真夜中に咲くテレビアニメ

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　平成27・2015年8月2日　東京新聞社（中日新聞東京本社）

真夜中に咲くテレビアニメ
　鈴木学
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真夜中に咲くテレビアニメ

2015年8月2日 朝刊



　真夜中にふとつけたテレビで、アニメ番組に見入った経験はないだろうか。土曜日曜の朝夕に放送されるアニメとは明らかに異なる趣。多くの局が現在、こぞって深夜にアニメを放送している。作品が多いことには、それなりの理由があるらしい。　（鈴木学）

　「ＭＯＮＳＴＥＲ」（二〇〇四～〇五年、日テレ）、「ＤＥＡＴＨ　ＮＯＴＥ」（〇六～〇七年、同）、「のだめカンタービレ」（〇七年、フジ）、「けいおん！」（〇九年、ＴＢＳ）、「進撃の巨人」（一三年、東京ＭＸテレビ）。深夜に放送されたアニメ作品の一部だ。原作も人気で、ドラマ化や実写映画化された作品もある。

　アニメ評論家の藤津亮太さん（４６）によると、一九九七年にテレビ東京が再放送した「新世紀エヴァンゲリオン」が高視聴率をマークしたことから深夜枠の開拓が進んだ。試しに七月十三日から一週間、番組表でアニメ番組を数えてみた。

　ＮＨＫと民放五局（日テレ、テレ朝、ＴＢＳ、テレ東、フジ）の地上波で五分以上のアニメ番組は少なくとも七十タイトルあり、放送時間は約二千分（週内の再放送を含まず）。うちプライムタイム（午後七～十一時）以降は十三タイトルで計三百七十五分。深夜アニメの割合は２０％ほどだが、話題性やインパクトの強さもあり、感覚的な割合はもっと大きい印象だ。

　局の色もあって、例えば日テレは重厚、ＴＢＳは萌（も）え系、フジはとがった作品が多いという。全国に系列局を持たない独立局のＭＸテレビはアニメ番組が多く、深夜ではタイトル、時間ともＮＨＫと民放計六局の二倍に上った。

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　放送が深夜とあって、バイオレンスなどの描写も原作に遜色なくでき、目の肥えたファンも満足させた。さらに「ハチクロ」の略称で愛された「ハチミツとクローバー」（〇五年、フジ）、「Ｐａｒａｄｉｓｅ　Ｋｉｓｓ」（同）など、女性向け漫画もアニメ化されたことで「若い男性社会人や大学生が主なターゲットだった深夜のアニメが、女性も満足させるものになった」と、アニメ研究家の原口正宏さん（５３）は指摘する。

　人気になった「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」（略称「あの花」、一一年、フジ）は劇場版も興行収入十億円のヒット。舞台のモデルとなった埼玉・秩父で、町ぐるみのイベントが開かれるなど広がりも出た。

　一方で、ゴールデンタイム（午後七～十時）の視聴率環境は厳しく、原口さんは「多くの局が午後六、七時台のアニメから撤退した」とも。冒険的な作品は深夜、子ども向け作品は土日の午前に、とすみ分けが進んでいるという。

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　複数の会社で出資してリスクを分散させる製作委員会方式が普及し、製作本数は〇五年まで増加。しかし、日本動画協会によると、市場の伸びに限界が見え始めたことで、アニメバブルは〇六年にいったん終結、減少に転じたという。その後、一一年から取り回しのいい一クール（三カ月）の作品や十五分、五分の番組が増加するなどして再び右肩上がりになっている。

　深夜アニメは映像ソフトの販売が目的で、放送はいわば「ショーケース」（藤津さん）。好みの作品なら手元に置いておきたいのがファン心理という。ただし、業界としては一部のヒット作で残りの作品の赤字を埋める構造となっており、市場は近年、横ばい状態という。

　インターネットサービスの普及に伴って動画配信は伸びている。深夜アニメの今後をどう見るか。藤津さんは「すぐにではないだろうが、別のショーケースが出てくれば、テレビに取って代わる可能性もある」とみている。

◆質の高い「アニメの月９」に　ノイタミナ森彬俊編集長

　フジは深夜のアニメ枠を「ノイタミナ」（木曜深夜０時５５分～）と名付け、２００５年に人気漫画「ハチミツとクローバー」からスタートした。漫画原作だけでなく、オリジナル作品でもヒットを生み出してきた。ノイタミナ編集長の森彬俊（あきとし）さん（３０）に話を聞いた。

　－コンセプトは。

　アキバカルチャーのいわゆる「オタク」向けと、ジブリやファミリー向けの間を狙った。そして「アニメの月９」。恋愛ものという意味ではなく、一つのブランドにしようと。「エッジが効いた」（先鋭的）作品も多く、他局と差別化は図れていると思う。

　－こだわりは。

　「これをアニメに」という鮮烈さのある作品、例えば文芸・小説を原作にしたり。「この監督で、この脚本家で」と化学反応を期待した作り方もする。作品に信頼を得てきているので変なモノは作れないし、結果も出していかなければならない。クオリティーが高く、音楽もいわゆるアニメソングではない一般性を意識している。

　－４月から放送を２作品から１作品にしたが。

　劇場版に力を入れる狙い。アニメ自体のクオリティーも上げたい。企画立案から放送までに、原作もので１年ほど、オリジナル作品なら２、３年かかる。オリジナルは原作がある作品と違って先が見えず、冒険ではあるけれど、視聴者に受け入れてもらった時には大きな作品になる。

＜ノイタミナ＞　フジテレビ深夜アニメの放送枠の名称。ノイタミナは、Ａｎｉｍａｔｉｏｎ（アニメーション）をローマ字で逆さ読みした。「ハチクロ」など漫画原作のほか、「東海道四谷怪談」などの古典ホラーを独自解釈した「怪～ａｙａｋａｓｈｉ～」（２００６年）、幼なじみの死を引きずる高校生たちの恋や友情を描いた「あの花」などのオリジナル作品もある。最高視聴率は、０８年「のだめカンタービレ　巴里編」第９話の６．６％（ビデオリサーチ調べ、関東地区）。現在は江戸川乱歩の作品群を原案とした「乱歩奇譚（きたん）」を放送中。