Posted by 中 相作 - 2018.01.10,Wed
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エンタステージ
 平成30・2018年1月8日 WOWOW

成河インタビュー!『黒蜥蜴』は「耽美的で大衆的で喜劇的な作品であると分かった」
 エンタステージ編集部
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成河インタビュー!『黒蜥蜴』は「耽美的で大衆的で喜劇的な作品であると分かった」

2018年1月 8日

2018年1月9日(火)に東京・日生劇場にて開幕する『黒蜥蜴』。江戸川乱歩の長編探偵小説を三島由紀夫が戯曲化した傑作を、ロンドンやブロードウェイで活躍する英国人演出家のデヴィッド・ルヴォーが手掛ける本作で、美貌の女盗賊“黒蜥蜴”の部下であり、彼女に恋い焦がれる青年・雨宮潤一役を演じるのが、成河だ。ルヴォー演出を初めて受ける成河に、その魅力や作品への取り組みを聞いた。



――『黒蜥蜴』、いよいよ開幕です。始まりの製作発表から、かなり印象的なものでしたね。

寸劇仕立てというあの形は、おもしろかったですね。それから、衣裳デザインを担当してくださっている前田文子さんのお話を聞く、学生さんの目がとてもキラキラしていて、とても素敵な空間でした(※『黒蜥蜴』の製作発表は、東京モード学園内にて行われました)。

――その製作発表では、成河さんは一度、出演を辞退されていたとおっしゃっていましたが。

三島由紀夫さんの『黒蜥蜴』の中で描かれている青年・雨宮のイメージを考えると、最初、僕ではないんじゃないかと感じたんです。雨宮は、20代・・・もしかしたらまだ10代の、少年から青年への過渡期の美しさを秘めた人物なのではと想像していたので。あくまでも僕のイメージなんですが、そういう時期特有の危うさや色気が描かれているんじゃないかと。だから、僕よりももっとふさわしい方がいるんじゃないかと思ったんですよ。



――決め手は、演出のデヴィッド・ルヴォーさんとお会いになって、直接お話をされたことだったとか。

そうなんです。ルヴォーさんに会う機会をいただけたので、自分の考えを直接伝えた方がいいかなと思って伺いました。そうしたら、真っ先に「そんなの(既存のイメージは)関係ない」って言ってくださって(笑)。
ルヴォーさんが演出するからこそ、日本における『黒蜥蜴』の上演史へのこだわりは必要なかった。彼は、日本人よりも作品について詳しいぐらい勉強をされていて、お話を伺う中で、僕の方が固定観念に縛られていたんだなと気づきました。

それから「フィジカルな作品として、この『黒蜥蜴』を立ち上げてみたい」という野心を伺ったんですね。実際に舞台でどう実現しているか、観ていただいてということになりますが、いろんな可能性を感じたんです。照明や音響などの力だけではなく、演者の力で空間を変え、動かしていく。ルヴォーさんは、役者が人物を純粋に演じるということだけにとどまらない、演劇の醍醐味や可能性をとても信じている方なので、その部分でも意気投合したんです。僕も、そういう演劇が大好きなもので。

演劇の可能性は無限に開かれているのだから、あまりせせこましく考えずに、その一助たり得たいと思うように変わりました。演劇の概念から広げようとしている方が、日本の概念の中に収まらずに三島由紀夫作品に取り組むということは、とても価値のあることだと思いますし、すごく貴重な経験です。

――ルヴォーさんとお会いになったのは、その時が初めてだったのでしょうか。

ルヴォーさんの作る作品は、彼がまだ小さなスペースでやっていた頃から観ていましたし、劇場などでお目にかかることもありましたが、きちんとお会いしてお話するのはその時が初めてでした。初めてお話するのに、図々しくも自分の演劇観のようなものを語ってしまったのですが、真摯に聞いてくださったんですよね。

――海外の演出家さんと日本人のキャストの皆さんが、日本の古典や近代演劇に取り組むことで、固定概念を破り新しい演劇を生み出される気がします。

そういう機会が増えることに期待したいですし、この作品もそうあれるように、喜んで、全力でやってみたいと思っています。



――黒蜥蜴役の中谷美紀さんとは、初共演になりますね。

制作発表の前に行われた、事前の本の読み、顔合わせのようなワークショップで初めてお会いしたんですが、「私なんて、私なんて、向いてないんです・・・」みたいな感じの、ものすごく腰の低い方で、びっくりしましたよ(笑)。壁のない、とても付き合いやすい方なので、制作現場ではたくさん話をしていけたらいいなと思いました。

――そして、とても仲が良いという井上芳雄さんとは『ハムレット』『エリザベート』に続いての共演です。

共演はまだ2回、これが3回目なんですけど、よく話をする仲です。問題意識を共有できる方なので。

――ちなみに、成河さんと井上さんが共有される問題意識というのは、どのようなことなのでしょうか。

日本の演劇の中で、いかに俳優として活動するかということへの問題意識ですね。問題意識と言っても、ネガティブなことばかりじゃないですよ(笑)!多岐に渡るのでなかなか一言では言い切れませんが、現状からどう脱却し、さらに何かを手に入れて、また持ち帰ることで、様々な方面を相乗効果で豊かにしていくか。それをどう実現することが一番、俳優にとって必要なことか。ともすれば朝まで議論をしたりします。別に正解があるわけではないんですが、明日に向かう建設的な意見交換をする(笑)。そういう仲間ですね。

――本作は、江戸川乱歩の小説を、三島由紀夫が戯曲化したものですが、台本もすべて旧字なんですね。

そうなんですよ。日本語に親しんだ人でも、すんなりとは読めないからガクッとなるでしょう(笑)。でも、ルヴォーさんは訳された英語で読んでいるから、現代劇の戯曲を読んでいるのと変わらない感覚なんですよね。

