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Posted by 中 相作 - 2015.08.05,Wed
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毎日新聞
 平成27・2015年8月2日 毎日新聞社

今週の本棚:井波律子・評 『幽霊塔』=江戸川乱歩・著、宮崎駿・口絵
 井波律子
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今週の本棚:井波律子・評 『幽霊塔』=江戸川乱歩・著、宮崎駿・口絵

毎日新聞 2015年08月02日 東京朝刊

 (岩波書店・2160円)

 ◇好奇心掘り起こし目覚めさせる力

 江戸川乱歩の「幽霊塔」は、昭和十二年一月号から十三年四月号まで『講談倶楽部(くらぶ)』に連載された。以来、単行本、全集本、文庫本など、さまざまな形で刊行され、今に至るまで読まれている。今回刊行されたこの本の特徴は、巻頭に宮崎駿の口絵が十六頁(ページ)にわたって掲載され、読者を『幽霊塔』の物語世界に導入する絶好の水先案内となっていることである。

 宮崎駿の口絵は、緻密な筆致で描かれた幽霊塔の各層断面図、少年時代の乱歩が熱中した黒岩涙香(るいこう)の翻案小説『幽霊塔』、近年ようやく判明した原本のアリス・ウィリアムスンの『灰色の女』といった、乱歩本『幽霊塔』成立の前史の絵解き、はては冒頭部の細かなコンテ等々、まさに至れり尽くせり、宮崎駿が少年時代から乱歩本にいかに深く魅せられていたかを、如実に物語っており、圧巻というほかない。ちなみに、乱歩には『貼雑(はりまぜ)年譜』という生涯の記録があり、驚くべき精度の高さで描かれたスケッチなど多くの図版が含まれている。ここには、宮崎駿の口絵とも共通する、憑(つ)かれたような熱中癖が見て取れる。

 乱歩本『幽霊塔』の物語世界は、大正時代の長崎の片田舎を舞台に、主人公の青年の叔父(退職判事)が、江戸時代の豪商が建てた不可思議な時計塔のそびえたつ、古風な屋敷を買い取ったところから開幕する。この古風な屋敷にはいわくがあり、まず豪商はこの時計塔に財宝を隠したものの、迷路から出られず、消息を絶つ。ついで、縁者の老婆が養女とともにここに住むが、養女に殺害され、逮捕された養女は獄中死する。

 主人公は叔父の命をうけ、この不気味な屋敷を調査に訪れ、そこで謎の美女に出会う。これを皮切りに、主人公の意地の悪い許嫁(いいなずけ)、美女の過去と関係のありそうな青年紳士、美女を熱愛する中年弁護士など、一筋縄でゆかないしたたかな者たちが複雑に絡むなかで、主人公と美女はいつしか心を通わせるようになる。やがて、スリリングな事件が次々に起こり、錯綜(さくそう)をきわめるうち、物語世界はじりじりと時計塔の秘密の核心に迫る。かくして主人公と美女は、ついに時計塔の探訪を経て地底の宝庫にたどりつき、伝説の財宝を発見するに至る。謎の美女の正体も明かされ、物語は終幕の大団円となる。

 機械仕掛けの古めかしい時計塔の謎、地底の迷路、宝探し、整形による変身、美男美女の恋物語など、乱歩本『幽霊塔』は、まさに推理小説ならぬ探偵小説、冒険小説、つまりはエンターテインメントの定石をみごとに駆使した、快作といえよう。

 乱歩本『幽霊塔』はもともと『講談倶楽部』に連載されたことや、後に乱歩が少年向きの改訂版を著しているところから見ても、大人を対象に書いた作品であることは明らかだ。しかし、少年時代の宮崎駿が熱中したように、大勢の好奇心あふれる少年少女がひそかにこの本に読みふけり、波瀾(はらん)万丈の世界に魅了されたことも推測に難くない。そして、そんなかつての少年少女が何十年もの時を経て、ふたたびこの本を手に取り、やはり子供の頃と同様、想像力を刺激されることも大いにありうる。何を隠そう、私もその一人である。

 乱歩の『幽霊塔』は、このように大人のなかに今も流れる、好奇心あふれる子供の水脈を掘り起こし、目覚めさせる力があるのではなかろうか。この本の宮崎駿の克明を極める口絵群は、そんな大人のなかの子供に訴えかけ、目覚めさせる迫力に満ちている。
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