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Posted by 中 相作 - 2011.06.02,Thu

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YOMIURI ONLINE

 平成23・2011年5月30日  読売新聞社

 

『探偵小説の室内』 柏木博著

 野家啓一

 Home > 本よみうり堂 > 書評 > 記事

 

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『探偵小説の室内』 柏木博著

 

評・野家啓一(科学哲学者・東北大教授)

 

■20110602a.jpg

 

 探偵小説といえば密室殺人がつきもので、室内の見取図が欠かせない。

 

 だが著者は、室内が外部空間と同時に「インテリア=内面・精神」でもあるという視点から古今の小説を読み解く。「室内は、そこに生活する人の内面や精神が映し出される」からである。

 

 取り上げられる作品は、ドイル『緋色の研究』やクロフツ『樽』など探偵小説の古典から、橋本治『巡礼』やシュリンク『朗読者』など現代小説の佳品に及ぶ。

 

 たとえば江戸川乱歩『悪魔の紋章』を論じて話はポオ『アルンハイムの地所』に転じ、そこに描かれた風景が内臓(インターナルズ)にほかならないことが、中井久夫(精神医学)や中野美代子(中国文学)のエッセイを手がかりに明らかにされる。鮮やかな手並みは著者の面目躍如といったところである。

 

 さらに水村美苗『私小説』を、漲みなぎる喪失感を梃子てこに「家族の記憶のデータベースとしての室内の喪失を深層に置いた小説」と読むなど、思わず唸うならされる指摘も数多い。

 

 「室内」を導きの糸として紡ぎ出された読書案内としても興味深い一冊である。(白水社、2400円)

 

(2011年5月30日  読売新聞)

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