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Posted by 中 相作 - 2017.08.30,Wed
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週刊読書人ウェブ
 平成20・2017年8月29日 読書人

怪談に大人流の楽しみを
 藤川雅恵
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2017年8月29日

怪談に大人流の楽しみを

藤川 雅恵(日本近世文学研究者)

 

御伽百物語(藤川 雅恵)三弥井書店御伽百物語
藤川 雅恵
三弥井書店

すでに立秋も過ぎたが、今夏も怪談の花盛りである。一年中季節感無く、研究対象として怪談に向き合い、授業を行うことが、日常化して久しいのだが、それでもこの季節になると、思わずほくそ笑んでしまう。テレビでは、毎日のように特集が組まれ、美術館でも洋の東西を問わず、涼を呼ぶオドロ美しい絵画が展示される。だが、作家によって綿密に練り上げられた文学作品で、怪談をじっくりと読み味わうこともまた一興と言えよう。可視化されない世界の中で文字を目にし、美しい表現や構成の妙を堪能するのは、大人にとっての何よりの贅沢というものだ。そしてその時、どんな作家の顔が思い浮かぶだろうか。

小泉八雲の怪談に、『衝立の女』という話がある。江戸の浮世絵師、菱川師宣が衝立に描いた美女を、一途に恋する男の話である。結末は、ある秘法により、美女が現実のものとなって恋が成就する、幸福な話である。しかし、偶像化された非現実の美女との恋と聞いて、無類の怪談愛好者ならば、「これは、江戸川乱歩の『押絵と旅する男』に似ている」などと、既知の怪談と照らし合わせ、想像をさらに逞しくさせるのではないだろうか。

実は、八雲の話は、元禄時代を映した怪談集『御伽百物語』(青木鷺水作)の一話をもとに、作られたものである。八雲はこの中からもう一話『弁天の同情』を創作し、一方、乱歩はさる老舗古書店から、現存随一の美本とされる原本を購入して家蔵していた(現在、立教大学で所蔵)。近代怪談の二大巨頭に愛され、その創作の糧となったことは、この作品の魅力の一つと言ってもいいだろう。

小著は、『御伽百物語』の構造を解き明かし、怪談としての魅力を伝えようと試みたものである。なかでも、師宣、忠臣蔵、かぶき者、豪商など、ここに隠された、元禄時代の人々が熱狂した事象を拾い上げ、作品との関連性を説明することに力を注いだ。また、大学の授業や卒業論文作成を想定したシリーズのため、古文嫌いの学生でも目が通せるよう、本文を再検討し、「読める古文」を心掛けた。加えて、自主研究の補助として、作者が創作の種とした中国の怪談も、同時に読めるようにした。

口語訳された江戸怪談のアンソロジーで、この作品を目にした方もあると思う。無理に頭から読まず、「あらすじ」や「見どころ・読みどころ」などで、興味を惹かれる部分から、順不同にゆったりと楽しみ、元禄の人々の怪異観を追体験していただきたい。
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