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Posted by 中 相作 - 2015.06.26,Fri
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日刊サイゾー
 平成27・2015年6月23日 サイゾー

江戸川乱歩の人気小説『パノラマ島奇談』の実写版『天国と地獄の美女』の肉欲の宴が忘れられない!!
 長野辰次
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2015.06.23 火

“江戸川乱歩の美女シリーズ”が初ブルーレイ化!

江戸川乱歩の人気小説『パノラマ島奇談』の実写版『天国と地獄の美女』の肉欲の宴が忘れられない!!



叶和貴子(当時25歳)が吹替えなしで、美しい肢体を披露した『天国と地獄の美女』。“江戸川乱歩の美女シリーズ”の中で最も人気が高い作品だ。

 今年7月に没後50年を迎える作家・江戸川乱歩。猟奇趣味、倒錯愛に満ちた乱歩の世界は、一度その世界に触れてしまった人たちの心を捉えて離さない。乱歩の世界を語る際に多くの人々が思い浮かべるのは、子どもの頃に読み親しんだ「少年探偵団」と「土曜ワイド劇場」(テレビ朝日系)で1977年から94年にわたってオンエアされた“江戸川乱歩の美女シリーズ”ではないだろうか。今年は乱歩の没後50年に加え、同シリーズの初代・明智小五郎を演じた天知茂の没後30年にあたることから、天知茂が主演した全25作品を収録したブルーレイボックスがキングレコードから発売される。

 大人の色香を漂わせた人気女優たちの入浴&ベッドシーンと数々の猟奇殺人シーンで視聴者の目をクギづけにした“江戸川乱歩の美女シリーズ”は、平均視聴率18%という人気ドラマだった。犯罪者たちが仕掛けるトリックや明智小五郎の変装のチープさに放送当時は思わず吹き出してしまったが、いま見直してみるとそんなキッチュさも愛おしい。中でもシリーズ第17作として1982年1月2日にオンエアされた『天国と地獄の美女』は、最も妖しい魅力に満ちた作品として強く推したい。天知茂、荒井注、五十嵐めぐみのレギュラー陣に加え、叶和貴子、伊東四朗、小池朝雄、宮下順子、水野久美ら豪華キャストが出演した二部構成の本作は、江戸川乱歩の初期の中編小説『パノラマ島奇談』を原作にしている。

 『パノラマ島奇談』は売れない作家・人見広介が自分にそっくりな財閥一家の主・菰田源三郎の土葬された死体と入れ替わって蘇生、そして菰田家の財産と美人妻を手に入れるという乱歩ならではの荒唐無稽な物語だ。しかし、『パノラマ島奇談』の面白さはミステリーとしての謎解きではない。大正15年(1926)に執筆が始まったこの小説にキラキラとした宝石のような不滅の輝きを与えているのは、主人公・人見広介が取り憑かれたユートピア願望なのだ。自分のイメージする“美の楽園”を地上に造り上げることを夢想する広介は、菰田家の全財産を湯水のように使いまくり、孤島を丸ごと人工のユートピアへと改造してしまう。自分の中に渦巻く妄想を実体化してしまう、ひとりの男の狂った情念に圧倒される。

江戸川乱歩の人気小説『パノラマ島奇談』の実写版『天国と地獄の美女』の肉欲の宴が忘れられない!!



パノラマ島建設に取り憑かれた男・人見広介を演じたのは伊東四朗。ロマンポルノで活躍した宮下順子も悪女役を熱演し、ドラマを盛り上げる。

 お正月の3時間特番としてお茶の間に届けられた『天国と地獄の美女』では、人見広介の、いや江戸川乱歩が夢想したユートピアの世界が具体的に映像化されている。菰田源三郎に成り済ました広介(伊東四朗)は源三郎の若妻・千代子(叶和貴子)を連れて、出来上がったばかりのパノラマ島を案内する。海底トンネルでは魚たちが回遊する様子が一望でき、巨大水槽では人魚たちの群舞かと見間違える妖艶な水中バレエが繰り広げられている。珍しい動植物たちが生息する地底の大平原をさらに進むと、最上層にある神殿では様々な人種の裸女たちが歌い踊っている。そこはエロティックさを極めた快楽のテーマパークだった。そして千代子はこの楽園の美しき女王さまとして祭り上げられる。本作の主人公はパノラマ島そのものであり、明智小五郎はパノラマ島で起きた出来事を視聴者に伝える語り部に過ぎない。

