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Posted by 中 相作 - 2016.03.17,Thu
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MOVIE Collection
 平成28・2016年3月12日 キッチュ

【映画を聴く】前編/日本のアイドル文化に漂う薄幸さとは? 長山洋子や美輪明宏の曲が使われた絶賛スペイン映画
 伊藤隆剛
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(2016年 3月 12日)

【映画を聴く】前編/日本のアイドル文化に漂う薄幸さとは? 長山洋子や美輪明宏の曲が使われた絶賛スペイン映画



『マジカル・ガール』
Una producción de Aquí y Allí Films, España. Todos los derechos reservados©

[ムビコレNEWS]  『マジカル・ガール』

オープニングで流れる曲がアイドル時代の長山洋子のデビュー曲「春はSA・RA・SA・RA」、エンディング・テーマはピンク・マルティーニによる美輪明宏のカヴァー「黒蜥蜴の唄」。新人監督のカルロス・ベルムトによるスペイン映画『マジカル・ガール』は、そんな意表を突く演出と先の読めないストーリー展開、洗練された映像美で見る者をぐいぐい引き寄せる最新鋭のフィルム・ノワールだ。

誰かへの愛のために行動を起こしたはずなのに、それが思いもよらぬ方向へ独り歩きし、本人たちにもコントロールできないほど大きな出来事に膨れ上がっていく。複雑に絡み合う人間関係や時系列をすっきり整然と分かりやすく見せてしまう構成力がまず素晴らしく、ペドロ・アルモドバル監督ほか世界中から賛辞の声が多く寄せられているのも納得できる。

「春はSA・RA・SA・RA」や「黒蜥蜴の唄」といった楽曲が使われているのは、ベルムト監督が大の日本フリークだから。日本の文化全般に造詣が深く、好きな映画監督は黒澤や小津のほか新藤兼人、寺山修司、大島渚、今村昌平、勅使河原宏など。現代でも園子温、岩井俊二、塚本晋也らを敬愛しているという。こういった並びを見るだけで、最近までのかなり広範な日本映画をチェックしているようだ。

そのほか「聖闘士星矢」、手塚治虫、水木しげる、丸尾末広、浦沢直樹らのコミックも大好物で、「ドラゴンボール」にいたっては愛するあまりに本家を再解釈した「Comic Dragon」というコミックを自分で出版している(彼はもともとイラストレーターでもある)。好きな日本人ミュージシャンは浅川マキだというから、そのマニアぶりは徹底している。(後編へ続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)

【映画を聴く】後編/日本のアイドル文化に漂う薄幸さとは? 長山洋子や美輪明宏の曲が使われた絶賛スペイン映画

(…前編より続く)

劇中では長山洋子や美輪明宏の曲以外にも随所で日本文化へのオマージュが散りばめられている。白血病を患う12歳の少女アリシアは、架空の日本アニメ「魔法少女ユキコ」の大ファン。そのコスチュームに憧れる彼女の思いから物語は転がっていくことになる。また、心を病んだヒロインのバルバラが訪れる謎の豪邸には、江戸川乱歩「黒蜥蜴」を想起させるマークを掲げた謎の部屋が。この部屋の存在も、本作にいっそうミステリアスな雰囲気を加味している。

江戸川乱歩つながりで「黒蜥蜴の唄」が選ばれるのは理解できるとして、どうして長山洋子なのか? しかも「春はSA・RA・SA・RA」なのか? 今や演歌ではベテランと言っていい存在だが、本人もまさか自分のアイドル時代のデビュー曲が、遠くスペインで撮られた映画に使われるとは思わなかっただろう(映画の公式サイトに驚き&喜びのコメントを寄せている)。

カルロス・ベルムト監督がこの曲を見つけたのはまったくの偶然だったらしく、先の「魔法少女ユキコ」の主題歌として耳に残る日本の歌を探している時に出合ったと語っている。ベルムト監督から見ると日本のアイドル文化はかなり特殊で、人形のように歌わされている姿がある種の不幸に思えるという。そういった舞台裏の“影”が色濃く感じられる曲として、いかにもアイドルというキラキラした光に満ちたこの曲が選ばれたわけだ。

しかし、実はこの「春はSA・RA・SA・RA」はカヴァーで、オリジナルはEINIというフィンランドの歌手の「Kiitävän hetken hurma」という曲だったりする。北欧で生まれた楽曲が日本を経由してスペインへ辿り着くというのが、映画の構造と同様にある種の“捻れ”を含んでいて興味深い。

本作では、登場人物のダミアンがパズルのピースを埋めていくシーンが象徴的に何度か挟み込まれるのだが、最後の1ピースが埋まらず、その隙間が次第に全体を崩していくことになる。悲劇とも喜劇とも言えないエンディングまで含め、どこまでもダークで奇妙。これまでにない群像劇としても一見の価値ありだ。(文:伊藤隆剛/ライター)

『マジカル・ガール』は3月12日より公開。

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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