雑誌
国語国文 第80巻第6号
平成23・2011年6月25日 922号 中央図書出版社
編:京都大学文学部国語学国文学研究室
A5判 53ページ 定価680円(本体648円)
江戸川乱歩「闇に蠢く」論
宮本和歌子
p39ー53
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江戸川乱歩「闇に蠢く」論
宮本和歌子
一、はじめに
「闇に蠢く」は、雑誌『苦楽』に大正一五年一月から一一月まで連載(四月・八月は休載)されたまま中絶し、翌年、現代大衆文学全集第三巻『二銭銅貨』(昭和二年一〇月平凡社)収録の折、完成された長篇小説である。「探偵小説三十年」(昭和ニ六年七月『宝石』)によれば、「生れて初めての長篇連載を注文」され、「何かエロテイックなオドロオドロしきもの」を書こうと考えていたが、他の連載作品同様、筋がほとんどできていないまま執筆を開始したという。連載第一回目は、「谷崎潤一郎ばり」と当時の『苦楽』編集長川口松太郎にほめられたものの、「もともと短篇作家型の性格」であり、「首尾一貫した本当の意味の長篇小説を、一度も書いていない」との理由から、「この『苦楽』の長篇依頼も、純粋な考え方からすれば、むろん断るべきであつた」(「探偵小説三十年」昭和ニ六年七月『宝石』)ところを引き受けてしまったとしている。「辷り出し好調であつたにもかかわらず、三、四回目あたりから、困りはじめた。人肉を啖う話など、最初は少しも考えていなかつたのだが、筋のない苦しまぎれに、結局どぎついものを入れることになつた。そうしなければ場が持てなかつた」、「結局『闇に蠢く』は断続して九回連載したきり、うやむやに中絶してしま」(「探偵小説三十年」、昭和二六年八月『宝石』)ったと、乱歩自身のこの作品に対する評価はあまり良いものではない。
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