戸川安宣さんのブログに残月祭の話題が掲載されました。
▼パン屋のないベイカーストリートにて:妖しの世界への誘い(2011年7月25日)
いやー、小松史生子さんや宮本和歌子さんもおいでだったとは。女性はお見それしっぱなしで、谷崎潤一郎記念館学芸員の永井敦子さんに簡単にご挨拶を申しあげた以外、残月祭でお会いしてお話しした相手は男ばっかというなさけない結果に終わりました。
さて今年の残月祭、テーマは「妖しの世界への誘いー谷崎・乱歩・横溝ー」でした。はっきりいって超難物。三人がどんな関係にあったかを見てゆくだけで少なからぬ時間が必要になりますから、下手すると収拾がつかないような事態に立ち至るのではないかと案じられたりもしたのですが、実際には戸川さんがお書きのとおり講演もシンポジウムもよどみなくつつがなく進行しました。私は何を案じていたのか。もしかしたら、自分が谷崎、乱歩、正史をテーマに人前で話をしなければならなくなったらどうしよう、みたいなことを考えて杞憂に身悶えしていたのかもしれません。なんかあほみたい。
それでは一点豪華主義的にお届けする乱歩のエピソード。シンポジウムでは平井憲太郎さんが乱歩のことをお話しになったのですが、直接見聞きしたなかで一番おかしかったエピソードとして披露されたのが例の偽電報事件でした。「週刊文春」の昭和37年12月17日号の「推理作家への挑戦状『ランポキトク』」によれば同年11月29日未明、推理小説関係者のもとに偽の電報が届いたという一件で、記事のリードには「いつもは読者を巧妙なトリックでひっかけている推理作家たちが、見事に怪電報にひっかけられた。大御所江戸川乱歩氏が危篤状態だからすぐ来い、というのだ。かけつけると乱歩氏はいつもの通り元気……欺された人たちは頭にきて、メンツにかけても犯人を見つけ出す、と張り切っているが、果してこの中から明智小五郎は出るだろうか?」とあります。
で、そのとき、乱歩は病気のせいで字が書けなくなっていたので、奥さんにある作業を命じたそうです。どんな作業か。誰が来て、誰が来なかったか、それを確認するためのリストの作成です。乱歩はあとでリストを眺めながら犯人を推理したというのが憲太郎さんのお話で、なるほど乱歩らしいエピソードだと深く頷かれました。ちなみにこのリストは現存しているそうで、シンポジウムのあとで憲太郎さんからお聞きしたところでは何年か前のイベントで公開もされたそうです。
以上、残月祭で一番笑えたエピソードだったのですが、こうして文章にしてみるとあまり笑えません。なのでもう少し話題を重ねることにして、くだんの「週刊文春」から乱歩の推理を引用しておきましょう。
「内部にある程度くわしい人ではあるが、人選の焦点が少々ボケたところもある。とすれば最近つき合っている人ではないと思う。まず古い知人というところかな……
だが、本当の被害者は私ではなく、朝早く来てくれた人たちですからね。申訳けないと思ってお詫びの手紙を出しときましたが、もうあんまり騒がない方がいいね。それが犯人の思うツボなのかも知れないじゃないですか……」
乱歩が奥さんの作成したリストをためつすがめつしながら、うーむ、人選の焦点が少々ぼけてるぞ、などと推理しているところを想像すると、不謹慎ながらやはり結構笑えるような気がするわけですが。
以上、7月24日の谷崎潤一郎の誕生日に、ついでにいえばこの日は河童忌、つまり芥川龍之介の命日でもあるのですが、芦屋市ルナ・ホールで催された残月祭の報告でした。残月祭のあとは男ばっか五人で三宮に赴き、そこらの適当な店でお酒を飲みました。ちなみに阪神と近鉄の相互乗り入れが実現したおかげで、阪神三宮駅から近鉄名張駅までただ一度の乗り換えで帰れるようになりました。とても便利なり。
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