Nabari Ningaikyo Blog
Posted by 中 相作 - 2016.01.10,Sun
寒い日がつづきますけど、お元気でいらっしゃいますか。
私は小学館の江戸川乱歩電子全集第一巻『明智小五郎登場編』、表紙から「猟奇の果」を経て付録、奥付に至るまでまるっと読了いたしました。この巻の「猟奇の果」には、「もうひとつの結末」というのも収録されています。
戦後すぐに出た日正書房版のテキストで、電子全集第一巻には「昭和21(1946)年12月、後篇を全部カットして前篇のあとに短い結末をつけた別バージョン」との説明が添えられています。
「猟奇の果」は昭和5年、「文芸倶楽部」の1月号から12月号まで十二回にわたって連載されました。
電子全集第一巻には桃源社版全集の「あとがき」も収められていますが、「猟奇の果」の自作解説に、乱歩はこんなことを書いています。
前篇「獵奇の果」の方は「闇に蠢く」や「湖畔亭」などと同じような心構えで書きはじめたのだが、題材が充分醱酵していなかったので、なんだかモタモタして、ほとんど効果が出ないうちに、終局に近づいてしまった。全く同じ顔の人間が二人いたというのは、実は科学雑誌社長の獵奇の果の手の込んだいたずらにすぎず、最後にその種あかしをするという、私の短篇「赤い部屋」に類する着想であった。ポーの「ウィリアム・ウィルソン」テーマを、逆にトリックとして使った探偵小説をこころざしたのである。
ところが、うまく書けなくて、一年の連載のはずが半年で終わりそうになったから大変です。
乱歩は「文芸倶楽部」編集長の横溝正史に相談の電話を入れ、正史の提案に従って講談社風でルパン式の後篇「白蝙蝠」を書き継いだわけですけど、日正書房版の「猟奇の果」は手の込んだいたずらという当初の構想を復活させた内容になっています。
電子全集第一巻には、「白蝙蝠」として発表された後半をAバージョン、日正書房版で前篇のあとに書き加えられた新稿をBバージョンとして、前篇の末尾にA、Bそれぞれへのリンクを設定するという電子書籍ならではの仕掛けが施されていますが、かりに乱歩が当初の構想どおり「前篇→Bバージョン」という「猟奇の果」を完成させていたら、それは「幽霊塔」ではなくて「ぺてん師と空気男」の遠い先蹤ということになっていたのかもしれません。
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