――なるほど!三島文学ということもあり、少々身構えてしまったのですが、それもまた固定概念ですね。

そういうフィルターを、全部ひきはがす必要はないですが、ルヴォーさんはTPT(シアタープロジェクト・東京)の頃から三島作品と向き合っていて勉強熱心な方なので、何が本質なのか、何を本質として届けたいのかを、きちっと考えて作ってくださっています。それを皆様と共有できる日が楽しみですね。



――ルヴォーさんの演出作品は、いつもこういうアプローチがあったのかと驚かされるのですが、今回も乱歩特有の世界観と、三島脚本の言葉のぬめりをどう表現されるのか想像がつかなくて。

読み合わせで、全員一致で思ったことなんですけど、三島由紀夫さんは、この戯曲をものすごく大衆的な、喜劇として書かれているんですね。すごくバカバカしくて、笑える書かれ方をしているところが、すごくいっぱいあったんです。声に出して、実際に役同士で声を交わしてみることで、初めて分かったんですけど。ルヴォーさんも「これはすごく大きな発見だね」と言っていました。

ルヴォーさんの作る『黒蜥蜴』も、おそらくそういう部分を踏まえた『黒蜥蜴』になると思います。

あの時代の持つ荘厳さや重々しさ、優麗かつ美しい様はもちろんあるんですけど、そこにある人間味が、今の僕たちの目に異世界の出来事のように映ってしまっては、演劇としてもったいないと思うので。非常に滑稽な人たちが、滑稽なやり取りをしている。ちょっと、ドリフのずっこけに通じるような台詞のやり取りも書かれているわけですよ(笑)。間違いなく、そういう意図を持って書かれているなということがたくさん見つかりました。そういう部分を、ストレートに入れ込むことができるのは、ルヴォーさんというイギリス人ならではの感覚だと思います。距離感があってこそ、の感覚。日本人だと「本当にいいのかな・・・」ということが、気持ちいいものになっていると思います。

――今、お話を伺っていて、作品の印象がだいぶ変わりました。

三島作品にもいろいろありますが、この『黒蜥蜴』に関しては、大衆的で喜劇的で、耽美であるということが、すごく意味のあることなんだと思いました。この大衆的で喜劇的という部分は、今回改めて教えられたことでもあります。ルヴォーさんは解釈の共有を、とても繊細に、大切にされている方なので、全員でルヴォーのイメージを共有し、皆さんへ届けたいですね。

――ルヴォーさんが最初に成河さんに伝えらえた“フィジカルな作品として立ち上げる”という部分が、鍵になりそうですね。

三島由紀夫さんの戯曲って、ト書きがすごく書き込まれているじゃないですか。何がどこにあって、どんなセットで、どんなアンティークで、どんな位置に何があって・・・といったように。そういう細かいト書きにこだわって、言葉の持つリズムにのっとって、具象で美術を作っていくという方向が一つあると思うんですね。三島戯曲だけでなく、日本の近代戯曲をやる時は特に。俳優の演技も、抽象的な表現の仕方はいくらでもあるんですが、そういう具象の中で場は変わらずに空間を変えるにはどうするのか・・・最初、ルヴォーさんも「どんなのがいいかな?」とワクワクしている感じがありました。



――「フィジカル」と聞いて、受け取る人の印象や想像は様々ですよね。

そうですね~。これは難しいですよ。ダンサー的な“フィジカル”と俳優にとっての“フィジカル”は、全然違うので。一応、僕が定義としているのは「空間を変えるための所作」です。例えば、能や狂言師の方が扇子を開く動き、手を振る動き。そういうものが、俳優が持つ“フィジカル”な面だと思います。派手な踊りや、分かりやすいエンターテインされた外見だけではなく、ごくごく小さなきっかけで空間がガラッと変わっていく時、一番大きな衝撃がお客さんに走るはずなので。

僕自身は、機能としてのフィジカリティを発揮できればいいな、と思います。言葉だとうまく伝わらないかな~。でも、きっと分かる方には分かっていただけると信じて(笑)。

――それでは最後に、公演に向けてお客様へメッセージをお願いします。

先ほど言ったとおり、三島由紀夫の『黒蜥蜴』は、耽美的で大衆的で喜劇的と、僕は捉えています。そういう日本人では簡単に突破できないような自由な作品の捉え方を、ルヴォーさんと探した結果をお届けするので、そういう意味で、今まで誰も見たことない、触れたことのない形の『黒蜥蜴』を観ていただけるという思いがあります。そして、機能としてのフィジカリティを理解していただきましょう(笑)!そういうことを、ぜひ一緒に共有しましょう。



◆公演情報
舞台『黒蜥蜴』
【東京公演】1月9日(火)~1月28日(日) 日生劇場
【大阪公演】2月1日(木)~ 2月5日(月) 梅田芸術劇場メインホール

【原作】江戸川乱歩
【脚本】三島由紀夫
【演出】デヴィッド・ルヴォー

【出演】中谷美紀、井上芳雄/相楽樹、朝海ひかる、たかお鷹/成河
一倉千夏、内堀律子、岡本温子、加藤貴彦、ケイン鈴木、鈴木陽丈、滝沢花野、長尾哲平、萩原悠、松澤匠、真瀬はるか、三永武明、宮菜穂子、村井成仁、安福穀、山田由梨、吉田悟郎
ダンサー:小松詩乃、松尾望(50音順)

(撮影/エンタステージ編集部)

(文/エンタステージ編集部)
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