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Posted by 中 相作 - 2016.04.18,Mon
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 平成28・2016年4月15日 読売新聞社

「押絵と旅する男」魚津の浜(魚津市)
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舞台を歩く

「押絵と旅する男」魚津の浜(魚津市)

2016年04月15日

不思議な景色が見える浜



蜃気楼を待つ人々。乱歩もこの近くの浜辺を歩いたのだろうか

 一度だけ、蜃気楼しんきろうを見たことがある。3年前の5月、魚津の海岸線を走行していたところ、道路沿いに人々が群がり、みな同じ方向を向いているではないか。急ぎ「海の駅蜃気楼」へと向かい、その奇観に遭遇した。「Cランク」ではあったが、肉眼で十分確認できた。魚津埋没林博物館に立ち寄り、蜃気楼を見た「証明書」をもらって興奮しながら家路についたものだ。

 江戸川乱歩の描く蜃気楼は妖しく、そして恐ろしい。魚津で蜃気楼を見た「私」は、その後、「魚津の駅」から乗った汽車の中で男と出会い、不思議な話を聞かされる。見えるはずのないものが見える魚津は、あやかしの世界へといざなう入り口だ。

 小説では「魚津の浜」としか書かれておらず、舞台となった場所を特定するのは難しいが、蜃気楼を見るなら富山湾全体を見渡せる魚津港周辺の海岸が最も良いとされ、魚津市ではこの一帯を「蜃気楼展望地点」に指定している。出現予測の高い日には三脚が林立し、カメラマンたちが待ち構える光景は春の風物詩でもある。

 たとえ条件がそろっても、なかなか見られないのが蜃気楼。そんな時は隣接する埋没林博物館を訪れるのもお薦めだ。蜃気楼の展示も充実しており、中でもハイビジョンの映像は必見。乱歩が「不可思議な大気のレンズ仕掛け」と表現したのも納得だ。

 「押絵と旅する男」が発表される数年前、乱歩は日本海沿岸など各地を放浪する旅に出ている。乱歩もこの浜辺を歩いたのだろうか。当時とは景色も変わってしまっただろう。それでも、蜃気楼の不思議な魔力はいまも変わらず、私たちをとりこにするのだ。



魚津港に隣接する魚津埋没林博物館。富山湾を一望できるこの一帯が蜃気楼展望地点に指定されている


  ◇ ◇ ◇

 ★小説「押絵と旅する男」

 江戸川乱歩作。魚津で蜃気楼を見た「私」は、帰りの汽車で押絵を持つ男と出会い、不思議な話を聞かされる。映画化もされた乱歩の代表作の一つ。1929年発表。

2016年04月15日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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