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Nabari Ningaikyo Blog
Posted by - 2024.11.25,Mon
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Posted by 中 相作 - 2016.08.29,Mon

 忙しい忙しい、ああ忙しい、とか思ってるあいだに「TRICKSTER」が連載されてる「マガジンSPECIAL」、9月号は買ったんですけど8月号を買いそびれていたことに気がつきました。

 このまま忘れてしまいそうな予感もいたしますので、とりあえずいっこ前のエントリに8月号のデータ、わかるところだけ記録しておきましたけど、あれは増刊として発行されてるわけですから、巻数はわかっても号数はわからない。

 本屋さんに取り寄せてもらえばいいんですけど、いつかも記しましたとおり、最近その手のことが億劫でしかたがありません。

 寄る年波というやつでしょうか。

 あるいは猛暑の疲れか。

 いずれにせよどうにもすっきりしない台風前夜です。

 というか、朝なんですけど。

 さて、一昨年は乱歩生誕百二十年、昨年は乱歩没後五十年、そして今年は奇譚百年ということになりました。

 乱歩が早稲田大学の卒業を控えた大正5年3月に完成させた手製本『奇譚』が、ちょうど百年の時を隔てて世に送られます。

 時をかける乱歩。

 愛は輝く舟。

 表紙がこれです。

 
 百年も前の手製本の表紙だとはとても思えない鮮やかさですけど、原本のスキャン画像を画像加工ソフトでリメイクしたものででもありましょうか。

 私にはよくわかりません。

 というか、私はまだただの一度も『奇譚』の現物を目にしたことがありません。

 こんなことでいいのか、とも思いますけど、こんなことでも『奇譚』書籍化の作業がすらすら進むのですから、関係方面における技術の進歩には瞠目すべきものがあります。

 で、『奇譚』とはなにか。

 乱歩の処女作なり、ということになります。

 むろん小説の処女作は「二銭銅貨」なんですけど、あれはなんとも処女作らしくない処女作なのではないかしら。

 この世には処女作にまつわる根拠のさだかならぬエピグラムめいたフレーズが存在していて、試みに「処女作には」でグーグル検索したところ、トップでひっかかってきたのがこれでした。

 愛・蔵太の気になるメモ(homines id quod volunt credunt):「処女作にはその作家のすべてがあると言われているが」って、いつ誰がどこで何時何分何秒に言った!(2006-08-27)

 いわく、処女作には、その作家のすべてが出揃っている。

 またいわく、処女作にはその作家のすべてが詰まっている。

 またまたいわく、処女作には、その作家のすべてが表れる。

 またまたまたいわく、処女作にはその作家の今後のすべてが含まれている。

 またまたまたまたいわく、処女作には、その作家の初心がこもっている。

 またまたまたまたまたいわく、一人の作家は、彼の処女作の呪縛から終生のがれることはできないのだ。

 またまたまたまたまたまたいわく、作家は処女作に向かって成熟する。

 またまたまたまたまたまたまたいわく、処女作は作家の人生まで支配する。

 またまたまたまたまたまたまたまたいわく、処女作には、その作家のすべてが含まれている。

 といったようなことが巷間いい伝えられているらしいんですけど、私にはもうずいぶん以前から、「二銭銅貨」という作品はどうもそうした処女作伝承からかなりはずれた場所に位置しているのではないかという気がしておりました。

 むろん、いかにも処女作だ、みたいなことをいってる人もいて、新潮文庫『江戸川乱歩傑作選』の解説で、ちなみにこれは昭和35年に執筆された文章ですけど、荒正人はこんなことを記しています。

なお、結末のどんでん返しは、乱歩が得意とするもので、その後繰り返し使っている。処女作には、作家の本質がおのずと現れるものらしい。

 ちょっと乱暴な論断ですけど、それはさておき、小説のみならず評論や翻訳、あるいは書誌といった乱歩の文業全体を視野に入れて考えれば、「二銭銅貨」ではなくて『奇譚』こそが処女作、みたいなことになるのではないかと思われます。
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