支局長からの手紙：「乱歩ぱい」のイラスト ／三重

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　平成27・2015年6月22日　毎日新聞社

支局長からの手紙：「乱歩ぱい」のイラスト　／三重
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支局長からの手紙：「乱歩ぱい」のイラスト　／三重

毎日新聞　2015年06月22日　地方版

　名張出身の探偵小説家、江戸川乱歩（１８９４～１９６５）の生誕１２０年だった昨年は、１２月２３日の本欄で、乱歩のデビュー作の名を冠した煎餅「二銭銅貨」を取り上げました。没後５０年の今年は、もう一つの乱歩ゆかりの和菓子「乱歩ぱい」に焦点を当てます。

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　「実は発売から数年間は『乱歩ぱい』ではなく、『ランぽーパイ』だったんです。白い箱で、金色の商品名の下に、こんなイラストも描かれていました」。こう話すのは名張市箕曲中村に本社を置く和菓子の製造会社「さわ田」の三代目、澤田浩幸社長（３５）です。

　同社は、初代の故・主幸（しゅこう）さんが１９４８（昭和２３）年に名張市鍛冶町で創業。今では、現在地に移転した本社の工場直売店をはじめ、近鉄プラザ桔梗が丘店、イオン名張店、パークシティなばり店、アピタ名張店の計５店舗を運営します。

　「乱歩生誕の地で、乱歩にちなんだ商品を作りたい」と、２０年ほど前に「乱歩ぱい」を考案したのが、二代目の孝司（たかし）さん（７０）。当時、浩幸さんは松阪大（現・三重中京大）で経営学を学んでいましたが、父の「パイと、あんこを組み合わせて、新しいまんじゅうを作りたい」との意気込みを感じたとか。「先々代や先代が大きくした店を自分の代で閉じるのは、もったいない」と考え、卒業後に菓子職人の道へ。昨年９月、社長に就任しました。

　乱歩とのつながりについて、浩幸さんは「鍛冶町で中学生まで育ったので、乱歩生誕地碑が近く、碑がある『ひやわい』（細い路地）で、よく遊びました」と懐かしみます。私（記者）が「乱歩の作品は好きですか」と尋ねると、「実は少年探偵シリーズも、興味はあるけど、読んだことないんです」と苦笑い。

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　現在の「乱歩ぱい」のパッケージは、黒をバックに乱歩作品の代名詞である怪人二十面相のシルクハットとマントが金のストライプで表現され、洗練されたデザインです。浩幸さんも「文字を読まなくても、絵を見ただけで乱歩関連だと分かり、インパクトがある」と気に入っています。

　これに対し、冒頭で触れた古いイラストは、名探偵・明智小五郎と少年探偵団の小林芳雄団長が投げ輪で怪人二十面相を捕らえる場面がコミカルなタッチで描かれています。発売当初は白い菓子箱に金色で「ランぽーパイ」と書かれ、その下にイラストが添えられていたそう。しかし、売れ行きが思わしくなく、「ランぽーパイ」の商品名が乱歩関連だと分かりにくいとの指摘もあり、数年後、「乱歩ぱい」に変更。同時にコミカルなイラストをやめ、今のデザインに変えました。その結果、「売れ行きが全然違った。パッケージの力は大きいですね」と浩幸さん。

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　もちろん、見た目だけでなく、味にも、こだわっています。赤い包みのつぶあん、黄色い包みのカボチャあんの２種類あり、小豆もカボチャも北海道産。小豆は焼いても破裂しないよう工夫し、パイ生地は何層にも折りたたみ、手間をかけています。１個１３０円、１０個入り１４５０円。同社では、栗まんじゅうの「あれこわい」に次ぐヒット商品になりました。

　今月１～３日には、名張市の友好都市で、乱歩終えんの地でもある東京都豊島区の物産展に「乱歩ぱい」を出展し、「今年は乱歩没後５０年なので、イベントがあれば出したい」と抱負。さらに「時代によって、変えるところは変えますが、あんこなど、こだわる部分は、こだわっていきたい」と、若き三代目は熱く語りました。

　現在の「乱歩ぱい」のパッケージには「乱歩が描いた楽しい小説の世界に想いをよせてお作りしました」と書かれています。私も食べましたが、ほど良い甘さで、パイ生地と、あんこのバランスも絶妙です。私は、「和菓子なのに洋風だから、子どもも喜びそうだな。乱歩の世界を味で表現すると、こうなるのか」と、職人の技に感心しました。【名張支局長・村瀬達男】

〔伊賀版〕