29日の土曜日、知人の遺稿集に寄せた短い文章のゲラが届いた。
翌日、つまりきのうの朝のことだ。
犬と散歩していて、そうだ、京都行こう、と思った。
その知人と夏、京都のビアレストランでビールを飲んだ記憶が、切ないほど懐かしくよみがえってきたからだ。
都合のいいことに、きのうは何の予定もなかった。
朝食のあと、簡単に雑用を済ませて、散歩のままのいでたちで、つまり、ユニクロのポロシャツとしまむらのハーフパンツ姿で、アネロのリュックを背負って近鉄電車に乗り込んだ。
京都着。
地下鉄に乗る前、通りすがりのくまざわ書店京都ポルタ店で文庫本を一冊確保。
▼中央公論新社:帝都復興の時代
先日、ある人から乱歩に関する記述があるとメールで教えてもらった本で、いくら当地が田舎でも中公文庫の新刊くらい本屋にどーんと並んでいまさあ、と自信満々で返信しておいたのだが、探してみても並んでいなかった。
だから、とりあえず確保した。
地下鉄に乗って降り、三条河原町あたりをうろついて、かつて知人と飲んだビアレストランを探す。
しかし、ない。
どこを探してもない。
そのうち、どこを探せばいいのか、それさえわからなくなってくる。
途方に暮れ、うろうろとあてもなく歩いていると、その知人が書いた短篇小説の世界に紛れ込んでしまったような気がしてくる。
と、いまなら思い返せるが、実際にはそんなことを思い返している余裕はとてもなく、猛暑というほどではなかったもののもちろん暑いし、名張に比べると信じがたいほど人が多いし、どこを歩いていてもわめき散らすような中国語がやたら聞こえてくるしで、この喧騒を逃れて早くあの静まり返った名張に帰りたいと思えてきた。
結局、知人と飲んだビアレストランは見つけられず、何をするのも億劫になって、いつのまにか京都駅に戻っていた。
しかし、ビールだけは飲んでおこう。
近鉄京都駅の名店街に入ると、そこも人であふれていて、行列ができている飲食店も少なくない。
奥まで歩いて、また引き返し、入口近くのレストラン、というより洋食屋と呼ぶほうがふさわしい店を覗くと、ささやかな奇跡のように客が少ない。
テーブルふたつが塞がっているだけで、見事に閑散としている。
救われたような気がして飛び込み、生ビールを二杯,それから、客の少なさが心から納得できる味わいのAランチ、ほとんど放心状態で飲み食いする。
かつて知人と入ったビアレストランで知人を偲びながらビールを飲む、というもくろみは果たせなかったが、まあこれでよしとしよう。
帰宅したのは午後4時過ぎ。
犬と散歩し、シャワーを浴びて、またビールを飲んだ。
一夜明けて、ゲラに目を通し、返送するのはこれからの作業になる。
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