Nabari Ningaikyo Blog
Posted by 中 相作 - 2015.04.10,Fri
たまには乱歩の話題を綴りたいと思います。
というか、先日の、というか、かなり以前のエントリのつづきです。どこのつづきか。
▼2015年2月26日:奇譚から探偵趣味へ
▼2015年3月01日:語り手の秘密ならびに海彼の黄金時代
ずいぶん長くご無沙汰していたわけですが、じつは「奇譚から探偵趣味へ」のあと、「探偵趣味から探偵小説へ」というのを書いて、それでおしまいにしようと考えておりましたところ、思いがけず「二銭銅貨」にひっかかってしまいました。
で、いまやもう完璧に「二銭銅貨」の成立過程が判明いたしました、といったような気がしないでもありませんので、以下に少々。
まず、乱歩は大正3年、ポーの「黄金虫」を読んで、驚愕に近い感じを受けました。
大正9年5月になって、「黄金虫」の圧倒的な影響のもと、乱歩は「二銭銅貨」の「荒筋」をまとめ、ほぼ同時期にその草稿を執筆しますが、この時点では、暗号はいまだ二重の解を与えられてはいませんでした。
翌10年、乱歩は「改造」3月号で谷崎潤一郎の「私」を読みました、かどうかは確認することができないのですが、これはもう、きっと読んだにちがいない、読まなかったはずがない、ということにしておきたいと思います。
谷崎といえば、港ヨコハマの神奈川近代文学館では4月4日、谷崎潤一郎展が開幕しました。
▼神奈川近代文学館:Home
さて、「私」を読んだ乱歩は、たぶんびっくりしたのではないかと思われます。
どんなところに驚いたのか、私という一人称の語り手のせりふから引いてみます。
君たちは善良な人たちだが、しかし不明の罪はどうしても君たちにあるんだよ。僕は此の間から幾度も幾度も正直な事を云ったじゃないか。
ねえ君、そうだろう、僕は決して一言半句もウソをつきはしなかったゞろう。ウソはつかないがなぜハッキリと本当の事を云わなかったんだと、君たちは云うかも知れない。やっぱり君等を欺して居たんだと思うかも知れない。しかし君、そこはぬすッとたる僕の身になって考えてもくれ給え。僕は悲しい事ではあるがどうしてもぬすッとだけは止められないんだ。けれども君等を欺すのは厭だったから、本当の事を出来るだけ廻りくどく云ったんだ。僕がぬすッとを止めない以上あれより正直にはなれないんだから、それを悟ってくれなかったのは君等が悪いんだよ。
「私」の語り手は、たしかにうそはついていませんが、ほんとのことをすべて喋っているわけでもありません。
で、はっはーん、と乱歩は思ったのではないか。
そういうのがありなら、「二銭銅貨」の暗号は、もっとすごいものにできるはずだ。
そこで乱歩は、暗号にふたつめの解を与えることにしました。
ひとつめの解は、六字名号=点字、という仕掛けに気がついたら、読者にもたどりつけるものです。
これすなわち、論理的に解ける謎、と称してよろしいでしょう。
しかし、ふたつめの解には、読者は逆立ちしたって到達できません。
八文字ずつ飛ばして読む、なんて仕掛けに、論理的に想到することは不可能です。
これすなわち、論理的な謎なんかではさらさらありません。
では、なにか。
秘密である、というしかないでしょう。
「私」の語り手と同様、というか、「私」の語り手の真似をして、と私は決めつけているわけなんですけど、「二銭銅貨」の語り手もまた、ほんとのことをすべて喋っていたわけではありませんでした。
語り手にすべてを喋らせず、秘密を抱えさせることで、乱歩はおおきに読者をびっくりさせたわけなんですけど、これすなわち、謎が論理的に解かれていったあと、予告も前触れも伏線も布石もなしに、いきなり秘密が暴露されたということであって、つまり「二銭銅貨」は、謎と論理の探偵小説として幕を閉じようとする寸前、プロットの奇を追い求める奇譚の世界に横滑りしてしまった、という寸法です。
「二銭銅貨」の暗号は、謎と秘密との奇怪なキメラのごときものであった、と申しあげておきたいと思います。
乱歩の生涯を一貫していたようにみえる謎と秘密の混同は、これこのとおり、「二銭銅貨」からも窺えるのではないかと思われます。
この項、つづきます。
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