実際にはそんなこともないのだろうが、単なる印象だけをいえば、こんなに訃報の多い夏ははじめてだ。
こんどはジョー山中さんである。
母さん、名張市民の八億六千万円、どうしたでせうね? ではなくて、母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?
そういえば、母さん、名張市民の三千十万七千七百円、どうしたでせうね? なんてのもあったな。
▼2011年7月16日:母さん、名張市民の三千十万七千七百円
ええ、大失敗に終わったまちなか再生事業で、名張市がコンサルタントにぼったくられたあの三千十万七千七百円ですよ。
母さん、あれはあほな事業でしたよ。
いやいや、そんなことはどうでもいいとして、ジョー山中さんのご冥福を心からお祈りする。
ジョーさんの直前は、前田武彦さんだった。
先月文春文庫に入った小林信彦さんの『映画×東京とっておき雑学ノート』を二、三日前に読みはじめたのだが、「欽ちゃん!」という章に前田さんの名前が出てきた。
〈演芸〉という古い枠の中にいたコント55号がスターになったのは、この昭和四十三年四月から始まった「お昼のゴールデンショー」(フジテレビ)で、司会が前田武彦、アシスタントがコント55号という、当時としては最強のメンバーである。週に月~金の五日だったと記憶するが、ホールからのナマ放送だった。
驚くべきことに、コント55号は、毎日、新しいコントを演じたのである。同じコントを二度と演じないというのは若き日の萩本欽一の方針であるが、毎日、新しいコントを見せてやる、という態度がすさまじい。
たとえば、坂上二郎が釣をしていると、プロカメラマンらしき萩本欽一が現れ、「ちょっと、うつさせてください」とたのむ。
いいですよ、と坂上二郎がうなずいたらオシマイで、カメラマンは「あなた、今、カメラを意識しましたね」とか、「自分を良くうつされたいという気持が見えた」と、坂上二郎を怒鳴りつける。坂上二郎は本当にわけがわからなくなって、欽ちゃんを盗み見したりして、また叱られる……。
「お昼のゴールデンショー」の放送がはじまったのは不肖サンデーが高校生だったころで、とにかくコント55号が衝撃的だったものだから、夏休みなんかにはテレビにかじりつくようにしてみていた記憶がある。
そのわりには、小林さんのように印象に残るコントを紹介する、ということができない。
いくら思い出そうとしても、「お昼のゴールデンショー」で55号がどんなコントを演じたのか、なにひとつ思い浮かんでこない。
困ったものだが、まあしかたがない。
いま思い出したのは、坂上二郎さんの逝去が3・11の前日、つまり3月10日だったということだ。
そういえば、小林さんの『映画×東京とっておき雑学ノート』には3・11の原発事故を予見するような、あるいは、あの事故と二重写しになってしまうような文章があって、これはこの文庫本の売りになってもいるらしく、帯にもそれが引かれていたと思うのだが、帯は捨ててしまったから確認できない。
と書いたあと、版元のサイトで確認できるかも、と気がついた。
これである。
▼文藝春秋:映画×東京とっておき雑学ノート
「〈東京喜劇〉と『社長放浪記』」と題された章から引用。
柏崎刈羽原発のトラブルはいつ収拾がつくのか、今日(七月二十六日)の段階では見当がつかない。
IAEA(国際原子力機関)による調査を政府は見送るつもりだった(七月二十一日)。その理由がふるっている。〈現場が混乱しているため調査団を受け入れる余裕がない〉というのだ。
一転して受け入れるようになったのは、ご存じの通りだが、ぼくは初めから、この〈トラブル〉は怪しいと思っていた。東京電力側の発表は〈わずかな〉とか〈微量の〉とか、数値を示さず、あいまいであった。広島に原爆が落ちた時の新聞発表と、どこか似ている。あの時は〈大したことはない〉が、〈大いに警戒しよう〉というフシギな発表だった。まあ、政府や東京電力を、信用しない方がいい。自分が生きのびるための勘だけを鋭くしておくに限る。
ここを読んで、愕然とした。
なにに愕然としたのか。
2007年7月16日に新潟県中越沖地震が起き、柏崎刈羽原発でトラブルが発生していたことを、当時の自分がさして重要視していなかったということだ。
「自分が生きのびるための勘」が非常に鈍い、ということだろう。
もういつくたばってもふしぎではないな、と思いながら生きてはいるのだが、いつくたばってもかまわねーや、と思っているわけではないので、その種の勘が鈍いのはちょっと困ったことかもしれない。
訃報ついでに記しておくと、徳島県の北島町立図書館・創世ホールから、おとといであったか、「創世ホール通信」の7月号と8月号が到着し、徳島新聞のコピーが同封されていた。
このエントリに記した記事のコピーである。
▼2011年7月21日:竹内博さんのご冥福をあらためてお祈りする
この7月21日付エントリではよそのブログへのリンクを掲げておいただけだったので、小西昌幸さんの追悼文、ここにあらためて無断転載しておきたい。
