サンデー先生の平熱教室、きのうのつづきだ。
乱歩の生誕地にある公共図書館が、乱歩の全作品を読むことのできる図書館をめざす、ということにかんしては、とくに異論もないのではないかと思われる。
読むといっても、最近では、本や雑誌ではなくて、パソコンで読むことも可能になっている。
テキストが電子データ化されていれば、パソコンの画面でも、あるいは各種のいわゆるデバイスでも、気軽に読むことができる。
電子データや電子書籍を、図書館はどう扱うべきか。
三重県立図書館では模索がはじまっている。
▼中日新聞:「電子書籍」導入へ調査 県立図書館、携帯端末を試験運用へ(2011年5月5日)
佐賀県の武雄市は、こんな実験を開始した。
▼毎日jp:iPad:佐賀・武雄市が図書館の本を読めるサービス(2011年4月14日)
日本では昨年が電子書籍元年だと喧伝され、アップルのiPadやアマゾンのキンドルが発売されて、じつは不肖サンデーもキンドルを購入した。
▼2010年9月10日:キンドルきたー!
とはいえ、現時点では、国内で電子書籍が普及してとはとてもいえない状況だ。
しかし、アメリカでは、とうとうこんなことになったと報じられている。
▼CNN.co.jp:電子書籍の売上高、「紙の本」を上回る 全米書籍市場で初(2011年4月17日)
もっとも、電子書籍が登場する以前から、パソコンで文芸作品を読むことはごくあたりまえにおこなわれていて、電子データ化したテキストをずらりと取り揃えたネット上の図書館、とでも呼ぶべきサイトも運営されていた。
▼青空文庫:ホーム
不肖サンデーもかなり以前、乱歩の全作品を電子データ化して名張市立図書館の公式サイトに掲載することを思いつき、あるところで図書館関係者のかたにお会いしたとき、「乱歩の著作権が切れたら、全作品の初出本文を名張市立図書館の公式サイトで公開するのも一興かと思う」と話したところ、「それはなかなか面白い。国の補助金が出るかもしれないから、調べてみてはどうか」とのアドバイスを頂戴したものであったが、おなじことを名張市立図書館の関係者に話したところ、「しょ、しょ、しょしゅつてなんですのどな中さん」とかいわれて軽いめまいをおぼえた。
どうして初出か、というと、ひとつには、一般に流布している乱歩作品が初出テキストではない、ということがある。
だから、かりに乱歩の著作権が切れ、乱歩作品がそこらの流布本にもとづいて青空文庫あたりに収録された場合、初出と流布本の異同を確認できることになる。
もうひとつ、初出しかない作品がある、ということもある。
どこかに発表されたまま、単行本にも全集にも収録されなかった作品というのが確実に存在しているのだから、テキストは初出ということで統一しておくのがいいのではないか。
いずれにせよ、名張市立図書館が乱歩作品を電子データ化し、著作権が切れるのを待って、全作品を網羅した電子版乱歩全集をネット上で公開すれば、世界中どこにいても乱歩作品が読めることになるわけだ。
乱歩作品をパブリックドメインとして長く保護し、ひろく提供してゆくことは、乱歩の全作品を読むことができる図書館のサービスにふさわしいものと判断される。
三重県立図書館が「これだけパソコンが普及する中、紙だけではなく、県民に多様な選択肢を用意するのが、県立図書館の役割だ。従来の書籍と組み合わせた上でサービスを提供していきたい」としているのは当然の話で、時代の流れに棹さすことは必要だと思われるが、名張市立図書館が電子書籍についてどう考えているのか、それは不肖サンデーの知るところではない。
なにも考えてないのかもしれない。
たぶんそうだろう。
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