Nabari Ningaikyo Blog
Posted by 中 相作 - 2014.11.01,Sat
はや、霜月と、なりにけり。
「伊賀一筆」第一号、なんとか10月中に校了にもちこみたいと念願していたのですが、いかんなあ、全然ではないか。朝もはよからよおカンテラさげてない、みたいな感じで「奇譚(抄)」のゲラ相手に半狂乱になっておりますと、自分はこのまま壊れてゆくのではないかという不安をおぼえてしまいますので、ここはひとつ気分転換のため、ルビのおはなしでも綴ることしたいと思います。
乱歩の「奇譚」にはルビがごくわずかに使用されていて、それはどういう場合かというと、書いた字がちょっと崩れて読みにくくなっちゃったな、みたいな漢字にルビを振ってあるわけです。
ですから、活字化したら、そんなルビは不要になります。
しかし、なにしろ乱歩が手ずから附したルビなんですから、あだやおろそかにはできないな、と思ってすべて生かし、それ以外にも、難読か? と思われる漢字には、こちらで新たにルビを加えているんですけど、これが結構面倒なの。
しかも、独特の用字というやつがあって、乱歩はたとえば「暗」と書いて「やみ」と読ませてます。
読ませてます、というか、読ませるつもりでいたようです。
それは前後の文脈から推測されるところですが、一般的に「無闇ニ」と表記されるところを「無暗ニ」と記したところがありますから、これはもう決まりだな、と思って、「暗」には「やみ」とルビを振りました。
似たような用字として、「へや」を「室」と書く、というのがあります。
あります、というか、あるらしいな、と私は思ってました。
一例をあげると、
「何時トモ知レズ仇ノ室ヘ日数ヲ記ス」
という文章があって、これはマーク・トウェーンの「A Double Barrelled Detective Story」を批評してるとこなんですけど、余談ながら、乱歩の「魔術師」に出てくる「幽霊通信」は、この「仇ノ室ヘ日数ヲ記ス」を巧みに流用したものだと思われます、というのは余談で、本筋に戻ると、「仇ノ室」の「室」は「へや」だろふつう、と私は思いました。
ですから、「室」には「へや」とルビを振りました。
で、さらに作業を進めてゆくと、こんな文章が出てきました。
「赤イガラス、赤イカーテン、赤イ壁、血ノ色ヲ連想スル第七室ハ誰レモ恐レテ入ラナカッタ。ソノ室カラ red death ノ仮面ヲ被ッタ一人ガヨロヨロト出タ」
お察しのとおり、ポーの著名な作品を批評したところですけど、ここには「室」がふたつ出てきます。最初の「第七室」は「だいななしつ」、次の「室」は「へや」だな、と思い、しかし、なんか変かな? と思ったその瞬間のことでした。
私は耳もとに、それは「しつ」だ、という神の声を聞いたような気がしました。
そのとき私は、YouTubeで片岡千恵蔵先生の「十三の眼」をみながら作業していたわけなんですけど、これはほんとにうそじゃなくて、「室」を「しつ」と読んでる声が聞こえたわけです。
論より証拠、ごらんください。
開始設定がきかないみたいですので、お手数ですが、28分15秒あたりから、手動でどうぞ。
「ぎんこさんのしつでおこえがしていたようですけど」
というせりふがあって、この「しつ」はすなわち「室」だと判断されます。
1947年公開の映画で「室(しつ)」が「部屋」の意味で使用されていたのか、と思って、手もとの辞書をひもといてみると、岩波国語辞典の「しつ【室】」には「室を出る」、つまり「しつをでる」という用例が示されているではありませんか。
「室」は「しつ」でいいのかよ、とやや焦り、新潮国語辞典を調べてみると、「シツ【室】」の用例は「個室」「皇室」「正室」のみ、三省堂の大辞林はというと、「しつ【室】」には「役員室」「開設準備室」「生活相談室」「家康の室」のほか、「室に入りて矛を操る」という後漢書の用例があげられていました。
ならば、と小学館の日本国語大辞典で「しつ【室】」の用例をみてみると、平家物語とか古事談とかそのあたりの引用でしたから、あまり役には立ちませんでした。
とはいえ、「室」に「へや」というルビを添えるのはちょっとやり過ぎだな、とは思われましたので、それまでに振ってあった「へや」というルビはすべて削除するにいたりました。
で、乱歩はたぶん、「室」を「しつ」と読んでいたのだろうな、といまは思います。
それでまあ、そんなこんなで、もう大変なの。
なので、作業が予定より遅れ気味で、はや、霜月と、なりにけり、みたいな。
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