あらかじめ関係各位のご海容をお願い申しあげる次第である。
■20110808a.jpg
小西さんがこの記事の最後で約束していらっしゃった文章は、「創世ホール通信」8月号に「竹内博さんの思い出」として掲載されている。
近く、このページで読めるようになるはずである。
▼北島町HOMEPAGE 創世ホールだより:文化ジャーナル
それにしても、これもまた単なる印象だけを記せば、今年は異様に死者の多い年ということになるのではないか。
いやいや、いつこちらが死者としてカウントされることになるかもしれんのだから、とにかく先を急ごう。
トラウマに負けることなく、前へ進もう。
それにしてもトラウマってのはえらいもので、きのうのエントリを読み返してみると、トラウマのせいで論理の展開が妙にぎこちなくなってしまっている。
きょうはできるだけ平静に、つづきをつづりたい。
きのうも書いたけど、理解できないことに判断をくだす、というのは、本来、あってはならないことだ。
ところが、じつによくあることでもある。
たとえば、名張市立図書館の開設当時の関係者には、資料収集というのがどんなことなんだか、まったく理解できていなかった。
にもかかわらず、乱歩関連資料を収集する、と決めてしまった。
つまり、理解できていないことに判断をくだしてしまった、ということになる。
その結果、どうなったか。
いま現在のていたらくである。
もちろん、当初は理解できていなかったとしても、あとから理解を深めることは可能である。
しかし、そんな芸当は、理解できていないという自覚がある場合にのみ、可能なのである。
理解できていない、ということが理解できていなければ、理解しよう、とか、理解しなければ、とか、そんなことはけっして思わない。
名張市立図書館は、いうまでもなく、理解できていないということが理解できていなかった。
だから、いま現在のていたらくなのである。
乱歩関連資料の収集、というのがどんなことなんだか理解できてもおらん図書館は、本来であれば、乱歩関連資料の収集なんかしてはいかんのである。
理解できないことに判断をくだしてはいかん、というのは、そういった意味である。
しかし、そんな堅苦しいことばかりもゆうておれん。
これまたきのうも記したとおり、そんなことゆうとったらなにもできんのである。
だから、どっかで妥協して、適当に折りあいをつけ、外部の人間が名張市立図書館にアドバイスしたとしよう。
名張市立図書館には、なにも理解できておらず、なにも考えることができていないにしても、外部の人間が、こういうことをやればいいんだよ、と名張市立図書館に伝えることはできる。
そしたら、どうなるか、みたいなことを考えたとたん、トラウマが耐えがたくずきずきしてきた、というのがきのうのことであった。
無理もないわな。
一例だけあげると、いつもいうことだけど、不肖サンデー、名張市立図書館の公式サイトに乱歩のデータベースを掲載したらどうよ、と具体的な提案をおこなったことがある。
そのための予算要求は、一回目も、二回目も、あっさりリジェクトされた。
これは、理不尽な提案でもなければ、不合理な要求でもなかった。
インターネットを利用してサービスを提供するというのは、さからいがたい世の趨勢というやつであった。
しかし、財政難を理由に、リジェクトされてしまった。
のみならず、おめーの考えてるとおりにゃなんねーんだよ、などと口走る低能まで出てきた。
やってらんねーよばーか、と枕を濡らした経験が、不肖サンデーにトラウマを残したのである。
だから、いま、ようがす、合点でございます、お役所のみなさんにお世話はおかけいたしません、なにも考えていただかなくて結構でございます、できるだけ働かないようにしていただいて結構でございます、きのうまでそうであったそのままに、あしたからもお役所が無能と怠慢の楽園でありつづけますように、私からも神さまにお祈りをしたそのうえで、名張市立図書館が乱歩にかんしてちゃんとしたことをやるために、それはもうなにからなにまで不肖サンデーが考えて働いて、とにかくすべてを引き受けますのでどうぞよろしくおねげーいたしますだお役人さま、と声涙ともにくだらんばかりに懇願し、名張市立図書館にあれこれ提案してみたところで、むこうからリジェクトされたらどうしようもない。
それでおしまいである。
決定権がない、というのは、そういうことなのである。
決定権を有しているお役人さまには、理解力もなければ、判断力もない。
な。
理不尽であり、不合理である。
じつに理不尽で不合理な話じゃろうが。
お役所によってここまで理不尽で不合理な目に遭わされた善良な市民が、心に深い傷を負わぬわけがないじゃろうが。
なあ、名張市役所のみなさんや。
いくらみなさんでも、その程度の理屈はおわかりいただけるはずじゃけのう。
さて、いったい、どうしちゃるかのう。
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