 本作を含め、天知茂主演作全25本のうち19本を演出したのは映画黄金期を支えた職人気質の井上梅次監督。京マチ子主演のミュージカル映画『黒蜥蜴』(62)などの乱歩作品を撮り、乱歩とも面識があったことから、製作会社の松竹に請われ、“江戸川乱歩の美女シリーズ”の初代ディレクターを務めた。放送が始まってまだ間もなかった「土曜ワイド劇場」には既成のテレビドラマとは異なる、プログラムピクチャーを思わせる独創的な面白さと猥雑な熱気があった。脚本は、ナイトクラブの専属歌手からシナリオライターへと転職したジェームス三木。“江戸川乱歩の美女シリーズ”では『黒蜥蜴』のリメイク『悪魔のような美女』(79)や夏樹陽子の裸体が眩しい『エマニエルの美女』(80)の脚本も手掛けており、どれも評価が高い。理想郷づくりに主眼が置かれていた乱歩の原作に対し、『天国と地獄の美女』では伊東四朗の片目をくりぬくなどのグロテスク描写を盛り込む大出血サービスぶり。隻眼に対するジェームス三木のこだわりは、のちにNHK大河ドラマ『独眼竜正宗』(87)として結実することになる。音楽は、石井輝男監督のカルト映画『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(69)にも参加していた鏑木創。そしてノンクレジットながら、駆け出し時代の三池崇史監督が助監督のひとりとして現場に入っていたことでも知られる。三池監督の自伝『監督中毒』(ぴあ出版)によると、『天国と地獄の美女』の撮影現場で井上監督に仕事ぶりを認められたことで、自分の居場所がつかめ、楽に仕事ができるようになったとある。やはり、パノラマ島は異能な人々が集まる桃源郷であるようだ。

江戸川乱歩の人気小説『パノラマ島奇談』の実写版『天国と地獄の美女』の肉欲の宴が忘れられない!!



この世の理想郷として建設されたパノラマ島だが、島から逃げ出そうとした者には悲惨な末路が待っていた。天国と地獄は表裏一体だった!

 売れない作家・人見広介だけでなく、多くの文人や芸術家たちが現実社会にユートピアを生み出すことを夢見た。白樺派の作家・有島武郎は父親から受け継いだ有島農場を小作人たちに無償開放することで、社会的ヒエラルキーのない理想世界の実現を思い描いた。だが、その翌年には有島は雑誌編集者の波多野秋子と心中することになる。若き日は画家を目指していたアドルフ・ヒトラーはベルリン陥落の直前まで、“世界首都ゲルマニア”の建設デッサンにいそしんだ。最期は愛人エヴァと地下壕で結婚式を挙げ、そして心中する。ユートピアを夢想するとき、人は心地よい陶酔感に酔いしれることができるが、夢の世界を一歩出ると現実社会のいびつさをより感じることになる。『天国と地獄の美女』に登場するパノラマ島は、人間が本来持っているエゴ、性欲、支配欲、暴力衝動をむきだしにさせた上で、それらを芸術として昇華し、解放してくれる。それこそが江戸川乱歩が憧れたユートピアなのだろう。龍の絵を描く際にいちばん最後に瞳に墨を入れるように、パノラマ島は最後の最後に鮮やかな彩りを加えることで荘厳なる理想郷として完成を果たす。
(文=長野辰次)



『江戸川乱歩の美女シリーズ』Blu-ray BOX
第1作『氷柱の美女』から第25作『黒真珠の女』まで、天知茂が主演した全25作品を収録。最新HDリマスターによって、人気女優たちのセクシーシーンを鮮明に蘇らせている。
発売元・販売元/キングレコード 6月24日(水)より発売
(c)松竹株式会社
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