8月13日土曜日のできごと。文中敬称略。
夜、大阪で飲む用事あり。朝、きょうも暑くなりそうだとうんざりし、暑い日は暑いところへ行くに限ると妙なことを思いついて、そうだ京都、行こう、と決める。近鉄名張駅を一一四一に発車する京都行き特急に乗車。車中で奥泉光『神器 軍艦「橿原」殺人事件(上)』(新潮文庫)を読み継ぐ。いまだ殺人事件は発生していないが、切りのいいところで赤坂憲雄、小熊英二、山内明美の『「東北」再生』(イースト・プレス)に乗り換える。読み耽る。一二五五、近鉄京都駅到着。二日酔いのせいでさほど食欲がなく、昼食は抜いて地下鉄へ。ホームに立って視線をぼんやりさまよわせるうち、知った顔を見かけたような気になる。あわてて見回すと、壁にこんな広告。
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このコーギー、顔といい表情といい体毛の色といい、うちの犬によく似ている。思わず写真に撮った。ばかみたいなり。
烏丸御池駅で降りて京都府京都文化博物館まで歩き、別館ホールで開催中の「ヤン&エヴァ シュヴァンクマイエル展」へ。展示スペースは狭く、入場者は多し。乱歩の短篇がヤン・シュヴァンクマイエルの挿画に飾られた『人間椅子』(エスクァイア マガジン ジャパン)が刊行されたのは2007年8月のことだが、その原画ならびに原オブジェとでも呼ぶべき作品が十数点、「2 人間椅子」と題したコーナーに展示されていた。人が歩いて椅子に坐るまでの動作を表現したパラパラアニメの原画もカラーコビーがファイルにまとめて置かれてあり、これはコーナーに設置された椅子に坐って実際にぱらぱらすることを得た。同じくヤンの挿画によるラフカディオ・ハーン『怪談』(国書刊行会)が先月出版されていたことは会場で初めて知ったのだが、その原画二十点あまりも見ることができた。西洋中世の写実的世界に突如破れが生じて異界が顔を覗かせるかのごとく日本のお化けをコラージュで出現させる手法が面白く、独特のユーモアさえ漂わせて見飽きない。会場では今月27日に公開される映画「サヴァイヴィングライフ」の予告篇がくり返し再生されている。
「夢と現が結びつけば人生は完璧になる」というエピグラフは、いうまでもなく乱歩の例の言葉を連想させるものだ。
見終えて出る。この博物館、入るのは二度目である。開館は1988年10月とのことだから、たぶんその年の12月、ということは昭和天皇不予のおりということになるのか、いまだバブルが破裂していなかったということにもなるはずだが、そのあたりのことはあまり記憶にない。名張市内から博物館にスタッフとしてお勤めだった方があったので、その人にお願いし、古都の新たな文化拠点を見る、といった感じで博物館を取材させてもらったことがある。あれから二十年以上が経過した。昭和から平成に元号が改まってもう二十三年である。考えてみれば平成というのはよくわからない時代で、昭和になって二十三年が経過したころには昭和恐慌あり満州事変あり、むろん太平洋戦争があってヒロシマもナガサキもあったあとすでに戦後の復興が始まりもしていた。ところがこの平成という時代、二十三年のあいだにいったい何があったといえるのか。最初は緩やかでやがて急速に著しくなる衰退。そんなことでしかないのではないか。おまえはいったいなんなんだ平成。そういえば開館以来二十年以上の時間が経過して博物館もリニューアルされたらしいということを、京都駅まで戻るためふたたび地下に降りた烏丸御池駅のこの広告で知った。
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往事茫々の感。
京都のまちはやはり暑い。冷えたビールが飲みたくなり、さすがに何か食べたくもなったので、地下鉄京都駅から地下街を歩いて手頃な店を探す。時刻は一五〇〇前後であったか。ちなみに漢数字を四つ並べた時刻表記は『神器 軍艦「橿原」殺人事件(上)』の影響なり。老舗らしい洋食の店があったので、というか地下の飲食店街がそこでおしまいになっていたので、入ってアフタヌーンメニューとやらのハンバーグセットと生ビールを注文。京都は人出が多く、しかもお若い衆が多く、なかんずくおしゃれな女の子がたくさん歩いているのがよろしい。その一翼を着実に担いつつある身でこんなこというのも気が引けるのだが、どこに行っても高齢化社会という言葉をしみじみ実感できる名張あたりとはえらい違いだ。ビールを待ちながらシュヴァンクマイエル展で購入した図録を眺める。いっしょに買った絵葉書の一枚がこれ。
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おなじみアリスの兎なれど、眺めているうちどこかうちの犬に似ているような気がしてきて、ついうかうかと購入してしまったなり。ほんと、ばかみたいなり。
JRで大阪へ。実際に足を運んでみると、炎帝がじりじり照りつける地上はともかく、地下街は京都より大阪のほうがかなり暑い。行き過ぎた節電のせいなり。のみならず大阪の地下街は京都のそれより空気が汚れ、異臭が漂っているような印象すらある。しかし地上よりはましだろうと地下街を行くことにし、大阪に梅田近夫という男がいて、その男が梅田近夫でっせ梅田近夫でっせ梅田近夫でっせと自己宣伝に余念がないといった内容の小説なのか思っていたらじつは「梅田地下オデッセイ」を聞き違えていたのであった、みたいな小話が昔あったな、とか思い出しながら歩いたのは行先がSF関連の飲み会だったせいであったか。待ち合わせ場所から会場に移動し、つづく二次会にもつきあって、ひとり先に抜ける。上本町駅で乗り込んだ近鉄特急が桔梗が丘駅に到着したのは二二五〇なり。徒歩で帰宅。犬に挨拶し、シャワーのあとビール、さらに焼酎。
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