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Posted by 中 相作 - 2015.05.03,Sun
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産経ニュース
 平成27・2015年4月30日 産経新聞社、産経デジタル

幻の画家「橘小夢展」 人の不可解さ暴く官能美
 渋沢和彦
 Home > ライフ > 学術・アート > 記事

2015.4.30 10:00

幻の画家「橘小夢展」 人の不可解さ暴く官能美

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「花魁」大正12年 個人蔵

 大正から昭和初期にかけて妖艶な絵を描いた画家、橘小夢(さゆめ)(1892~1970年)の回顧展が東京都文京区の弥生美術館で開かれている。

 日本画、版画、挿絵などが展示されているが、いかにも小夢らしいのが初期の代表作「花魁」だろう。杯を持つ細い指や体をくねらせたしぐさが妖しさを放っている。甲斐庄楠音(かいのしょう・ただおと)や岡本神草(しんそう)ら「大正デカダンス」といわれた画家と共通した退廃的な雰囲気がある。この作品は、関東大震災(大正12年)の8カ月前に描かれたが、秋田県の愛好家が所蔵していたため、幸運にも焼失を免れた。

 小夢は漢学者を父に秋田県で生まれた。少年時代から心臓を患い病弱だったため、好きな絵を描くことが許された。明治41年、16歳のときに上京し、黒田清輝から洋画の手ほどきを受けた後、川端画学校で日本画を学んだ。大正末から昭和初期には竹久夢二風の繊細な挿絵を描いて活躍した。

 昭和7年に版画の自費出版を開始するが、カッパに取りつかれて水底に沈んでいく女性を描いた「水魔」が発禁処分になってしまう。死を間近に恍惚とした表情は官能的ではあるが、いまの時代なら特別にエロチックでもない。作品が発表された前年に満州事変、同年には五・一五事件で犬養毅首相が暗殺されている。背景には思想統制の厳しい時代があった。

幻の画家「橘小夢展」 人の不可解さ暴く官能美

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 生涯、特定の画壇に属することはなかったが、耽美(たんび)的な作品は菊池寛や岡本綺堂ら文学者が好んだ。綺堂の『半七捕物帳』の装丁や江戸川乱歩作品の挿絵を手がけた。

 これまで画集も発行されず、資料も少ないことから「幻の画家」と呼ばれた。長らく埋もれていたが平成5年、弥生美術館で展覧会が開催され、徐々に知られるように。そして今回の展覧会に合わせて、初の画集が河出書房新社から出版された。

 心臓発作に苦しみ、長くは生きられないと言われていたが、77歳の天寿を全う。60代のころには魔性の女性を艶やかに描出した代表作「地獄太夫」を制作した。

 企画を担当した中村圭子学芸員は「テクニックがあり、これほどの妖しい女性を描く画家は珍しい。甘く官能的な絵は、人間の不可解さを暴き出している。もっと高く評価されていい」と話す。画集の出版や展覧会を機に作品の所在が明らかになり、ようやく画業の全貌が浮かび上がってきた。今後のさらなる研究が待たれる。(渋沢和彦)

                   ◇

 「橘小夢展」は6月28日まで。月曜休、一般900円。問い合わせは同美術館(電)03・3812・0012。



「水魔」昭和7年 個人蔵
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